1-50 夜のキャンプ

 ピスティル空中庭園の話をどうしても聞きたいのと、まだ夕食を食べていなかったと言う訳で、ブルーム・ランウェイの前でキャンプをする事にした。目の前には本拠地があるので、祝和君が材料を取りに行ってくれる様だ。



「餅歌、どれが食べたい?」

「うむむ……これ!」



 かぼちゃグラタン 材料 (1人分)


  かぼちゃ(1.5cm厚さのスライス)…… 1~2枚

  鶏もも肉 …… 45g

  サラダ油 大さじ1

  玉ねぎ(みじん切り)…… 1/5個

  塩 …… 小さじ1/2

 こしょう …… 少々

  ホワイトソース …… 100g



 材料を貰って来た祝和君は、少しやつれている様に見えた。何かあったのかと聞くと、白鶴団長に怒られたらしい。



「『拒食届』出さないで、飛び出して行ったからさぁ」

「あぁ……夜ご飯は皆で食べているんだったっけ?」

「うん。つっても全然豪華じゃねぇから、今食べて来たけど」



 一瞬で食べ終わったようだ。かぼちゃグラタンを食べる事にも、白鶴団長は怒ってしまうのではと思ったが、一日くらいは許してくれる様だ。下ごしらえを終えて、火釜にブチ込む。



 バ ッ カ ァ ー ー ー ー ン ! !



「よし出来た」

「やっぱこれ、スッゲェ音……」



 三人で円になり、かぼちゃグラタンを食べ始める。柔らかくなっており、エキスが溢れているのが美味しさを加速させている。かぼちゃは、餅歌が一番好きな野菜らしい。母親とよく食べていたと話してくれる。



「お母さんはよく、かぼちゃのパイを作ってくれたんですよ~」

「パイかぁ、美味しそう」

「祝和クンがよく手伝っていたね?」

「作り方を知りたかったんだよねぇ」



 祝和君は、餅歌の母親と会った事があるようだ。という事は、二人は随分前から知り合っているのだろう。餅歌の事をずっと見て来ている故に、あんな暴走癖が付いてしまったのかもしれない。



「なぁ、ピスティル空中庭園って、本当に危険地帯なのか?」

「うん。でもちょっと変だけど」

「変?」

「危険地帯に認定されている割には、シニミの量が少ないんです」



 それはまた変な話だ。危険地帯に身を投げた事がある俺からすれば、俄かには信じれない。しかし二人が言うので、本当の事なのだろう。だから『非・戦闘団員』が見回っているのか。



「なんか、シニミ以外で変な事は起きてないのか?」

「う~ん……ピスティル空中庭園っていうか、この王国って言うか……」

「王国……殺人事件か?」

「いや、それじゃない。……なんて説明すれば良いのかな、餅歌ぁ」

「難しいね、祝和クン」



 ジュギャァァァァァーーーー…………



「? なんか聞こえなかったか?」

「これだ、これ」

「え、今の?」



 二人に聞いてみると、最近ケルリアン王国のどこかから、不気味な雄叫びが聞こえる様だ。その正体も分かっていないし、どこから発せられているのかの見当も、全くついていない。



「別に、これが原因の被害届も出てねぇんだよね。だからベゴちゃん団長の中では、優先順位は低いよ」

「……でも、気になるな。最近になって、急に聞こえる様になったなんて」


『――――』


「?」



 三人で首を傾げていると、勇者さんが何かを呟いた気がした。二人には元から聞こえていないので、テレスコメモリーに注目すると不審に思われてしまうだろう。それに、あんまり話し込んでしまうと睡眠時間が削られるので、食べ終わったら家に帰る事にした。



「千道サン、今日はとても楽しかったです!」

「俺も楽しかったよ、ありがとう。……明日の見回り、無理しないでね」

「はーい!」



 二人と別れて、ワープポイントでゼントム国まで飛んでいく。ベッドに身を投げて目を閉じていると、テレスコメモリーが独りでに動く音がした。



「勇者さん? どうかしましたか?」


『……千道……明日、凱嵐に会いに行きたいです』


「え」


『あの鳴き声の事、彼女からも聞いてみたいんです……』



 何だか元気が無いように思える。確かに変な鳴き声だった。勇者と言えど、彼も人間である事には変わりない。得体のしれない恐怖に触ってしまったら、不安を覚えてしまうのも当然だろう。



「分かりました、会いに行きましょう!」


『……ありがとうございます』


「勇者さん、今日は布団に入りましょうよ!」



 そう言った俺は、テレスコメモリーを隣に置いて布団を被せる。枕の位置を調節して、再び寝そべると勇者さんが戸惑いの声を上げる。



『おれは、ぬくもりとか感じねぇですよ?』


「分かってますよ。でも、こうした方が少しは不安が和らぐかなって。……あ、いびきが煩かったらゴメンナサイ」


『……ふっ、全く優しいんだから。鼾なんぞ気にしねぇです。存分に掻いて下さい』


「そ、そう言われると掻き辛いな……」



 少しだけでも、元気になって来た様だ。明日は白鶴団長に会えるだろうか。取り敢えず朝一に本拠地へ行ってみようと思い、目を閉じた。



―――――


【お知らせ】


 お陰様で50話を突破しました、ありがとうございます!

 記念に、感謝イラストを公開します!(近況ノートに飛びます)


 主人公トリオの関係図です!

https://kakuyomu.jp/users/henavelro/news/16818093075990480768

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