1-5 質疑応答
『千道。柑子さんから、色々聞いたらどうです?』と、勇者さんがこっそり話しかける。返事をする代わりに、テレスコメモリーを軽く叩く。餅歌は無反応なので、やはり彼の声は聞こえていないようだ。
「白鶴団長って、どんな方なの?」
「とってもカッコイイです!」と、両手を合わせて説明してくれる。
団長としての仕事は勿論、モデルや女優の仕事もこなせる。団員全員から慕われているようだ。正に、理想の上司が浮き出た存在である。
総団長が交渉しに行ってから、四日も経ったことを伝える。彼女は、一昨日までドラマ撮影だったようだ。単に、予定が合わなかった。あり得る話だと、腑に落ちた。
茶寓さんも、他の仕事をこなさないといけない。社畜のように働いているので、俺に連絡する暇などなかったのだろう。
「昨日、私たちの本拠地で、笑顔の茶寓サンにお会いしました! 仮面でよく見えなかったけれど、頬に赤い手形があったような?」
『凱嵐のビンタですね。一度は失敗した様子』と、望遠鏡から笑う息が漏れた。いったい、どうやって頷かせたのだろうか。俺のために、身体を張ってくれたのだ。今頃、机に突っ伏して泣いているのが、妙に想像できてしまう。
俺は白鶴団長に会いに行くので、必要な持ち物を聞く。すると、餅歌は申し訳なさそうな表情に変わった。
「今日は、会えないと思います……」と言われたので、驚いた。
無条件ではなく、とある条件を前提に承諾したらしい。それは、俺が『一緒に調査が出来る人材か』を確かめる、『適性検査』の合格である。
ソフィスタは、基本的には同じ団の人と行動する。たまに、他の団の人と調査するようだ。初めてだと、その団の試験に合格しないといけないらしい。馬が合わない方と一緒に依頼に行っても、失敗する可能性が高いからだろう。
「千道サンは、凱嵐サンの力が必要なんですか?」
「うん。絶対に必要なんだ」と言いながら、あの写真を横目に見る。合格したら、白鶴団長の所に持って行こうか。などと考えていると、目線に気付いた餅歌が手に取り凝視する。
「何も入ってませんね。このサイズだと、写真とかですかね?」
「も、餅歌……?」
「どうしましたか千道サン?」
「どうって、君は何を……」
『噓なんかついてねぇですよ』と、俺の言葉を遮ったのは、勇者さんだった。
彼曰く、この写真は千道と茶寓さんにしか見えてない。それは、お二人のことを知っているから。
本来ならば、世界中から存在を抹消されている。道理に叶っている彼女は、見えていないのは当然である。何か撮ったら入れると言って、会話を移させる。
「エレガンティーナイツは、どこの国にあるの?」
「ケルリアン王国という場所です。本で見ますか?」と言われたので、さっそく使用する。目次から一気に飛ぶ。こことは違い、気候が穏やかで自然も多いようだ。中央には、宮殿があるらしい。
他にも広大な大畑や、日頃から賑わうだろう横丁やスタジアム、様々な展示物がある美術館など、観光スポットが満載だ。それに伴い、ツアープランもバリエーションが豊富だ。
「何これ!?」と大きな声を出した俺は、指を差した。
その場所は、ピスティル空中庭園という花畑である。ケルリアン王国の領土であることには、変わりない。しかしここは、浮遊島だと教えられる。
ケルリアン王国の中で、一番人気の観光地である。特に、中央にあるクリムチック・テランスという花を見ようと訪れる人は、世界中からたくさん来るようだ。
全長約二百メートル。五つの巨大な花弁には、それぞれ別の細かい模様が描かれている。全ての色が違うが、どれも中心に向かって白色へと変わっていく、とても不思議で美しい花だ。実際に見てみたいと思ってしまうのも、納得する。
「ピスティル空中庭園は西側ですね。私たちの本拠地は南側です! ワープポイントの総数は、二十二個。世界から見ると、五十番目に多いんです。う~む、あまり誇れませんね?」
俺の中のミニチャレンジである、ワープポイントの制覇。この国は、達成できるか不安になって来た。だが登録しておいた方が、移動が楽になるに違いない。無理かもという諦めが出て来ると同時に、絶対に制覇してやるという闘志も沸いて来る。
「今から、南西側にある国立パルブ公園まで行きます。ここで、祝和クンと待ち合わせしているんですよ」
「シュクワクン?」
「
どうやら基本的には、非・戦闘団員と戦闘団員は、中々会えないらしい。管轄が内側と外側で、全然違うからだろう。彼女は、一ヶ月くらい前に、面白い話を聞かされたと話す。
『なんかさぁ、魔力が全くねぇ奴を助けた。情けねぇ
「えっ!? そ、それって!」
「はい! 千道サンのことだったんですね!」
「彼って、骨を出したりする?」
「もちろんです。彼は『骨』のソウルを宿しているので、ズバズバ切っていきます!」
なんという偶然なのだろうか! まさか、待ち合わせ人が彼だなんて。あの日から、約一ヶ月も経っている。俺は、助けてくれた日を鮮明に覚えている。向こうも同じだろうか。
「千道サン、珍しい魔道具を持っているんですね~」
「ん……あ、これ? テレスコメモリーって言うんだ」
「たくさん使い込まれていますね! 壊れていないのが、不思議です!」と言った餅歌が少し触れると、魔力を勝手に吸収し始めてしまう。でも、彼女は気にしてない様子だ。
「私は魔法薬が専門なので、あまり語れませんね」
「薬を作るの?」
「布団サンと一緒に!」
そう言われて、爆発の意味を理解した。大方、失敗した時に巻き起こる現象だろう。魔法薬というには、全般的に不味い。俺は毎日『翻訳薬』を飲んでいるのに、一向に慣れる気配がない。
餅歌はポケットから小瓶を出して、俺に手渡す。中には、青色の液体が入っている。見た目だけだと、飲もうとは思えない。『集中薬』というらしい。文字通り、集中力を上げられる。効果は三十分くらいだと、説明を受ける。お近づきの印として、もらうことにした。
俺はテレスコメモリーと一緒に、本と薬をリュックの中に入れる。餅歌と家を出た瞬間、目の前に布団さんが来た。窯に目なんか、ある訳が無い。だがなんとなく、見つめ合っている気がした。
「千道サンは、乗り物酔いとかしちゃいますか?」
「いや、大丈夫。参考書を読めるくらいだよ」
「そうですか! でも安全運転で行きますね!」と言った餅歌は、さっそく乗り込む。俺も布団さんに会釈してから、中に入る。元々は実験専用だったからか、底が結構ある。
「布団サン布団サン。ケルリアン王国まで戻りましょ~!」と言われた窯は、浮き始める。そして速度を出し、綺麗な海へ出ていく。摩擦抵抗を阻止する壁を作ってくれたので、どんなに速くなっても吹き飛ばされない。後ろを見ると、ゼントム国がどんどん小さくなっていった。
「今のうちに、ケルリアン王国をよく知っておこうかな。餅歌はどのワープポイントがオススメ?」と言った俺は、本を取り出す。
「やっぱり、オーブリー横丁ですね。良い代物がたくさ」
言い終わる前に、布団さんに魔力砲が直撃した。グラついたが、海の中には入らなかった。次の攻撃に備えて身体を縮こませ、警戒する。
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