1-37 買い出し

 ブルーム・ランウェイに着地したら、祝和君が目の前に立っていた。嬉しさと驚きが混じって思わず後ろに飛んだら、その拍子に正団員証明書がワープポイントにぶつかり、また『DVC』まで戻ってしまった。もう一度同じ所に飛んだら、相変わらず無表情で待っていた。



「寸劇?」

「えっ? ……あ、うん、そうだよ。どうだった?」

「頓狂を発しながら消えるのが、まぁまぁ面白かった」

「お、そうか」



 祝和君が紙を見ている。白鶴団長から頼まれた内容らしい。思った以上に色んな材料と個数が書かれているので、これを一人で持って行くつもりだったのかと、少しだけ引いた。



「イモ君が手伝ってくれるって言ったら『嬉しいわね、末成はもっと鍛えるべきよ』って、ベゴちゃん団長に言われてこうなった」

「すっごいソックリだな。モノマネが得意なのか」

「会えたの?」

「総団長室でな。この王国で起きている事件も知ったよ」



 彼女がどうしても解決したいのに、儀凋副団長の力を全部使っても手掛かりが無い。これは、そんな難解事件に挑む物語である事は、もう分かっているだろう。



「『いろしもの』が終わる前に解決したいって、話してた」

「そうなんだ。この王国からも沢山来て欲しいんだろうな。フロートも見てもらいたいだろうし」

「その為だけに作るんだよな、あれ。終わったら解体しちゃう」

「えぇ、飾っとかないのか?」

「場所がねぇのと、色褪せるからって言う理由らしい」



 ペンキで塗るのなら、剝がれ落ちてしまうという問題もありそうだ。一日限りのフロートは、どの団も良い仕上がりになりそうな予感がする。沢山の色を頼まれているようだ。



「どうやって運ぶんだ?」

「ワープポイント経由かな。触れてれば一緒に飛んでいくし。イモ君は塗料以外ので良いよ」

「バケツとか筆とかも、スゲェ量だな」

「非・戦闘団員が主体になるけれどねぇ、ベゴちゃん団長が監修するし」



 今も、設計を立てている様だ。祝和君は早めに依頼が終わる予定だったので、手伝わされているという事らしい。



「エレガンティーナイツのフロート、楽しみにしてるぞ」

「あぁそう。他の団よりも豪華になるかもねぇ」



 ―オーブリー横丁―



 餅歌がオススメしてくれた商店街に付いた。ここで買い出しをするようだ。他にもスーベニアショップとか、レストランとか、八百屋とか……とにかく、色んな店が左右に並んでいる。結構人がいるから、繁盛しているんじゃないかな。


 ここもワープポイントになっている様だ。祝和君について行き、登録する。



『ワープポイント――登録完了』


「ありがとう祝和君」

「へーい。じゃあ買い物するかぁ。あ、これベゴちゃん団長のお駄賃ね」

「ちょ、えっ!? 多すぎない!?」

「それくらい使うよ。道具はよろしく~」



 さっさと行ってしまった祝和君の背中を見送り、手に乗せられた額を数える。五万リディを握らせるなんざ、彼は警戒心と言うのが無いのだろうか。別に盗むつもりは全くないけれど。



「というか俺、ちゃんと買い物ができるかな……」


『サヴァーブセットの時の事を、思い出してやがるんですか?』


「そうですね。あんなに優劣があるとは思わなかったので」


『とりあえず行ってみましょう。無理そうだったら、祈答院君にメッセージを送るという形で』



 勇者さんの提案通り、物は試しという事で。店に入って、巨大なバケツを十個セットで買おうと、レジまで持って行く。店員さんは俺の顔を見るなり、驚愕する。これは少々、難航するかもしれない。



「き、君ッ!! この前の『アゾンリディー・モンゲリッジァー』に出ていた人だよね!?」

「うぇ? あ、はい。そうですね」

「凄かったよ~~~!! 魔力が無いからムリだって、決めつけていた自分を五発殴った!」

「えぇ!?」

「バケツを買ってくれるんだね、ありがと~! お会計、一万三千リディになります」

「あ、はい……」



 どうやら杞憂だったらしい、この前とは違いすんなりと買えた。そう言えば、あの適性検査はこの王国全体に『生中継』をしていたと、今思い出した。店員さんは、見てくれていたようだ。儀凋副団長のお陰で、多少は偏見を押し付けられなくなったらしい。



「おっも……」


『金属製ですか。紫外線対策をしているとは、バケツも美意識が高ぇですね』


「長持ちしますもんね~……うぐぐ……」



 明日は筋肉痛になりそうだなと思いながら、一度ワープポイントまで歩く。ブルーム・ランウェイに送れば良いらしい。正団員証明書を取り出して、一気に飛んでいく。


 ちなみにこれは、完全な余談である。ワープポイントで移動していく時の感覚は、一瞬だけ宙に浮かんだようになり、そこから光のように突き進んでいく。不思議な事に摩擦は全く感じないので、無傷で着地するのだ。



『次は筆ですか。豚毛筆って事は、油絵のように何度も塗りたくるって事か』


「水彩画よりも剝がれ落ちないですし。他の団も同じなんですかね?」


『どうでしょうね。凱嵐みてぇに丁寧になるとは……考えにくい』



 あのヤンキー集団も、ここみたいに念入りな下準備をしている、という想像が全く出来ない。やはり、団ごとに気合の入れようも異なってくるのだろう。



「筆もピンキリですよね~。まぁ、一番良い奴を買いますけれど。それにしても、重いのを一緒に運ぶつもりだったのにな……」


『ペンキを運ぶなんて、祈答院君は力持ちなんですね』


「まぁ、餅歌の事を余裕でお姫様抱っこしてましたし」



 餅歌もされるがままだったので、嫌がっている訳では無さそうだった。何故ドラングリィ総軍の事を相談しないのかは、俺が知れる訳が無い。なにせ、祝和君ですら知らないのだから。

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