1-4 待ちぼうけ

 改めて名乗ろう、俺の名前はすえなり ゆきだ。ザックリとでも良いので、を話しておく。


 ①(いきなり詳細を省くが)により、『魔法』が存在する『ユーサネイコー』という惑星にブッ飛ばされる。


 ②初っ端から『シニミ』という怪物に襲われたが、『ソフィスタ』に助けられた事で延命。


 ③この世界を生き抜く為に『入団試験』を受け、『決意のソウル』を宿して合格する。


 ④俺の杖となった『テレスコメモリー』は元々、十二年前の『英雄』さんの所有物で、今は何故か『勇者』さんが中に入っている。


 ⑤勇者さんと共にこの地獄を放浪し、である『ナイトメア』をブチのめす覚悟を決める。



『千道、よだれが出てますよ』



 家の掃除は勿論した。ギリギリだけど、修繕魔法のお陰でトイレと風呂も使えるようになったのだ。そして遠足の準備をするように荷物をまとめ、いつでも出発できる用意をした。



 ……したんだけども!!



 4月4日



「出れないんですも~~~~ん…………」


『なんか茶寓みてぇな言い方をしやがりますね』



 現実の俺は、ベッドから頭だけを落とし、ぐでんぐでんになっている。相変わらず寒いので、布団にくるまいながら。



『まぁ、こうなっちまうのは分かってましたが』


「どーーしてそんな事を言うんですかッ!?」


『君はまだ、他の国のに触ってねぇですし』



 ワープポイント。それは移動手段の一つである。でも『瞬間移動魔法』より全然楽ちん。勿論、『それがある場所のみ可能』という、制限付きだけど。


 世界共通で、星の形をした岩。場所の名前が彫ってあり、すぐ傍には台座がある。


 やり方は簡単。


 ①ワープポイントまで、行く。

 ②正社員証明書を台座の上に置く。

 ③登録され、自由に行き来出来るようになる。


 これだけである。


 俺は練習がてら、ゼントム国にある三つのワープポイントに登録した。台座にかざすと、今まで自分が登録した場所が『一覧』となって、浮かび上がって来る。行きたい所をタッチすると、本当に一瞬で移動することが出来た。なんて便利な代物。


 国際世界組織の人達は、色んな国に行く。だから、この機能がマストのようだ。証明書にこの機能が付いているので、一般人は使えない。



「スタンさん達も、元気そうで良かったなぁ~」


『ヒノテアスープは美味しいですか?』


「美味しいですよぉ。治癒効果もあるんで、最高ですぅ~」



 だが、それもだ。ここは島国だからか、交通機関が


 『ソフィスタ』の本拠地である『DVC』から出発する団員は、それこそワープポイントで移動するようだ。『箒』という手もある。だがここは他国からので、魔力切れになるに違いない。


 まぁそもそも、俺には魔力が無いから一生出来ないけれど。だからこの国からのだ。ぐでん。



「はあああああ~~~~…………」


『まぁ、こうなる覚悟で問い合わせをしたんでしょう?

 茶寓から聞いた各団の話、どうでした?』


「個性豊かだなって」


『正直に言いやがれ』


「はいッ! どこもかしこもヤベー団だと思いました!!」



 姿は見えないけれど、とんでもない威圧感を出せるとは、流石勇者さん。頭を上げ、テーブルの上に飾ってある写真を呆然と眺める。英雄さんと勇者さんが、満開の笑顔を向けている。



「勇者さん、良い笑顔ですね」


『十五年も前のおれですよ。今は面影も残ってねぇですよ』


「歳は取っているんですか?」


『不思議な事に。食事も排便もしてないけれど、成長している』



 勇者さんがこんな状態になったのは、ナイトメアの所為だ。しかし、気になるのだ。どうして奴は彼をに、のだろうかと。



『千道』


「うぇ!? は、はい、どうしましたか!?」



 急に現実に引き戻されたから、上擦った声を出してしまう。ついでに姿勢も正して、テーブルの上に置いてあるテレスコメモリーを見る。



『君は、チキュウに帰りたくないんですか』


「……え?」


『おれ達の事に、真摯に向き合ってくれるのは嬉しいです。でも、君はこの惑星の人じゃない。いつかは帰る事になるんだろう。だけど千道からから……少し、気になっているんです』



 確かに。話した事が無いな。「地球に帰りたい」って、言った事が無い。飛ばされた身ではあるが、ここは正直に吐露しておこう。



「勇者さん。俺は地球に帰りたくないというより、んです」


『家?』


「そうです。


『……そうなんですね』



 家の事を考えるだけで、ここの方が生きやすいと感じてしまう俺は、酷い人間だろうな。この地獄には魔法とかシニミとか、危険な部分が地球よりも圧倒的に多いのに。



「それに、もう二度と帰れない覚悟も出来てます。だって、に付いてた『転移魔法』は、一回きりですから」



 英雄さんが書いて、銀河の果てに飛ばした手紙。それを拾って、俺はここまで来た。これが、だ。



「……どうしたんですか、急に?」


『茶寓を待っている暇つぶしに、君が帰れる方法を考えていたんですよ』


「え、あるんですか?」


『二つ。でも、どっちも可能性が馬鹿低い』



 どうやら、頑張ったら俺は地球に帰れるらしい。折角考えてくれたから、聞く事にしよう。実行するかは考えてないが。

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