1-39 ジャンクフードよりマズい一途
突如現れた強盗。ソイツの名前はリナム・フィサ。女性差別をするつもりは一切無いが、絶対にモテない性格と容姿をしている。堂々とターミナーを盗んだと公言したので、とっ捕まえるしかない。
「私『達』ってなんだ? 他に仲間がいるのか?」
「その杖……あぁ、アンタか」
「は?」
「天羅の杖を持っている、魔力が無い異端男。ガルゼェ将軍殿のお話は、本当だったのね。アタシ、最高に運が良いわ」
将軍と聞くと、暗殺集団のトップかと思ってしまったが、少し違うらしい。将軍は、第四軍団のトップであるだけで、ドラングリィ総軍全体のトップは、別にいるわらしい。
「お前らの最終目的は、なんだ?」
「さぁね。アタシはただの一兵士に過ぎないから、深くまで知らないわよ。ただ、ガルゼェ将軍殿のお近づきになりたいだけよッッ!!」
ドラングリィ総軍にも、階級制度があるようだ。細かく分けられているらしいが、奴はいわゆる『下っ端』のようだ。窃盗までして、上官に認められたいらしい。
「アンタ達を殺して、その杖を頂くわ。そうしたら……一気に『大尉』くらいにはなれるかしら!?」
「渡す訳ねぇだろ。ターミナーも返してもらうぞ」
「あ~ら? このアタシに勝つつもりでいるの? 魔力が全く無い、腑抜けた顔しているブサ男の癖に」
これはただの煽りだと、頭の中では分かっている。しかし、顔に青筋が立ってしまっているのも、分かってしまった。ここで攻撃したら、奴の思う壺だろう。まずはどんなソウルなのか、見極めないといけない。
「世界で一番美しいアタシによって殺されるのを、光栄に思いなさい」
「その見た目でその台詞を吐くなんざ、とんだミスマッチだな」
「……は? アンタ……今、何て言った……??」
「目糞・鼻糞・耳糞が詰まっていると仮定して、もう一度言ってあげるよ。見た目も性格も行動も下品で極まりねぇ、馬のクソ以下な女って言った」
「いや、一言も言ってねぇ!!」
先に俺がツッコまざるを得なかった。真顔でとんでもない事を言い出した祝和君の口を、慌てて塞ぐがもう遅い。リナムは俺以上に青筋を立てて、彼を睨み付ける。
「見てよイモ君。もっとブスになったよ」
「待て、待て祝和君。それ以上煽るな」
「別に煽ってないよ。正直に言っているだけ。俺、噓つくの好きじゃないから。それに、どーせブチのめす奴に優しくする必要は無い」
骨のソウル―――
そう言った祝和君は素早く骨を出し、斬撃を飛ばす。切り株は真っ二つに割れたが、リナムはジャンプして避ける。身のこなしは、見た目よりも上手い。
「そのデブな切り株みてーに、斬り刻んでやるよ」
「失礼ね、切り株じゃないわよ! 『杭』のソウルよ! アタシのソウルを、カブトムシの相撲大会場と一緒にしないでくれる!?」
「やっぱ馬鹿だなテメェ」
祝和君は一気にリナムまで距離を詰め、容赦なく腹に骨を突き刺す。奴は吐血したが、彼は骨を抜く気配はない。目で追えなかった、それくらいに速い。
「ドラングリィ総軍なら、容赦しない」
「舐めてるわね……二人諸共、ブッ潰してやるわ!!」
リナムは、怒りを全面にした声色で叫ぶ。腹に骨が刺さっているのに動けるなんて、意外と筋肉も付いているのかもしれない。
杭のソウル―――
大量の杭が一斉に落ちて来る。どっちに避けようか考える前に、祝和君が俺を骨で引っ張ってくれる。突然だったので「ぐえっ」と変な声が出てしまったが、彼は全く気にしない。
骨のソウル―――
祝和君は骨をブーメランの様に投げ飛ばし、杭を切り刻んでいく。俺は、そのまま投げ飛ばされた。着地は出来たが、このままだと役立たずだ。彼の為に何かしないと、ここに来た意味が無くなる。
「まだまだ、沢山落としてあげるわ!!」
「やってみろ、一掃してやる!!」
決意のソウル―――
右腕に魔力を纏い、落ちて来る一個の杭を上に向かって殴る。勢いが殺されて宙に浮いたそれは、他のとぶつかり、リナムが望んでいない場所へ落ちていく。
「なんて下品な戦い方なの!?」
「戦いに、美しいも汚いも無ぇだろ」
祝和君の言う通りだ。何人に勝とうが、どれだけ倒そうが関係ない。最終的に立っていないといけないのだ。全員を完膚なきまでに叩き潰し、頂点に立つ。それが、勝利というモノなのだろう。
「黒メッシュ。お前、アタシ達の事を知っている様だね?」
「俺達にとっては、邪魔者でしかねぇからな」
「アタシが聞いた話だと……エレガンティーナイツは、『気品に溢れている集団』らしい。でもお前は言葉遣いは勿論、魔法の出し方も汚い。団長は何してるの?」
「あ……?」
急に話題変更して来たので、俺達は首を傾げる。リナムは祝和君を見て、鼻で笑い始める。
「アンタ、全ッ然大したことない美貌ね!!」
「オイお前! 祝和君はイケメンだろーーが!!」
「止めてよイモ君……」
「あァ!? アイツ、目が腐ってんだろ! 白鶴団長は周りが掠んじまうくらい綺麗になる為に努力しているし、祝和君もスッゲェ整った顔をしているんだよッッ!!」
「ベゴちゃん団長はそうだけど、俺の事は何だって良いよ……」
祝和君は自分の容姿に、全く興味が無いようだ。無自覚って時には罪になると思う。友達だからという気持ちは、多少あるかもしれない。しかし俺は、本気で彼の事を『美少年』だと思い続けている。
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