1-16 アゾンリディー・モンゲリッジァー②

 その昔は『大きな羊』が『美』を示すとなっていたそうだ。神様に供える動物として、崇められていたらしい。



「お見事だ、なりゆき君。 良いスタートを切ったね!」

「今の外していたら、俺も打ち上げられてた?」


『そうですね。向こうも本気でりに来てます』


「仮想空間なのに、怪我とかするんですか!?」


『しますね。魔法である事には変わりねぇので』



 【強制参加させられたのはクイズ番組じゃなくてデスゲームだった件について~1/4に五回も命を賭ける俺はただの一般ピーポー~】


 ……みたいな小説が、書けちまうよォ〜!



『現実逃避なんざしねぇで、次に集中しやがれ』



 無傷ではいられない覚悟を決める時が、来てしまった。そして勇者さんの声は、やはり俺にしか届いていないらしい。祝和君や餅歌、儀凋副団長はテレスコメモリーを怪しまない。



「それでは第二問!

 女性の髪の毛は、長さによって名称が変わるんだ。一番短いのがベリーショート、一番長いのがロングヘアさ。では、短いのから順番にした時、五番目に当たるのは?

 1『ボブ』2『ミディアムヘア』3『ロブ』4『セミロング』だね」



 『クイズ番組あるある』という雑学を、知っているだろうか。似たような奴のどっちかになるというのがセオリーである。という訳で、一か三となる。大嫌いな二択問題になったので、気分はダダ下がりである。



「あの二つ、何が違うんだ……いや、髪の長さなんだろうけど」

「ラーゥ! セルフ・ノリツッコミとは芸が高いね!」



 俺の一言一句を聞き逃さずに実況する儀凋副団長につられて、オーディエンスがドッと笑い出す。感情もそのまま模写している様子。本物は、俺以外に二人しかいないけれど。



「いや、あの……素でやったんですけれど!?」

「良いテンションだ。場も盛り上がって来る」



 恥ずかしくなってきたからか、無意識に祝和君と餅歌の方を見てしまう。餅歌は笑顔になっているが、祝和君はクソつまんなそうにしている。温度差が激しい。


 そうだ、問題を考えなければ。でも実を言うと、女性の髪形の名称がこんなにもあるなんて、知らなかったです。ごめんなさい。なので、俺が中学生の時に大流行りしていた、『テストの鉄則』に従う事にする。



「ふふ、ファイナルアンサー?」

「アンサー! 俺が、悩みの淵に落ちる前に、スイッチを!」



 儀凋副団長は返事をし、手元にあるスイッチを押す。スポットライトが消えると、臨場感が走って緊張する。



 ドギューーーーン!!

 ドギューーーーン!!


 ドギューーーーン!!



 ……パァーーーーーン!!



 リンゴンガンゴンリンリン♪♪



 観客席から拍手が聞こえる。学校に、こんな形で感謝する日が来るなんて思いもしなかった。胸をなでおろして安心していると、儀凋副団長が大画面を切り替える。そこにはマネキンが映っている。ウィッグを被っている様だ。



「女性の髪の毛の長さは、ベリーショート→ショートヘア→ショートボブ→ボブ→ロブ→ミディアムヘア→セミディ→セミロング→ロングヘアとあるよ。

 もっと細かいのもあるけれど、この九種類が一般的さ。ボブは肩につかない長さで、ロブは鎖骨辺りまでの長さだよ」



 順番に髪の毛の長さを変えていくので、非常に分かりやすい。男性は、どれくらい分けられているのだろうか。



「なりゆき君には、愛しの恋人がいるのかい?」

「え? ま、まだいません、けれど……未来の恋人の為に、覚えます!!」

「ふふ、その時になったら是非教えてくれ。応援するよ」



 咄嗟に話題を振られたからとはいえ、相当イタい事を言ったと思う。だけど、本心でもあるんです。オーディエンスも良い反応だったらしく、声援を投げかけられる。



『英雄は、セミロングだったのか』


「あぁ、そう言えば一本結びをしてましたね」


『自ら解くのはあまり見ませんでしたが、大体戦闘で滅茶苦茶になっていやがりましたね。その都度、凱嵐に直して貰ってて……ふふ』



 勇者さんは、十二年間もこの中にいるけれど、一日たりとも英雄さんの事を忘れていないんだろう。こういう些細な事も、よく覚えている様だ。



「それでは第三問! 次の四つの内、もっとも美しい比はどれかな?

 1『1:1.618』2『1:2.414』3『1:1.414』4『1:3.030』さ!」

「うん、全然分からねぇ。数学なんか大ッッ嫌いだ、ばぁぁぁぁか!!!!」



 良い機会だ、俺の学生時代での最低点数を教えてやろう。あれは中学二年生だった、まだ不登校じゃない。『数学』の48点だ、さぁ笑えよコンチクショー!!



「真面目に考えろ!」「下品だぞ!!」「魔法砲の餌食になれ!」


「俺文系だったし! 世界史専攻だったしィィィィ!!」


「言い訳するな!」 「みっともないぞ!」 「この野蛮人が!!」


「オイ最後! 言ったの誰だ出て来いッ!!」



 ゼー……ゼー……と、大声を出したので息が荒くなる。軽く深呼吸をして、気持ちを切り替える。でも『野蛮人』呼ばわりは、解せぬ。たとえ、仮想空間の人でも。



『図形の話ですか』


「勇者さん、分かります……?」


『いや、おれは……不登校気味だったので……』


「え、そうだったんですか? 俺もです」



 多分だけど、高校にちゃんと通えていたら、こんな問題さっさと解けるんだろうな。どんな時でも恨めしくなる、この右目が。

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