第19話 カレシ?

ケンちゃんとレオナちゃんは、その日オフだった。珍しく、丸一日なにもない。


滅多にねえな、こんな日!

ゆっくりしましょう♡


レオナちゃんがこう言うときは、私はずっとゲームをやるので邪魔しないでくださいね、の意である。


栗林家では、自分のメシは自分で、が掟。これから、どこかに食べに行こう。


ケンちゃんは、食べたいものがすぐに浮かんだ!


「俺、ルリコさんとこで、小松菜とエノキの卵とじ食べてくるわー」


先週野菜の配達に行った時、新メニューができたと聞いていたのだ。生産者として、どんな風に出されているのか気になっていた。


そして生産者ほど、生産している野菜食べない説がある。


「運命の輪」は日曜日なのもあり、いつもより女性客が目立つが、座席と座席のあいだにゆとりがあるので窮屈には感じない。


「あらー、ケンちゃんいらっしゃい」


ルリコがカウンターに座っていて、こちらに手を振った。


ども、ども。例のあれ、食べてみたくて。


ああ、卵とじね。


今日は寿賀子はお休みで、店長の靖彦がレジをやっていた。


「なに?新メニュー?卵とじって」


「あっ、先週出来たばかりだから食べてないね、アイくんは」


「あとで食べたいなー、作ってよ」


観葉植物で顔は見えなかったが、ルリコが若い男と喋っていた。


ケンちゃんは咳払いをし、水を飲んだ。


そして、レジ横の雑誌を取りに行こうとしつつ、素早く靖彦に聞いた。


「ああ、カレシでしょ、社長の。月にいっぺんくらい来ますよ」


靖彦は天気いいですねー、くらいの調子で返す。


えっ?

えっ?

えっ?

そ、そうなの?


「だいぶ若くねえ?」


「30そこそこじゃないですか。考古学者らしいですよ」


こうこ…へぇ…、知らなかった。レオナちゃん知ってんのかね?


そうこうしていると、小松菜とエノキの卵とじ定食が運ばれて来た。


小松菜とエノキはさっと茹でておく。

塩麹に漬けた豚バラを胡麻油で炒める。

そこに小松菜とエノキを入れ、溶き卵でとじる。


これが、今月の新メニュー選考会で勝ち抜いた一品である。


「うわぁー!美味そう♡」


美味いに決まってる!という顔でルリコが見ている。


んめー!んめー!最高だわ。

ケンちゃんは、自分の小松菜が、最高に美味くて感動していた。茎がしっかりしてんだ、俺んちのは。


「ルリちゃん、もう、俺も食べたい」


「はいはい。作ってくるね!」


観葉植物からひょこっと顔を出すイケメンと、目が合うケンちゃん。


はじめまして!

はじめまして!


緒川亜威といいます。いつもルリコさんからお話は伺ってます!健一さんですね?


は、は、はい。栗林健一です。


僕、東京に住んでまして、なかなか来られないんですけど、今度レオナハイツにお邪魔しますね。カフェ・マリーにも行ってみたくて。


は、は、は、は、ぜひ、ぜひ、ぜひ。


このイケメンは確かに、この辺りでは見かけない感じだ。


長髪で、作業着にTシャツだ。


何才で、何してるかわからない…あ、考古学者か。


「はーい、出来たよ、アイくん」


「わーい!いただきます!」


ケンちゃんとアイくん、挨拶したんだね、よかったわ。


ルリコはアイスコーヒーを片手にニコニコしていた。


ってことがあったんだよー、レオナちゃん。


ゲームを切り上げたレオナちゃんに、ケンちゃんはナポリタンのテイクアウトを渡した。


「カレシですね、ルリコさんの」


わー、美味しそう!そう言うと、レオナちゃんは早速食べはじめた。


ケンちゃんは思った。なんで、俺だけ驚いてんだ?






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