1-14 オープニングトーク
背中が痛い。祝和君に思い切り蹴られたからだ。後で問い質してやると誓ったのは良いが、足が地面に付く気配が一向に感じない。ずっと落ち続けている。このままだと全身を殴打して骨折して、意識が飛ぶどころじゃないぞ。
「神様、仏様、お天道様!! 英雄さん、勇者さーーーーーん!!!」
『呼びましたか』
「助けて下さああああーーーーーーいッッッ!!!!」
『はいはい……』
漸く地面が見え、激突する直前に右腕が勝手に上へ向く。テレスコメモリーが引っ張って、勢いを殺してくれたのだ。
「あ、ありがとうございます……うぉ、なんだ?」
よろけながらもお礼を言うと、足の裏に柔らかい感触を覚える。その場で足踏みをしてみると、ウールが舞った。どうやらクッションの上に立っている様だ。
『必要なかったじゃねぇですか』
「そんな事無いですよ!」
周りを見渡すと、小さなランプだけが道を作っている。進んで行こうか悩んでいると、すぐ隣で何かが落ちてくる音がした。見ると、美少年がドッカリ踏ん反り返っている。
「祝和君……あのなぁ、急に」
「ちょっと退いて」
「はぁ~?」
俺が言い切る前に、肩を思いっきり押されて後ろへ下げられる。彼は上を見続けて、両手を前に出す。そして位置確認するように足を動かして、少し腰を低くする。
「ふわぁ! ……わぁ、祝和君だぁ!」
「怪我は無い?」
「うんっ、ありがとう!」
どうやら祝和君は、餅歌が落ちて来る場所を確認していたようだ。俺を突き飛ばしたのは解せないが、見事に横抱きを成功させ、優しい声色と表情を彼女に送ったので許そう。二人はランプに従って歩き始めていく。後ろをついて行っていると、ランプが無くなってしまった。
「タケ君副団長ぉ~~~」
「到着しました~~~!」
二人が暗闇に向かって叫ぶと、どこからかドラムロールが始まった。この状況に唯一ついていけない俺は、背中を押されて前へ出される。目を凝らして周りを見ようとするが、何も見えない。二人に話しかけようとしたら、スポットライトがグルグルと回り出す。複数の光が、色んな所を彷徨っている。
「な、何か始まるの?」
「適性検査でしょ」
「会場違くない!?」
「合ってますよ~」
今度は手拍子が聞こえ出しているので、どう考えても何かのショーが始まるとしか思えない。彷徨っていたスポットライトが、消える。そして、一気に視界が明るくなったので、思わず腕で顔を覆う。全ての照明が付いたようだ。
「この瞳に映る景色は?」
_人人人人人人人人人人人人人人人人_
>アゾンリディー・モンゲリッジァー<
 ̄ Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^  ̄
一人の男の声がした。その瞬間、ドラムロールと手拍子の音が消え、代わりに全方向からコールと大喝采と歓声の嵐が、巻き起こる。
ゆっくり目を開けると、『アゾンリディー・モンゲリッジァー』とオシャレなフォントで描かれた大画面と、そのすぐ傍にボックスに乗った男の司会者が映る。
「さぁ、本日もやって来たよ。この私、エレガンティーナイツ副団長・
一際目立つ、豪華な飾り付けがある白いスーツを着ていて、シルクハットがよく似合っている。そこから見える髪の毛の色は、赤みがかった茶髪って感じだ。
「副団長!?」
「うん。まぁ本物じゃないけれど」
「え、どういう意味!?」
「この舞台は、魔道投影機で作られた場所……言わば仮想空間なんです。周りのお客様も、ご本人ではありませんよ~!」
本物の副団長達は、今も普通に依頼をこなしているらしい。投影機か、便利なモノだ。この臨場感溢れる会場を創れているのも、高度な魔法技術を使っているという事だろう。なるほど、だから時間が掛かってしまったのか。
「さぁ皆様、ご注目あれ! 今回のチャレンジャーは、彼だ!」
「うぉぉ!?」
儀凋副団長が俺の事を指さしたと同時に、スポットライトが俺に集中する。彼は乗り物ごと移動し、俺の観察を始める。
「魔力が微塵も感じられないとは、お初のゲストだ。しかし、見た目で人を判断してはいけないよ。種族は人間かな、私と同じだね。内部構成も魔力の循環以外は、全く同じだと推測しよう。身長は177cmで、体重は65kgだね。並大抵よりも、筋肉が付いた体つきだ、どこかで山登りでもして来たのかな?」
身長と体重だけじゃなくて、どうして筋肉が付いたのかも言い当てられると、恐怖を覚える。実際、一週間くらいルージャ山に籠って、シニミを虐殺していたからな。
「……あぁ、すまない! 私は、未知を知る事が趣味なのさ。君のことも是非、沢山知りたいと思うんだ。その衣装、とても似合っているよ。ソフィスタの制服で来るとは、意識が高いね」
「あ、ぁ、どうも……」
唐突に褒められたので上手く言い返せないまま、鼻歌を歌いながら大画面の隣に戻って行くのを見届ける。場を盛り上げる為に、
投影機で創り出された『偽物』といえど、話し方も立ち振る舞いも本人そのままらしい。
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