第37話 裏ミーティング

休みが重なることが稀な、靖彦とサッちゃんが二人してカフェ・マリーに現れた。


わぁ!珍しいお二人が!

いらっしゃいませー!


サオリと美咲ちゃんが大喜びで出迎える。


「店長、テレビ見ましたー!素敵でしたよ」


「もう、その話はやめてよ。からかわれて大変なんだよ」


「相変わらず照れ屋ですね!」


サッちゃんはくすくす笑っている。


「店長何にするんですか?」


「サッちゃんは?」


「ニラのどれかですね」


「私もそれですね」


実は二人は、サオリが編み出したあるメニューが爆売れしていると聞き、調査に来たのだ。


サオリの家も農家だし、栗林農園では作っていないニラを使って新メニューを考えたという。


それらはすべて、特製ニラダレを使ったものであった。


豚の生姜焼き、卵焼き、野菜炒めの三種類で、特に生姜焼きはリピーターがすごいらしい。


大量のニラを刻み、ニンニク、醤油、生姜、ナンプラー、青唐辛子などで漬け込む。


それを料理にかけるだけなのだが、とんでもなく美味しいと評判だ。


靖彦が卵焼き、サッちゃんが生姜焼きを頼んだ。


「うん!これは、美味いな」


「ほーんと!酸味のバランスが見事です」


「このタレだけでご飯いけるわ」


「このタレで世界が広がりますね」


大絶賛である。


サオリは心配そうに見ていたが、二人の食べっぷりに安堵した表情。サッちゃんの実力は嫌というほど知っているだけに、やっぱり緊張していた。


…という一部始終をこっそり見届ける二人の影があることに、マリーの中の誰も気づいていない。


(小声)「わー、あの二人がランチ食べてるー」


(小声)「だから僕が言ったじゃない、ね?ね?」


ルリコとアイくんである。


靖彦はクラシックカーに乗ってるのですぐわかるのだ。


そっと二人は窓から離れる。


これは邪魔できないわ

一旦ケンちゃんちに逃げる?

あの二人、今日は秋葉原だもん

じゃあ、違うとこ行こう


二人はそーっとアイくんの車に乗り、カフェ・マリーから離れた。


「付き合ってんのかね?」


「そこまではわかんないけど、前からいい感じだったよ。寿賀子さんにも言ったけど、嘘ーって言われたんだ」


「たしかに、嘘ーってなるわ。いつもの二人しか知らないから、我々は」


「意外とたまにしか来ない僕の方がわかるんだよ」


「なるほどね。ニラダレの生姜焼きは食べられなかったけど、なんだかめでたいからいいか」


「タイ料理食べない?」


「いいね!」


アイくんの勘の良さを褒めながら、ルリコはニヤニヤするのを抑えられなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る