1-36 ギクシャク朝食②
意外にも祝和君は、自分は食べ終わっているのに席を立たない。餅歌の話をしていたからかもしれないけど。彼にも任務があるから、ずっと一緒には居れない。でもこの瞬間も、彼女の事を考えている様だ。
「うーん、イマイチ分からねぇな」
「アイツらの目的が?」
「うん。だってさ、暗殺集団なんだろ? なのに、なんで餅歌達を殺さないで捕らえようとしてんのかな」
何だか引っ掛かる。六家罪は世界中から嫌われている存在。暗殺集団には、うってつけの標的だと思うけれど。殺してヒーローになりたい訳じゃなくても、わざわざ捕える必要が無いだろう。
「……手立て」
「え」
「復活させようとしてるっていう、噂が流れている」
「それって……もしかしてッ、むぐぅ」
「しィーーーずかに……大勢いる場所で、無暗に言わない方が良い……」
祝和君は素早く俺のサラダをフォークで刺し、思わず言いそうになってしまった俺の口元に、無理矢理ねじ込ませるように押し付ける。ちゃんと零さずに食べて咀嚼し終わった俺は、言い方を変えて話を進める。
「……『ゲンキョー』の事だよな?」
「うん。復活時に沢山の魂が必要って事だけが、古代から分かっている。いわば、生贄だよ」
「生贄……それが、ドラングリィ総軍が殺している人達になるのか?」
「その可能性が高い。そして、餅歌達から手立てを教わって、復活させるっていう手順かもね」
暗殺する理由も、餅歌達を捕らえようとしている理由も、繋がってしまった。つまり、ドラングリィ総軍自体も、結構昔からあるのかもしれない。
「どうやって餅歌の事を知ったんだろうな。あの子って、君と同い年だろ?」
「マスコミみてーにしつけぇ奴らだから、追いかけるのは得意なのかも」
「言い得て妙だな。何も知らねぇって言ってんのに」
六家罪というだけであんなに追いかけ回されるなんて、たまったモンじゃない。しかし、本当にナイトメアを復活させる手立てがあると言うのなら。いつでも可能になってしまうという事じゃないか。
「他の人達も、隠居生活しているのかな」
「そうだと思う。餅歌は五家を知らないみたいだし」
「……餅歌がここに来たのって、家族と離れる為なのか?」
祝和君は頷く。彼は餅歌に付いて行く事を決めたようだ。俺が言えたような口では無いが、家には帰っているのだろうか。それすらも叶わない生活を送っているならば、ドラングリィ総軍を壊滅しないといけない。
「……三か月くらい前の全体会議で、ゴボウ君総団長が注意喚起してた」
「ゴボウ……、……、……あ、茶寓さん?」
「ドラングリィ総軍のトップが変わったらしい。とはいえ俺達と同じように、善人には手を出してねぇ事には変わりない」
「上手い事、法に裁かれない様にしているんだな」
「暗殺なんてバレずにするモンだし。もしも見つかったら、人生のレッドカードを『国際世界警察署』から出されるよ」
つまり極刑だろう。しかし、未だにドラングリィ総軍は明確な証拠を残していない。法に裁かれるには、証拠を提示するか自首させるかしか無いだろう。
「誰かが死ぬ瞬間を見るのは、俺達と一緒だけど……目的が全然違う。アイツら、餅歌を狙っている。でもまだ、殴り込みには来てない。奴らも、作戦を練っているんだろうね」
「確実に捕まえる為の、か」
「うん。だから……守る為に、俺は奴らを殺す。一切躊躇しない」
「……そうか。俺も、戦う時が来るのかもな」
ナイトメアが関与しているならば、必ず現れる。テレスコメモリーの事も知ってそうだったし。敵が増える一方だが、これも地獄の天命だという事にしよう。だから、迷わず戦う勇気を補充しなければいけない。それが、今の俺に必要なモノなのだ。
「そろそろ行って来るかぁ。イモ君も依頼があるの?」
「うん。この国でね」
「あ、そっか。イモ君は自主的に承諾しないといけないんだったね」
無所属なので、俺は『フィデス』に投げられている依頼を、自分で選んでやって行かないといけない。とはいえ、まだ行ける国が二つしかないので、ゼントム国だけで良いと、茶寓さんから言われている。
「祝和君はシニミ討伐だよな?」
「うん。後は買い物」
「買い物?」
「『いろしもの』の準備……ベゴちゃん団長に頼まれてる」
フロート造りの為に、大量のペンキとか筆とかを購入しないといけないようだ。一から創り上げるのは大変だが、それなりにやり甲斐があるだろう。
「重そうだな」
「まぁどーにかするよ。イモ君も気を付けてねぇ」
お手拭きを使い、両手を綺麗にして祝和君と別れる。ゼントム国内の人は、俺の事を知っているけれど、ルージャ山の一件で怪異な目を向けられる事は無くなった。スマホで依頼内容を確認し、大食堂を出る。
『……千道。早く終わったら、祈答院君の所に行きませんか』
「え、あ、はい……分かりました。どうしたんですか?」
『ドラングリィ総軍が気になるのと、重てぇ荷物を一人で運ばせたくねぇなって』
「そうですね」
自分の依頼を完遂させるよりも、祝和君にメッセージを送る時間の方が長くなってしまった程には、陰キャを極めている。最終的に、よく分からない雄叫びを上げながら送信した。すぐに快諾の返事が来たので、ワープポイントで飛んで行った。
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