1-42 ジャンクフードよりマズい一途④
彼はまた白目になって、髑髏からビームを出して暴れ出す。ここら一帯、滅茶苦茶だ。修繕魔法で直せるのかって程に、道路が壊滅していく。
「このアマがッ!! テメーなんざ、便器に落とされて沈んでいくクソを見ている方がマシってくらいに、マジでブサイクだぜ!!」
「ギャヒイィィィィィインナァァァァァア!!!!!!」
「最低過ぎる言葉を平然と叫んだ! 恐怖で打ち震えちまうよ!!」
『キレ味がありますね。骨だけに』
「勇者さぁぁん……」
「どこに行きやがった!! 出てこい、ブチのめしてやるッッ!!!」
いや、お前がブッ飛ばしたんだぞ。リナムは全身を打ち付けられて、今度こそ気絶してしまったようだ。ここまで来ると、生きてて欲しいという気持ちが芽生えて来るじゃないか。空き家にも俺にも被害が勿論及んでいる。もはや半狂乱状態になっている彼は、疲れ果てるまで大暴れするのかもしれない。
「も、もう止めろって! 必要以上にやっても意味無いぞ!」
「その左目をくり抜かれたくねーなら、黙ってろ」
「失明はしたくないッ!!」
左目もコスモスになるのは、避けたい。だが、このままだと俺もうっかり殺されるだろう。彼を止める方法は無いのかと、思考を何度も巡らす。すると四つの選択肢が、頭の中に浮かび上がるではないか。
①主人公らしく、正面衝突して止める。
②今まで通り、根気強く諭し続ける。
③祝和君が疲れ果ててブッ倒れるまで、身を隠す。
④何も出来ない。俺は無力だ。
「……うん、迷う事無く④だな!!!」
正面衝突なんざ一瞬で全身骨折コースだし、諭そうとしても聞く耳を持つ訳がない。彼がいつ疲れるかも分からないのに、隠れるなんて出来ない。その間に、この道路がもっと滅茶苦茶になっちまったら、罪悪感が芽生える。
「俺は、マジで本当にビックリするほど、無力だ……」
『ヒステリックな彼女を見ている気分ですね』
「いや、もはやバーサーカー彼女……あ?」
勇者さんと現実逃避していると、祝和君のポケットから何かが落ちたのが見えた。彼は全く気付いておらず、手当たり次第に破壊活動をしている。攻撃に当たらないように近づいて見ると、スマホと判明。拾って電源ボタンを押すと、ロック画面が映る。
「あら~、ソファーで寝落ちしちゃったのかなぁ」
『このアングル、頬のふにふに具合を良く表現してやがる』
「許可を取っている訳が無い……あ、やべっ」
手が滑ってスワイプしてしまう。すると、ロックモードが作動するのではなく、そのままホーム画面に映る。どうやら、彼はスマホにロックを掛けていないようだ。やはり、どこか危機感が欠けている。
「この時も口元に付いているなぁ」
『リスみてぇですね。全くこちらを見てねぇ』
「絶対にとうさ、あああああーーッッ!!!」
『どうしやがりました、まさか柑子さんのセンシティブな写真が?』
「違いますよ、流石にフォルダは恐ろしくて開けません。これを使えば良いんですよ!」
『??』
どうせ使用許可も取れないので、勝手に電話帳を開く。やはりと言えば良いのだろうか、一番上にあった名前をタップする。何コールかすると、相手は出てくれた。良かった、重大な取り込み中とかじゃなくて。
『もしも~し? どうしたの~?』
「あ、ごめん餅歌! 祝和君じゃないんだ、末成だッ!」
『むむ、千道サン? 祝和クンと一緒にいるんですか~?』
「そうなんだけれ、どッッ!!!」
餅歌の声が聞き取れないと困るので、もう片方の耳を手で封鎖する。しかし、それは『無意味』と言っても過言ではない。彼の衝撃波は凄まじく、耳だけではなくて全身が吹き飛びそうになった。
『わぁ、凄い音! 大丈夫ですか~?』
「全然大丈夫じゃないよ~、祝和君が大暴走している~!」
説明するのも時間の問題。目の前で起こっている光景を、ありのままそのまま簡潔に、餅歌に伝える。焦っている俺とは対照的に、彼女は『やーん、暴れちゃったら疲れちゃいます~』と、意外にも吞気な事を言う。
『今日のお昼ご飯、祝和クンと一緒に食べます!』
「えっ!? ど、どうして急にその話を」
『本拠地で待ってるって、伝えて下さい。お願いしま~す!』
「ちょ、もち……切れちゃった」
『見捨てられましたか』
「いや、そんな事は無いと思います。言ってみます!!」
彼女が電話越しに止めてくれると思っていたが、どうやら違うようだ。これからご飯の準備でもするのだろうか。祝和君が正気に戻る希望だと信じて、俺は骨折に巻き込まれない、ギリギリの距離まで彼に近づき大声で伝える。
「うぉぉぉぉぉぉいいい、祝和くぅぅぅぅん!!!!」
「あぁ……?」
「餅歌が! お前と! 昼飯を! 食いたいから!! 本拠地で待っているってよォォォォォォ!!!!!」
そう言った瞬間、彼から溢れ出ていた殺気のオーラが、一瞬で引っ込むのを感じた。破壊活動を止めて、無言でリナムを見つけては引きずり出す。
「帰る」
「え」
「餅歌を待たせる訳にはいかねーし、依頼も終わったし」
「あ、スマホ……」
「ありがと。じゃ」
普通に受け取った。全然怖くない、いつもの祈答院 祝和に戻ったようだ。ぎこちなく手を振って、彼を見送る。まぁ確かに、当初の目的である買い出しは終わっているし、ターミナーも奪い返すだろう。
『とんでもねぇ地雷持ち野郎でしたね』
「アレで奥手って、マジで言ってんのぉ……?」
リナム・フィサ 祝和の殺意と四肢骨折により、
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