1-3 八つの団③

 少し拗ね気味の茶寓さんは『ハンドトゥルーラック』という文字を書く。ここは長い名前だな、頑張って覚えよう。



「ここは一番真面目で、喧嘩もしませんねぇ。良い功績を残しているので、信頼も高い。ここなら千道君でも」


『無理ですよ』


「ちょっと、勇者君ッ!! 頭ごなしに全否定する癖を直しなさいと、いつも言ってたでしょう!!」



 勇者さんは、少し否定的な考えを持ち気味らしい。彼の幼馴染である茶寓さんは、その癖にいつも苦労していたんだとか。



『これでも前向きになりましたよ。英雄のお陰で』


「ちょ、私は!?」


『千道。おれは事実を言っているだけです』


「無視ですか!?」


『アイツ、自分にも他人にも厳しいんです。学力試験でも。初手でを要求して来るに違いねぇです』


「例えば?」


『国家試験を三つ以上一発合格しろ、とか』



 出来る訳が無い。全員眼鏡をかけていて、分厚い辞書を持ち歩いているんだ。男性はパッツンで、女性はおさげである団に違いない。魔法以前にが爆発的にあるのだろう、異物である俺なんかに、目もくれないのが嫌でも分かる。



「うぅっ、勇者君はいつも冷たいですねぇ。英雄さん以外に塩対応なのは、変わりないですねぇ。無視されるのは辛いんですよぉ」


『茶寓はいつまで経っても打たれ弱ぇですね。千道を見習って、自分のソウルに自信を持ったらどうです?』


「えっ!? 勇者君が私を必要としているっ……!?」


『むしろ茶寓がいなかったら、団長の記憶は取り戻せねぇと思います。ここにあるを蘇らせる事が出来るのは、君しかいねぇので』


「…………勇者く~~~~~~~ん!!!!!」


『真っ暗になりましたが、何してやがるんです?』



 すっかり機嫌が直った茶寓さんは、テレスコメモリーを優しく抱き締める。しかし勇者さんにそのぬくもりは、一切伝わらないようだ。急に、視界が無くなったに過ぎないらしい。


 勇者さんの言う通り、テレスコメモリーの中には写真が入っている。部品と魔力を集めれば、現像出来る仕組みのようだ。今は、若かりし頃の英雄さんと勇者さんのツーショットだけ。テーブルの上に大切に飾ってある。



「他には、どんな写真があるんでしょうかね」


『おれからも見えてねぇので、何とも言えねぇですね』



 いつの間にか最後になってしまった。『フェザーフェイトマーシー』という団らしい。なんだかとても神秘的な雰囲気を感じる。



「ここは、一言で表現すると『オールラウンダー』です。全員が『戦闘団員』であり『非・戦闘団員』でもあります」



 ソフィスタの団員は、必ずこの二種類に分けられる。前者は戦闘系、後者は事務系の依頼を中心にやっていくらしい。俺は前者になった。



「両立しているんですね!」

「はい。なので他の団からも、一目置かれています。魔法技術は勿論。勉学や雑学の知識、発想の巧みさ等々。何もかもが、逸脱している団です」


『……………………』


「? 何か言いましたか?」


『何も』


「あの団に選ばれる合格者は、毎年一番少ないです。しかし、団長に見初められた者はたちまち、才能を開花し自分が望んだ道へ進み、成功するという噂が」

「めっっちゃくちゃ良い噂ですね!」



 団長の存在が大きい事に違いないだろうが、その中でも『フェザーフェイトマーシー』という団は正に、団長が団員全員から慕われているようだ。団長もまた、団員全員の事を信じているのだろう。



「これで、全ての団の説明が終わりましたねぇ」

「ありがとうございました」


『で、千道はどの団と一緒に調査をすれば?』



 茶寓さんはもう一度考え始めるが、段々冷や汗を垂れ流す。無言のまま硬直してしまった彼をしばらく眺めていたが、勇者さんが口を開く。



って訳ですね?』


「え、あ、そそそそそんな事は一言も」


『まぁそんな気はしてましたよ。覚悟を決めやがれ、千道』



 どこの団にも受け入れてもらえない。そんな氷柱よりも冷たいナイフが、俺の心臓を突き抜けて行く気がする。もしもこの状態が続いてしまうと、団長達に会えず、二人の事を一生思い出してもらえない。ゼントム国から出て、テレスコメモリーの部品を探す事が出来ない。


 ナイトメアをブチのめす事が、叶わない。



「何も、出来ないじゃないかァァァーーーーッ!!」



 両膝を床につけて、両手を額に当てて背筋を伸ばして、絶叫。言った通り、いきなり前途多難状態の始まりだ。

 


「私達以外に、君の事を知っている人がいれば良いんですが」

「俺を助けてくれた、骨の彼ッ!!」

「……。……。……あぁ、彼ですか!」



 あの日、初めてこの地に降り立った瞬間。無力だった俺は、シニミに襲われて、殺されかけた。骨の彼が爽快に助けてくれなかったら、確実に死んでいた。



「彼が所属している団は、エレガンティーナイツですよ」

「もうそこしかない、お願いします!」

「分かりました。白鶴さんに問い合わせてみますよ~」



 もはや消去法である。しかし、説明を思い返してみても、ここの団にしか希望が見えない。交渉が上手く行けば、向こうの『非・戦闘団員』が来てくれるようだ。



「『国際世界長会議』が3日にあるのですが、まぁ何とかなるでしょう!」



 その結果、も待たされる羽目になった。まだ交渉が上手く行ってないか、失敗したかのどっちかだ。

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