1-19 アゾンリディー・モンゲリッジァー⑤

 花束に相応しい材料を、素人の俺に選ばせるとは。この番組、中々攻めている部分が多々ある。両手で持って、ステージに落ちる前にキャッチしている。



『悪い花言葉を持つ花は、良くねぇですよね』


「花言葉なんかに全く詳しくねぇ……痛ッ! ……薔薇の棘か!!」


『本物の花なんですね。流石、ケルリアン王国』


「空中庭園があるくらいですからね、ッ、ブッ!!」



 再び見上げた瞬間、別の花が俺の顔面にぶつかり、そのまま腕の中へと納まる。白い小さな花が集まって、もこもこしている。これは、アジサイだろうか。でも、まだ咲く季節には早すぎる気がする。



『アナベルですね。アジサイの仲間ですが』


「勇者さん、詳しいですね」


『凱嵐の言葉を思い出しているだけです』


「……この花束、白鶴団長に渡すんですかね?」


『有り得ますね。今も、どこかで見ているかもしれない』


「えっ!? じゃあ、白鶴団長に渡すつもりで集めます!

 勇者さん、彼女の好みとか分かります?」


『えーっと……おれの記憶ですと……ファンからは、よくを貰っていた気がしますね。苗字にも【白】って入っているくらいですし』


「分かりました!」



 様々な種類と色が落ちて来るが、白い花だけをキャッチする事を意識してみる。大画面には、タイマーが表示されている。残り一分だ。



「うおおおおッ……あー、間に合わない!」


『仕方がないですね。次に行きましょう』



 全部違う花の方が、豪華に見えるのだろうか。それとも、全て同じ花の方が統一感が出て、見栄えが良くなるのだろうか。今まで、一度も花束を贈った事も貰った事も無い俺だけど、彼女の為に沢山考えてみる。



「あ、花以外もキャッチしないと」


『他も白にすると、歪な気がしますね』


「確かに、単調過ぎる気がしますね……あ!!」



 俺は一目散に駆け出し、落ちる寸前のところで無事にキャッチする。それは、赤いリボンだ。鮮やかな色で、血のように暗くない。



「赤なら、白から映えると思うんです!」


『……良い色ですね』



 俺は勇者さんと相談して、使わない花をステージの上に置いて消滅させていく。その結果、八本になった。まぁ、これくらいで良い気がする。あまり大きすぎても、飾る場所に困るだろう。



「残り二十秒か。包み紙もキャッチしたし、もう」


『千道、危ない!!』



 これで終わりで良いかと、一息つこうとした俺の真横に何かが落ちてきた。眼帯が取れてしまい、右目から血が流れだす。


 振り向くと、ステージが凹んでヒビが入っている。だが、落ちてきた物体はどこにも見当たらない。


 嫌な予感がしながら、上を見上げる。すると、鏡から材料と一緒に、光線も降り注いできている。魔法砲だ。でも俺を狙っている訳では無くて、このステージ全体に打たれている。



「逃げないとォォォ」



 とはいえ、ステージから出てしまったら『リタイア』と見なされてしまう。なので、材料を落とさない様に気を付けながら避けるしかない。残り十五秒だ。



『ビームの量と威力が増してやがりますね。このままだと、ステージが持たないのでは?』


「いや、先に俺が死んじまいますッッ!!」



 まだ三秒しか経ってないのに、既にステージは半壊している。穴につっかえて転んだら、一巻の終わりだ。材料を落としても終わる。


 魔法砲の雨は更に強くなっていき、止む気配は一切ない。このままだと、ステージの瓦礫に埋もれてしまうかもしれない。



「残り十秒……あの鏡を割るしかねぇ!!」


『テレスコメモリーに、そこまでの魔力は無ぇですよ!?』


「だけど、割らねぇと先にくたばっちまう!」



 あの魔法砲から魔力を吸収しているよりも、ステージが崩壊するのが先だろう。だから、もっと一瞬で魔力を補充できる方法を考えなければいけない。それが一番の得策だが、どうやるかは頭をフル回転させて考える。



「なりゆきサン、頑張れーーーー!!」

「あと八秒だよォ~」



 魔法砲による騒音の中で、俺の耳は確かに聞き取れた。少し離れて見ている、美少女と美少年の声を。思わず振り向くと、二人が応援している。

 彼らはオーディエンスとは違い、本物だ。だから今もこうして、俺の姿を見てくれている。



『どんな手を使っても良いよ』



 儀凋副団長の言葉の通りに動く事にしよう。この適性検査に合格する為には、どんな方法も使おう。俺は、目の前にいる二人と一緒に、戦う事にするのだ。



「二人共ッ! 魔力砲を撃ってくれ!!」


「は?」「えっ?」


「頼むッ!! この杖に向かって、ブッ放してくれェェェェェェ」



 俺は、テレスコメモリーを二人に向ける。残り五秒。もう殆どが崩れ落ちており、バランスを保って立てる場所は、殆ど無い。



 急に協力をお願いされた二人からは、今の俺がどう見えているだろうか。



 大声を出して、怪我もしている。おろしたての眼帯は破れ去った。片脚を上げて左腕には材料を、右手には大欠損している杖を向けている俺は、決して美しくないだろう。


 だけど、そんな姿になっても諦めていない。か細い糸の様な希望に全力でしがみついて、必ず手に入れる。


 これが末成 千道の姿なのだと、理解してくれたのかもしれない。


 だから二人は何の疑いもせずに……テレスコメモリーに向けて腕を伸ばし、魔力砲を撃ってくれたのだ!!

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