1-41 ジャンクフードよりマズい一途③

 祝和君は胸辺りから骨を浮き出し、それをリボルバーの形に変形させて撃ち始める。弾丸は勿論、骨である。しかし、あれ程一気に打ち込んでしまったら、ハチの巣どころじゃなくなるかもしれない。



 骨のソウル――― 開弾骨リベラー・マシンガン



「ス、ストップ、ステイ!! 祝和くぎゃああああッッ!!!」



 大急ぎで彼の所まで行った俺の制止はむなしくも、一切届いていない。何なら今、攻撃されました。運良く避けれたけれど、当たっていたら身体が真っ二つになっていただろう。全身に杭が刺さっていたというのに、普通以上に動いている彼が不思議で仕方が無いのは、多分リナムも同じだろう。



「ちょっと!? 俺にも攻撃しないでよ!」

「アァ!? そこにいるテメーが悪いんだよッ!!」

「おまっ、それは理不尽過ぎるぞお前ぇぇ!!」



 彼は左腕と胸だけに留まらず、もはや全身から骨を出して、暴れ回っている。投げられた骨が、俺の所にも容赦なく吹っ飛んで来る。勢いがあるから、ぶつかったらかなり痛い。近くにいると、骨折してしまうかも。



『……地雷』


「え?」


『儀凋さんが言ってましたよね。彼には地雷があるって。これじゃねぇですか?』



 何年か前よりは、大分落ち着いたとも話してくれた。いやしかし、この光景でマシになったと言われると、当初はどれほど大規模な事をしでかしたのだろうか。白鶴団長に殴られる程って事は、これの五倍は酷そうだ。



「あれ~~……彼、最初に俺を助けてくれた人だよねぇ……??」



 リナムに言った言葉で、自ら反省している。俺は祝和君の事を、顔だちもスタイルも良くて、冗談抜きで『美少年』だと思っている。つまんない話も、暗い話も聞いてくれるから、本当に良い人なんだが。



「死にやがれェェェェェェェェッッッ!!!!!」



 ……あぁ、そうか。これが、本当の祈答院 祝和なのか。餅歌の事を大切に想い過ぎているがあまり、彼女の事を少しでも馬鹿にされると、本人よりもブチ切れるタイプなんだ。猫なんかじゃない、地獄の番犬ケルベロスだわ。



「どこだクソゲボ野郎ッ! 一万年分の鶏糞に頭を突っ込んで窒息死させて、そのまま便器に流してやるッ!」


『おぉ、口の悪さにも磨きが掛かっていやがりますね』


「あんな下品な事を言うなんて……ギャップがグッピーレベルですよォ~……」



 彼は骨だけでは無く、そこら辺にある瓦礫を持ち上げ、明後日の方向に投げつけたり、誰もいない地面に向かって攻撃したりしている。


 ……あれ? どこ見てやっているんだ、アイツ??



「祝和君? そっちは誰もいないぞ?」

「あぁ!? どこだよジャガイモ!! 失せろッッ!!!」

「俺ってジャガイモだったんだぁ?!」



 サツマイモ、ナガイモ、サトイモ。数多くのイモの種類から、選ばれたのはジャガイモでしたって、今はどうでも良いか。



『彼、怒り狂っているあまりに……ようですね』


「そんな事ってありますぅ~~~!?」


『ほら、見て下さいよ。両手で岩を持ち上げて、空き家に投げ付けやがりましたよ』


「何しているんだあああああああ?!!?!?」


『ソフィスタじゃなかったら、一発アウトですなぁ』



 よく見ると、本当に彼は思いっきり白目を向いてしまっている。だから手当たり次第に破壊しているようだ。



「えええ、さっきまでは気だるい感じだったのに、眠そうだったのに!」


『どうします、バックレます?』


「いやいやいや! リナムからターミナーを取り返すのが、本来の目的なんですって!」



 表情は放送禁止レベルで怒りに満ち、背中から鋭利な骨がドンドン出てきて、後ろには巨大な髑髏どくろが口を開いていて、今にもビームを打とうとしている。



「そこにいたのか、テメー……」

「ぁぁぁぁぁ~~~~…………!!!!」


「お、おぉう……」


『あの女、恐怖のあまりチビってやがりますよ』


「俺もチビりそうです」


『我慢しやがれ下さい』



 立ち止まった祝和君の先には、やはりボロボロになっているリナムが這い蹲っている。言葉にならない譫言しか出せないようだ。



「俺はなァ、餅歌の事を馬鹿にされたら……たとえ俺が死んでも、あの世に行っちまったとしても……馬鹿にした奴ら全員をブッ殺すまで、全ての内臓をズル剥けにして、串刺しにしてやらねーと、気が済まねぇんだよォォォォォォォォォォ!!!」



 こんなにトキメキが無い一途は、生まれて初めて見た。浮気とか不倫とか、そんな最低野郎じゃない事だけが確証される、恐怖しかない一途を。



「ゆ、許して! 彼女はとても美しいと思う、思います! だ、だから……」

「あ?」



 リナムは倒れた状態から、どうにかして土下座する。しかし、祝和君は骨を引っ込めずに、奴へ一歩ずつ近づく。殺気が増しているのは、気の所為じゃないだろう。



「餅歌の事、美しいって思ってんの?」

「そ、そうよ! これは噓じゃない、本心よ! だから、許してくぶふぇぇぇぇぇぇぇぇえぇええええええええ!?!?!!?」

「な、殴ったーーーーー!! さっきよりも、力強く!!!」


『容赦ねぇですね。流石、祈答院君』



 リナムは一度、天まで飛んで行く。そして落ちて戻って来た所で、骨で勢いを付けられ、地面に叩きつけられる。絶対に歯が折れただろ。祝和君は、そんなの気にせず冷徹に見下す。



「クソゲボ以下のゴミ糞野郎に、餅歌の事を褒める権利なんて存在しない」



 愛は時に人格を狂わせるという、どこかの誰かの言葉を思い出した俺は、自分の骨が折れていないか確認している。

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