オーディション編

1-15 アゾンリディー・モンゲリッジァー

 『アゾンリディー・モンゲリッジァー』というのは、エレガンティーナイツ副団長である、儀凋 仁が司会を務めるレギュラー番組である。

 四択クイズに答えたり、ダンスや演劇でパフォーマンスをし、自分がどれ程美しいのかを診断してもらうコンテンツで、普段は事前収録らしい。



「今は『適性検査』なので、この王国でされています!」

「な、な……生中継ィ~~~~!?!?!?」



 すっぴんで来てしまったので、素顔が大バレになった瞬間である。確かに無理な人には無理だろうなぁ、この適性検査は。自分をさらけ出すのが前提のようだから。



「さぁチャレンジャー。この舞台の主役はさ。君のパフォーマンスによって視聴率も、評価も……合否も変わるよ。私達から『信頼』を勝ち取る事が出来るのは、だという事を、肝に銘じておくと良い」


「やるしかないですよねええええ!!」


自棄やけになりやがってますね、千道』


「おぉ……嬉しいね。こんなにやる気があるチャレンジャーは、実に久し振りだ! 本日は是非とも、楽しんで貰いたい。それでは、自己紹介してもらおうか」



 彼が指パッチンをすると同時に、舞台の底が開いてマイクが出て来る。手に取った瞬間、途端に緊張してきた。


 い、いやいや、観客も本人じゃないんだ。偽物なんだ。これは学校の発表会だと思えば良いんだ。そうだ、ここにいるのはだよ。


 キュウリ、ニンジン、ダイコン、ハクサイ、カブ……



「この番組、なのが『鉄則』なんだよねぇ」

「え、そうなのか」

「加えて、これは生放送なので。隠すのが吉ですよ!」



 まぁ確かに、本名を隠して活動している方も沢山いる。無理して名乗らなくても良いんだ。芸能界としても自分と、本当の自分を混ぜないようにするのも大事だよな。


 俺の名前は末成 千道。ここから連想してみよう。


 すえなりちゆき、すえなり……ちゆき……



「は、初めまして『なりゆき』です! 特技はビデオゲームで、趣味はテレビゲームです! よっ、よろしくお願いしましゅ!」


「同じじゃん」

「緊張してますね~」



 安直すぎる芸名☆爆&誕である。そして最後の最後で噛んだ、くそったれ。祝和君が鼻で笑っている。餅歌はいつも通りの笑顔だ。



ありがとうルガスィ! ふふふ、大勢の前でいきなり完璧な自己紹介は、中々出来ない、これもご愛嬌さ。この勇敢なチャレンジャー、なりゆき君に大きな拍手を!!」



 オーディエンスは儀凋副団長の言う通り、俺に拍手を送る。彼は苦虫を嚙み潰したような顔をしている俺から、マイクを回収する。


 後ろを見ると、二人はいつの間にか案内されたのか、舞台袖の席に座っている。餅歌は両手で小さな拳を作り、口パクで「頑張って下さい!」と言ってくれる。嬉しい。祝和君は頬杖をついている。もう無表情だ。何か言ってくれ。



「それでは、『アゾンリディー・モンゲリッジァー』のルール説明をするよ。画面に注目してくれ」



 俺は大画面に目を向ける。やはり中央にはド派手に『アゾンリディー・モンゲリッジァー』と書かれている。その下に、小さく『1/5』と追加された。



「下に浮かび上がった文字は、クイズの問数だよ。右が合計、左が君が挑戦した数となる。『1』『2』『3』『4』と書かれた鏡のうち、どれか一つに立って答えるのが基本ルールさ。四問以上正解すると、この『適性検査』は合格となるよ」



 間違えられるのは、一問だけ。これは、受験とは違って問題の傾向も分からない。だから、予習すらも出来てない。


 だが受からないと、白鶴団長に会う事すら叶わないのだ。



「やってやる……!」

「それでは行こうか。さぁ皆様、ご一緒に!!」



  _人人人人人人人人人人人人人人人人_

  >アゾンリディー・モンゲリッジァー<

   ̄ Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^  ̄



 大声量とクラッカー音と共に、画面に『第一問』と表示される。エレガンティーナイツの適性検査が、始まった!



「では第一問!

 『美』というのは、何の動物が語源になっているだろうか?

 1『牛』2『羊』3『馬』4『鳥』だね!」



 第一問なのに、諦めが速すぎると思われるかもしれない。だが正直に言うと、全く見当もつかない。テストで第一問を間違えると、どんなに良い点数でも萎えるのは俺だけのだろうか。



『凱嵐の事です、【美】を大切にしていやがるでしょう。公園に置いてあったトピアリーで、一番多かった動物とかじゃねぇですか?』


「一番多かった動物?」



 国立パルブ公園には、色んなトピアリーが置いてあった。動物よりも、花の方が多かった気がするけれど。思い出してみよう、一番多かった動物は……羊?


 俺は、二番目の鏡の前に立つ。ステージの四隅に置いてある鏡は、俺より大きい。全身が良く見える。前髪をササッと整えて、儀凋副団長を見上げる。



「ファイナルアンサーかな?」

「はい。これで間違いないです」

「では、答え合わせと行こうか」



 そう言いながら、儀凋副団長は手元にあるスイッチを押す。すると、スポットライトが暗くなる。



 ドギューーーーン!!


 ドギューーーーン!!

 ドギューーーーン!!



 ……パァーーーーーン!!!



 リンゴンガンゴンリンリン♪♪



 二番目の鏡から、巨大なビーム……じゃなくて、魔法砲が出て来る。三つは中央で交わり合い、そのまま上へ打ち上げられて花火となった。

 そのままスポットライトが明るくなり、正解のコールが鳴る。オーディエンスも立ち上がって、歓声と拍手を送る。



 ……俺だけが、今起きた光景に愕然としているようだ。

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