1-40 ジャンクフードよりマズい一途②

 リナムの煽りはまだまだ続く。見た目だけではなく、声も態度もデカい奴は好きじゃない。



「他の男も全然イケメンじゃないし、女はブスばっかりなんでしょうね」

「お前は実際に見ていないから、そう言えるんだ。本拠地に行ってみろ。全員、お前より断然と綺麗だぞ。顏もスタイルも……性格もなッ!!」

「コバエ以下がうるっさいわね! アタシにとやかく言うブサイクは、全員殺してやるわ!!」



 ブチッと、キレちまいそう。いや、もうキレている。白鶴団長の努力を、そんなヤワな言葉で片付けようとしているから。俺の友達を貶して来たから。これが挑発だと分かっていても、許せねぇ。


 この鬱憤をどう使うか、俺は知っている。単純明快、ブン殴れば良い!!



「それに、あの六家罪もいるんでしょう? 良い部下の見分けも付かないなんて、団長は見る目も無いわね」

「外見だけで、全て決めようとすんな。お前みたいな心が狭い奴の所為で、は苦しみ続けるんだよ……!」



 とても悲しい、失望する。やはりどの世界にも、こういう奴らはいるようだ。自分と違う存在を見たら排除しようとする、人間の癖はここでも健在らしい。


 だから、餅歌は生きるのが難しくなる。死ぬ事よりも、ずっと。



「だったら、強い心を持てば良い話じゃない。どうしてアタシ一人の戯言ごときで、そんなムキになる? チヤホヤされ続けて、指摘に敏感過ぎてるんじゃないかしら?」

「指摘、だと? お前のそれは陰口っていうんだ。奴に、とやかく言う資格はねぇよッッ!!」

「随分と偉そうに説教するじゃない……アンタ、余程殺されたいようだね?」



 杭のソウル―― 底隠れの隆起トラップ・バンプ



「この道路の中に、見えない杭を入れたわ。まるでパンドラの地面ね。踏み抜いたら、一気に出てきて、お前の身体を突き刺す。魔力が無いお前は、ここまで来れる? その薄汚い望遠鏡を使って、ここまで来れるのかしら!?」

「黙ってろ。お前は絶対に俺が―――」





 バキッ





 聞きなれない音がしたので、踏み出すのを止める。横を見ると、粉々になった骨を持ち俯いている祝和君がいる。黒メッシュで丁度目元が隠れているので、どんな表情なのかは分からない。そう言えば、さっきからずっと喋っていなかった。



「オイ……テメー……今、なんて言った……?」

「何度でも言ってあげるわ。エレガンティーナイツはしゅうだんよ!!」

「違ェよクソブス。六家罪の事を話したな」



 さっきまでとは全然違う声色で、リナムに話しかける。彼はエレガンティーナイツそのものよりも、六家罪の事に反応している様だ。奴も、祝和君の異変を感じ取ったらしい、嘲笑うのを止めて彼に注目する。



「全員ブス……六家罪の貶し……つまりテメーは、餅歌を馬鹿にしたって事だな」


 

 彼は、ゆらりと一歩ずつ近づいて行く。俺が止める前に杭が飛び出してきて、祝和君の腹に当たる。しかし彼は、足を止めない。



「ま、待って祝和君、危な」


『待ちやがれ千道。祈答院君の様子が変です』



 勇者さんも感じ取っている様だ。確かに今、彼の元に行ったら……なんか、ダメな気がする。第六感が働いた訳ではない。を、彼から感じるのだ。例えるなら、底知れぬ暗黒沼を見ている気分だ。



「モチカ……あぁ、別の兵士がとっ捕まえようとしたけれど、逃がしちゃったブス女の事ね。柑子家の末裔なんでしょう、大人しく手渡せばい」

「ブッ殺す」



 祝和君は背中から骨を翼の様に出し、リナムがいる杭を一気に登り切る。そして、身体に杭が突き刺さったまま奴に向かって、骨で強化された左拳で殴りかかる。



 杭のソウル―― 多重締め付けキラー・タイト



「自滅しに来たの? 愚かだわ!」

「祝和君ッ!!」



 彼の身体に、八個の杭が更に刺さる。大量の血が、ブシャブシャと出て来ているのが、下からでもよく見える。どんどん食い込んでいるようだ、このままだと内臓が圧殺されるかもしれない。



「この八個の杭は、お互いにぶつかるまで進むのを止めないわ。アンタは内臓が飛び出て、グッチャグチャになって死ぬんだよォォォォォ!!」

「祝和君! 動いちゃダメだーーーーッッ!!!」

「人は、感情に身を任せた時が一番弱いのよ!! お前は今、自分で自分の弱点をアタシに見せた!」



 祝和君の動きが止まり、そのまま倒れ込んでしまうのが分かった。俺は、腕を伸ばして一歩踏み出した。だが目の前に杭が出てきて、反射的に身体を引っ込めてしまう。結局、俺は何も出来ないのだ。リナムの勝ちになってしま



 骨のソウル――― 巨骸拳デット・ナック



「ぶッッゥへぇえぇぇえぇぇええええ!!!?!?!?」

「……え?」



 リナムの顔面に、祝和君の骨で出来た大きな拳がクリーンヒットした。奴はそのまま吹っ飛び、硬い地面に落ちる。ついでに言うと、その地面に滅茶苦茶ヒビが入り込んだ。


 この光景を理解するのに、少々時間が掛かってしまった。それくらい、一瞬の出来事だったのだ。俺は口をあんぐり開けて、祝和君を見つめる。



「テメー……黙っていりゃあ、を散々言いやがって……」

「……祝和君?」

「餅歌がブスだって? モザイクかけても意味ないブスだって???」

「ど、どうし」



 骨のソウル――― 骸刺指ナイフ・フィンガー



 両指からナイフ状の骨を空中に出し、自分の身体に突き刺さった杭だけではなく、周りも粉々に切り刻んで、そのまま奴の所へ突き刺しに行く。



「だぁぁぁぁぁぁぁぁれがニュウドウカジカみてーな顔してるってェェェェェェェェェェェェ!?!?!?」

「え、え、えええええええええーーーーーー!?!?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る