第46話 緒川家にてランチ

アイくんの苗字は緒川という。

結婚したとき、ルリコは石橋瑠璃子から、緒川瑠璃子になった。だからなんてこともないけど。


そんな緒川家では、久しぶりに夫婦が団欒のときを迎えていた。


メキシコのティカル遺跡の調査がひと段落し、アイくんが帰国したのだ。


「ほらー、だから僕が言ったでしょーが!」


「はいはい。恐れ入りましてございますよ、旦那さま」


「そうだろ、そうだろ、気分いいな、こりゃ」


「マジで、寿賀子もさすがだと言っていたよ」


「ほっほっほっほっ!そうだろ、そうだろ!なんだ、最高だな」


電話で報告はしていたものの、詳しい宴会の様子をスマホで見たアイくんは、やはり泣いてしまう。


「いやあ、靖彦さんが泣くなんてなぁー。本当に芯から感動したんだなぁー」


「それよ、それ。私もなんだか、信じられないほど心が揺さぶられたよ。人間の心、アイツにもあったんだって」


台所からいろんな音がしているが、サッちゃんの料理をデリバリーしている靖彦が、ランチのセッテイングをしている。


「靖彦店長。ほんとおめでとうございます!これお祝いです」


アイくんがインカのお守りと、南米産のティーセットを靖彦に贈った。


「わー、ありがとうございます、アイくん。かわいいね、コレ」


「色と柄がたくさんある中、悩んで選んできたんだよ。使ってもらえると嬉しい」


「使います!使います!サッちゃん、ハーブティー好きだから、喜ぶと思う」


靖彦は、本当に喜んでいるようだった。


「じゃあ、社長!帰ります」


「どうもありがとう、明日払うねー」


今日は、ケンちゃんとレオナちゃんがランチを食べに来るのだ。


ここのところイベントがたくさんで、あの2人とも会えてないなと思ったルリコが誘ったのだ。


「サッちゃん、ますます乗ってるわね!めちゃくちゃ美味しそうじゃないの。コレ写真撮って、営業に使おうっと」


人は幸せだと、自分の能力を伸ばすしかない。考えなくてもアイデアが生まれてきて仕方ないという、無双状態になるのだ。


「いらっしゃいー!2人とも、久しぶり!」


アイくんが玄関を開けると、野菜たっぷりの箱と、酒瓶を抱えたケンちゃんと、レオナちゃんが立っていた。元気そうだ。


「俺も見たかったなあー、店長泣いたんだっぺ?サオリさんに聞いてよう、俺も…」


「もう、そんなことばかり言ってると、自分も泣くことになりますよ!ケンイチさん」


レオナちゃんにたしなめられ、ケンちゃんは首をすくめた。


「まあ、その気持ちもわかるけどね。正直、結婚まで決めるとは私も予想外だったから。よほど、サッちゃんに心が温められたんだねー」


「よかったよねえ、あの2人。なんか、お似合いだよ」


「靖彦さん、優しい方ですよ。さりげなく親切にしてくれましたもの、初めて会った時から」


「そ、そうなの?レオナちゃん、なんかしてもらったの?」


「これと言って、というわけじゃない優しさなんです。私が大荷物だとパッと待ってくれたり、ルリコさんに用事ある時とない時がわかったり、ちょうど良い距離でいつもいてくださる…っていう感じが凄いなと思います」


うんうん、とうなずくルリコ。


気が利かないね、あんたは、と言ってた15年前から、確かに何も言わなくても何でもできてるようになっていたね。


「サッちゃんも、そういうところに惹かれたんだよね、きっと。わざとらしくない優しさに触れて」


アイくんがワインを注ぎながら言った。


ケンちゃんがなんだかしょんぼりしている。


「ケンちゃん?どしたの?」


「レオナちゃん、、」


「はい?」


「俺も、そういうことができるように、これから頑張っから!よろしく頼むな」


何だそれ?

あっはっはっ


レオナちゃんは目をまん丸にして、驚いていたが、ハイ!と答えていた。


いつもながら、、、とんだお惚気カップルだな


ルリコとアイくんは、白目になりつつ、


ハイハイハイハイ

そりゃ、もう、ラブラブNo. 1はあんたたちだよ


白ワインのグラスで乾杯した。


わー、サッちゃんの肉まきおにぎり美味しい♡


アイくん、あーん♡


どちらの夫婦もたいがいな、最高のランチとなった。



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