1-38 買い出し②

 筆も無事に買い終わったので、ワープポイントでブルーム・ランウェイまで行く。本拠地に届け終わると、祝和君が丁度来た。どう考えても重そうなので、手伝う。



「凄いな、こんなに使うのか」

「もっと使うけど、これ以上買うのはめんどいから『増幅薬』で済ませる」

「魔法薬か?」

「うん。毎年餅歌が作る。今年もやると思うけれど」



 その代わり、彼女は塗る方はあまり参加しないようだ。魔法薬を作るだけでも、立派な功績だからだろう。それに、他の団員達との折り合いが上手く行かない面もあると、祝和君が話す。



「でも、ここの団員は餅歌の事を知っているんだよな?」

「うん。あんまり話さないけれど」



 白鶴団長が置いといているからという理由で、とやかく言わないらしい。しかし、裏では気味悪がれている可能性があるようだ。



「酷いな」

「団員ですらこんなだから、国民なんかもっとヒデェよ。でも、そんなクソみてーな理由で行動が制限するって、最悪じゃない?」

「そうだな。……本当に、そうだな」

「外に出るだけでも一苦労するよ。あの窯の中に隠れて行けば、まぁ大丈夫かな」



 だから布団さんで来たのか。餅歌を向かわせたのは、彼女の性格を熟知しているのと、外に行かせる為だったのだ。白鶴団長は理解している、餅歌の苦しみを。しかし、まさかそこでドラングリィ総軍に襲われるとは、団長も予測していなかったのだろう。



「これで全部か?」

「あと一色ある。一番使う、緑色」

「あぁ、葉っぱとか茎とか塗るもんな」



 当然のように、俺は祝和君の手伝いをする。彼は、これもお節介のように感じているだろうか。また俺は、ダメな彼氏の様な立ち振る舞いをしている気分になる。ワープポイントでオーブリー横丁まで行き、ペンキを買って運ぶ。30kgとは、一人で持つのは相当大変だろう。米俵の半分に過ぎないが。



「……イモ君」

「ん?」

「手伝ってくれてありがとう」

「お……おうっ!」



 どうやら、お節介のようには感じていなかったようだ。手伝って良かったと思いながら、ワープポイントまで歩いて行く。祝和君は、本拠地に帰ったら餅歌の様子を見に行くようだ。恐らく魔法薬を作っているので、その手伝いをするのだろう。



「この後はどっか行くの?」

「他のワープポイントを登録しようかなって」

「あぁそう。ここから一番近いのは『ポリネー広場』かな。宮殿の前にあるから、人も多いよ」

「分かった、じゃあそこに」



 行こうかなと言い切る前に、後ろから悲鳴が聞こえた。振り向くと、大柄の人が大きな荷物を持って店から飛び出している。後ろから、店員さんらしき人が出て来て叫び始める。



「せ、窃盗だぁーーーーッッ!!」



 周りの人が止めようとするが、その泥棒は魔法を出してフッ飛ばしていく。俺達からは元々距離がある、走ったら間に合うだろうか。



「イモ君、これ本拠地に送っといて」

「え―――」



 そう言った祝和君は、チーターの様に走り去って行く。一瞬で泥棒に追いついたに違いない。俺はブルーム・ランウェイまでペンキを運び、またすぐにオーブリー横丁へ戻る。短時間でワープポイントを使用する事は、滅多に無いかもしれない。いくら酷使しても制限とかが無いのが、救いになる。



『千道、脚を魔力強化しますよ』


「はい!」



 決意のソウル――― 恐怖を乗り越える道標ビヨンド・ザ・フォビア



 彼ほどではないが、いつもよりも三倍速で横丁を駆け抜ける。人々が不思議そうに見送るのを、背中で感じながら。



「―――いた!」



 人々を巻き込まないようにしたのか、そこまで逃げたのかは分からない。横丁の端っこで、祝和君が強盗を追い詰めている。しかし、彼の頭上に何かが落ちて来る。



「祝和くーーーーん!!!」

「うぉ」



 彼を突き飛ばす勢いでタックルしたので、押し潰されなかった。しかし、急に押されたので、何歩かは重心が定まらなかったようだ。ごめんね祝和君。



「なんだこれは!?」

「アタシのソウルだよ。どうだい、良いソウルだろ?」

「!!」



 不敵に笑う強盗のフードが外れる。こう言っては失礼かもしれないが、正直に言おう。首と肩が、ほぼ繋がっていると言っても過言ではない、横に広がっている。加えて、ギラギラなネイルにケバケバしくメイクを塗りたくった顔をしている。


 なんと言うか、女性に言ってはいけない要素を揃えている。そんな見た目をしている。ソイツはドッスンと切り株もどきの上に、両足で着地する。



「アタシはリナム・フィサ。ターミナーを頂いただけって言うのに、醜い叫び声を上げられたわ」

「ターミナー? 魔力補充する為の魔道具か?」

「そうよ。アタシ達には、それが必要……売れば良かったのに『それが無いと経済が回らなくなる』とか、低知能ロースペックな事しか言わないから、ブン取ったわ」



 正真正銘、強盗をしたようだ。ソフィスタ的に言うと、これは『緊急依頼』という形になるのだが、もはやお礼の品とかは要らない。この女からターミナーを奪い返す。それが目的だ。



「お前……第四軍団か」

「アンタはエレガンティーナイツの奴ね」



 どうやら、祝和君はリナムが何者なのかに検討が付いたようだ。しかし奴も、ソフィスタの事を知っているらしい。



「一般人には、手を出さないんじゃなかったのか?」

「アタシ達は暗殺集団よ? そんな甘い考えをしているから、いつまで経っても目的を遂行できないのよッ!」



 言葉から察するに、コイツは単独行動しているだけのようだ。しかし気になる。暗殺集団の癖に、一般人には手を出さないという部分が。善人気取っているのか、他にがあるのかは、後から知る。

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