1-20 アゾンリディー・モンゲリッジァー⑥

 吸い取るのは、テレスコメモリー自身の能力である。しかし大破損しているので、本来の力はまだまだ出せない。だが、中にいる勇者さんが手伝ってくれるから、吸い取り切れる。



「このまま俺の両脚に、纏うんだ!」



 魔力によって強化された俺は、魔法砲を避けながら走り続ける。三人は、そんな俺を見て驚いている。



「イモ君の走る速度が上がった!?」

「凄〜い! 全部避けてるっ、優雅に飛び立つ前の白鳥みたい!」

「これは……またとない輝きだ……!」



 まだ、穴が開けられていない部分に両足で踏ん張り、更に魔力を送らせる。そして鏡を見上げ、一気に飛び上がる。一瞬で鏡のすぐ傍までたどり着く。ステージが小さくなる。


 祝和君と餅歌、そして儀凋副団長が俺を見上げている。俺に注目している。


 右手に魔力を纏わせ、テレスコメモリーを手放す。二人の魔力によって『鏡を割る』という俺の決意が、みなぎっていくのだ。



「全く気に食わねー鏡だ! 割れちまえ!!」



 決意のソウル――― 恐怖を乗り越える道標ビヨンド・ザ・フォビア



 一撃で巨大な鏡を砕いて、テレスコメモリーをキャッチする。そのまま破片と共に、俺はステージへ落ちていく。


 直前で右腕を上に引き上げられたので、落下死しなくて済んだ。勇者さん、いつも持ち上げてくれて、ありがとうございます。


 そして、タイマーが『00:00』になる。これにて実技演習の幕が閉じる。



「さぁ、なりゆき君。君がキャッチした材料を渡してくれ」



 降りてきた議長副団長に、八本の白い花と赤いリボンと包み紙を渡すと、一瞬で花束に作り替えられる。



「ふふ、小さくて可愛らしい花束だね。この赤いリボンに目を向けがちになるが、メインの輝きを忘れさせないようにする構成だ」

「ほほう……?」



 正直、儀凋副団長の言葉は、語彙力が豊富であるからか、たまに良く分からない所がある。でも、多分この言い方は評価が良い気がする。自意識過剰だろうか。



「あの鏡を割って、攻撃を阻止するとは思いもしなかったよ。あれが、君のソウルなのかな?」

「はい、そうです。『決意』のソウルって言います」

「ふふ、素晴らしいパワーだったよ。では、私のソウルは何だか分かるかな?」



 エキストラ問題のようだ。とはいえ、この番組に全力で挑んだ俺は、もう既に確信している。これじゃなかったら腰を抜かしてしまうだろう。



「『鏡』ですね」

「正解だ、良い観察眼を持っているね!」

「いやバレバレでしょ」

「そんな事ないさ、消しゴム君」

「消しゴム君!!?」



 どうやら、苗字と名前の一文字目を取った、祝和君の芸名らしい。そうだった、これは芸名で行かないといけないんだった。団員でも、名前バレはヤバいもんな。


 ちなみに、彼の芸名は餅歌が考えたらしい。良いネーミングセンスだと思う。餅歌はステージの上に乗らず、こちらを見て微笑んでいる。彼女にも、芸名はあるのだろうか。



「なりゆき君は、ケルリアン王国を歩いてみたいと思うかい?」

「はい、とっても!!」



 また突然質問をされたが、即答。本で読むだけでも、魅力しかなかった王国だと、本気で思っている。

 スーツを着てワープポイント制覇をしたいし、美味しいグラタンを料理して食べたい。彼らと一緒に、この王国を守っていきたい。


 未知の領域に足を踏み入れるのは、少しの勇気があればへっちゃらさ。



「そうか、ありがとう。では、ステージを戻そうか」



 儀凋副団長が指パッチンしたと同時に、ステージが元に戻って行く。ボロボロだったのに一瞬で直ったのは、仮想空間だからだろうか。

 俺が割った鏡の破片が観客席へ飛んでいくと、オーディエンスが復活する。もう何でもありな気がしている。



「最終問題の結果発表をするよ。八本とも違う種類の花であるから、見ごたえがある。そしてすべてが白色なのも高評価だ。リボンと包み紙が赤色にしたのも、映えているよ。

 ……そして、君の戦い方は私に新しい発見があり、もっと知りたくなった。『正解』以外、有り得ない出来栄えだ」


「……えっ……と、という事は……」


「五問中……四問正解! 『アゾンリディー・モンゲリッジァー』、合格だッ!」


「や……やったぁぁぁぁぁ!!!」



 八方面からクラッカーが鳴り響き、パラパラと花びらが落ちてくる。

 俺は快哉を叫んで勝利のガッツポーズをし、儀凋副団長と握手をした。オーディエンスに目を向けると、いつの間にか人間に戻っている。全員が、スタンディングオベーションをしている!!



「ブラボー!」「美しいー!」「素晴らしいー!!」



 餅歌も拍手してくれている。祝和君は、最後までしてくれなかったけれど、微笑んでくれているから、悪い気は一切しなかった。



「おめでとうございますぅ~!」

「これからよろしくねぇ」

「おう! ……あのさ、二人共」

「「?」」

「俺と、連絡先交換しない?」



 美少女と美男子と友達になった俺は、人生初のに成功した。なのでこれから始まる第三章以降では、この二人と一緒に行動する事が多くなるのだ。



「お時間が来たね、ここいらでサンジュッスさようなら

 さぁ皆さん、ご一緒に……この瞳に映る景色は?」



  _人人人人人人人人人人人人人人人人_

  >アゾンリディー・モンゲリッジァー<

   ̄ Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^  ̄



   Present by Zin Gicho

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