1-5 地球への帰り方
一つ目は、英雄に頼む事らしい。彼女は十二年前に勇者さんと共に、ナイトメアに対抗した伝説の方である。
『君をここまで連れて来た張本人ですし。余裕でしょう』
「え、でも銀河をブチ抜いているんですよ?」
『余裕です。笑いながら成し遂げます』
「勇者さんって、英雄さんに絶大な信頼を置いてますね」
『えぇ勿論ですよ。とても尊敬している』
「どんな方だったんですか?」
そこからの勇者さんの語りは、凄まじいモノだった。
毎日ニコニコしているから周りも自然と笑顔になってしまうとか、負けると分かっていても強敵に立ち向かう度胸があるとか。入学初日に強盗を発見して即座に駆け付け、投げ飛ばされてもしがみつき、最終的には説得させた行動力の塊だったとか。
『すみません、話し過ぎました』
「英雄さん、アクティブな方だったんですね~」
『……未だに、いない事を受け入れられない』
茶寓さんの記憶によると。英雄さんはナイトメアを封印した時点で、既に限界を超えていたようだ。そして、勇者さんの目の前で力尽きてしまった。そして、彼はテレスコメモリーの中に閉じ込められた。
『もしも彼女が生きていたら、千道を巻き込まなくて済んだのかもしれない。ナイトメアを殺して、平穏な日常を送れていたのかもしれない……』
「でも、俺は地球で辛い経験しかしてないと思いますよ」
『それは……そうかもしれないけれど』
「この世界に来れて良かったって、場違いにも思っているんです。だから、真相を知りたい。英雄さんがどうやってナイトメアを封印させたのか、貴方や団長達とどんな想いで過ごしてきたのかを……全部、知りたい」
それこそが、俺が望んでいる事なのだ。地球に帰るのはその後で良い。今は、この杖の中で縮こまっている彼を支えて、八人の逸材の元へ向かわなければ。
『おれは、ここに居る所為で何も話せない。自力で見つけに行くのは、酷な道ですよ』
「それでも、突き進みます。たとえ『無理』と直感しても、負けると分かってしまっても。挑み続けてやりますよ」
勇者さんは、今の俺がどのように映っているのだろうか。まだまだ、理想が高いだけで頼りない少年にしか見えていないだろう。だから必ず英雄さんの様に、どんな宝石よりも輝く心星になる事を、ここに誓おう。
「いつか、英雄さんと勇者さんのソウルも、教えて下さいね!」
『話せたら。でも、先に分かっちまうと思いますよ』
「えぇ、そうですかね?」
何だろうな、全く予想もつかない。まだまだ、彼らの事を知らないからだろう。一緒に旅をしていたら分かってくる事を、願おう。
「話が逸れちゃいましたね。二つ目の方法は何ですか?」
『こっちの方が可能性が低いんですがね。銀河を渡るんですよ』
地球とユーサネイコーは、同じ惑星だ。だから、銀河のどこかに両者とも存在していると言うのが、前提だ。そうじゃなかったら、俺は帰れない。それでも良いけど。
『宇宙空間全てを網羅する程の魔力を手に入れるのが、一番ですね』
結構な荒業だが実行する為には、それ相応の魔力を死に物狂いでかき集めないといけない、という事だ。
「魔力量の推定は?」
『えーっと……ここに住んでいる人って【ターミナー】という魔道具を、色んな場面で使うんですよ』
手のひらサイズの、星の形をした硝子制の小瓶らしい。その中に魔力を保存しておく事が出来るようだ。そして満タンになったら、魔力が光り輝く仕様。
「それって便利じゃないですか!?」
ターミナーをいつも所持していれば、いつでもテレスコメモリーに魔力を吸収させる事が出来る。
つまり、俺はいつでも『決意』のソウルを発揮出来るじゃないか!
『茶寓から、空のターミナーを貰っておけば良かったですね』
「あ、確かに」
『まぁでもターミナーくらいなら、あのイカれた店に売ってるでしょう』
イカれた店と言うのは、十中八九『レットゥギャザー』の事だな。入団試験の時の衝撃を、未だに忘れていない。唐突に思い出しては、背筋がブルブルする。
「その、ターミナーの個数で表すと、どれくらい必要になりますか?」
『不可思議(10の64乗)くらい?』
「不可能じゃん」
想像が出来ないな。不可思議って、浜辺の砂粒よりも多いんじゃないか?
まさかこんな所で、クソデカ数字を聞く事になるとは。
『そして、他にも問題があります。仮に、地球が見つかったとしましょう。
だが既に無くなっているかもしれません』
「何十……いや、何百万もの光年を移動するから、爆発している可能性もあるって事ですよね」
さそり座のアンタレスみたいな感じだろうな。あれって既に、爆発しているって話だもんな。
『そうです。なので帰るには、千道が【秒速一光年分は進む】ようにしないといけません』
「燃え焦げて死にます」
『心配しなくても【ウェアエバーワンダー砲】っていう、古代の魔道具で解決します』
「俺が砲になるんですか?」
『そうです。勝手に【摩擦防止魔法】が施されるんで、燃え焦げませんよ。で、そのまま銀河をブチ抜く。これぞパーフェクト・プラン』
「本当に荒業だけど、理論的には出来そう」
『ま、それはブッ壊れちまったんですが』
この台詞を聞いて、俺はユーサネイコー永住生活を決心したのだった。
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