1-18 アゾンリディー・モンゲリッジァー④

 この本を見れば、一発で正解できる。しかし同時に、クイズ番組で生中継である手前、不正行為とされてしまう気がして来た。止めておこうと秒速で自己完結した俺は、渋々とリュックの中にしまう。



「ふふ、この『アゾンリディー・モンゲリッジァー』の挑戦者には『ヒントの権利』があるんだ。使えるのは、一回だけだけどね」

「わっ、儀凋副団長!?」

「もしもヒントタイムになったら、挑戦者自身が答えを生み出すのさ。使



 儀凋副団長が近くまで来ていた事に、俺は全く気が付かなかったようだ。彼は笑顔で話したい事だけを言って、大画面の方へ戻って行く。没収されなかった。



『使うべきでは?』


「そ、そうですよね!」



 現在、第四問。次が最終問題。学力テストの構成から考えて、とても難しいのだろう。だが、そこに辿り着けなかったら、元も子もない。



「ヒントを使います!!」

ルィはい! それでは、ヒントターイム!」



 右腕を上げ宣言すると、黄色のスポットライトが、陽気なBGMと共にオーディエンスを彷徨い始めた。同時に手拍子も始まって、盛り上げてくれる。


 その間に俺は本を開き、目次からそれぞれの国のページへ飛んで、大画面に映し出されている景色と比較する。どれもミッチリ書いてあるので、絶対にじっくり読もうと、改めて誓う。



「……あ! これだ!!」

「ヒントタイムを終了するかい?」

「はい!」

「それでは、君の答えを教えてくれないかい?」



 本をリュックの中にしまい、三番目の鏡の前に立つと、儀凋副団長は手元にあるスイッチを押す。



 ドギューーーーン!!

 ドギューーーーン!!


 ドギューーーーン!!



 ……パァーーーーーン!!



 ♪♪リンゴンガンゴンリンリン♪♪



 三番以外の鏡から、魔法砲が出て来て火の花弁に。ヒントを使って良かったと安堵しながら、観客席の拍手に包まれる。



「それでは解説するよ。一番のリピポ国は、電気で出来た『サンドロス山』が有名だね。登山する時は、全身をゴムで覆って行く事をお薦めするよ」



 写真からでも分かる、雷神如くの痺れ。髪の毛は静電気で爆発するだろうし、金属系は持って行かない様にしよう。



「二番のヘロー諸島は、円形の島であり、そこにしかいない生き物で溢れているようで、観光客も毎年UPしているようだ。中心の湖にしかいないと言われている『ヌシ』を見たら、幸運の兆しのようだ」



 あの、何とも言い難い奴を見に行くのか。凄く不思議な形と色をしていた。多分軟体動物だろうな。目は意外と大きくて可愛かったけれど。



「四番のコロエ市国は、巨大な貝殻が有名だね。あの貝殻は、実はまだ生きているようで一度に400kg分も食べるそうだ。挟まれないように注意しないとね」



 すんごい毒々しい色だったぞ。あれを初見で『食い物だ! 食べよう!』ってなる人は、まぁいないだろう。余程の、グルメ好きじゃない限り。



「そして正解である、三番のラッモ国は、全てが雲で出来ている国なのさ。地面や階段、通貨まで!  だが大丈夫さ、いくら踏んでも叩いてもすり抜けないからね。画像の雲のアーチは、毎日形が変わる事でも人気さ」



 雲の上に乗る事を、子供の頃は本気で考えていた。この世界だと、それが可能って事なのかもしれない。夢がある場所だ。


 儀凋副団長は、実際に行った事があるのだろうか。この本に負けないほどの知識を、スラスラと話す。



「次はいよいよ最終問題。ここまで辿り着いた『なりゆき』君に、盛大な拍手を」



 オーディエンスが拍手する。どの方向からも聞こえる。今更ながら、この仮想空間を作り出すのに、どれ程の魔力が必要だったのだろうか。


 ちらりと後ろを見てみると、餅歌も楽しそうに手を叩いている。やはり、祝和君は叩いていない。でも先程よりは退屈していないようだ。



「最終問題に挑む覚悟は、出来ているかな?」

「合格する覚悟で、ここに来ています!」

「ふふ、気合十分だね。では、早速出題しようか」



 俺は、大画面に注目する。そこには『実技』の二文字しか書かれていない。



「この『アゾンリディー・モンゲリッジァー』は、『クイズ番組』だからね。知識だけではなく、君の実力も拝見するよ。ではステージを変えようか」



 彼が指パッチンしたと同時に、ステージが揺れ始める。四方向にあった鏡が下へ引き込まれ、オーディエンスが魔力へと変わっていく。その魔力達は、このステージ全体を映せるほどの鏡となり、上から照らす。



「今から君には、花束を作って貰うよ」

「花束??」



 テレスコメモリーを構えていたが、拍子抜けする。儀凋副団長と戦う事になるのかと思っていたからだ。どうやら違うらしい。



「あの鏡から材料が落ちて来るから、選び取るだけの話さ」

「選び取る」

「花は勿論、リボンや包み紙なども。そして時間が来たら、私に渡してくれ。君がキャッチした材料のみで、花束を作ろう。それが実技の内容さ」



 儀凋副団長が判断するようだ。彼は副団長だから、生半可な材料だと落とすに違いないだろう。



「制限時間は三分。どんな手を使っても良いよ。美しい材料を、期待しているよ」



 儀凋副団長は指パッチンをし、姿を消す。そしてすぐに、影が俺の上に落ちる。見上げると、花とかリボンとかが、落ち始めている。そして、ステージの上に落ちたモノはすぐに消えていく。拾う事は出来ないという事らしい。

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