白鶴 凱嵐
1-51 忠告
4月7日
「末成 千道様。『尋問棟』に拘束されている方が、貴方との面会を希望しています。会いに行きますか?」
大食堂で朝ご飯を食べ終わり、ワープポイントへ向かおうとするところに『尋問棟』の方が来て、そう言った。八個の団の本拠地は、各国にある。そして本部となる『DVC』には『○○棟』という建物がいくつもある。そこで働いているのは団員ではなく、雇入れらしい。
「行きます!」
――尋問棟――
「こちらです。何か、問題が起こりましたら拷問器具が稼働しますので、ご安心下さい」
「は、はい」
尋問と拷問は別物だと思う。内心考えながら、案内された牢屋の前に立つ。中には包帯が全身に巻かれていて、自分では動かせない体勢をしている人がいる。祝和君にボコられた『ドラングリィ総軍』の奴だと思うが、一応聞いておこう。
「誰ですか」
「リナム・フィサよ……顔にも包帯を巻いているから、分からないのも当然ね」
一目で分かるくらいに痛々しい。女性と言えど、餅歌を馬鹿にして来たので、祝和君は容赦しなかった。これは、拷問器具が稼働する心配もないだろう。
「何の用だ」
「忠告してあげるわ」
リナムは弱弱しい声を出しながら、ブリキの人形よりもぎこちない動きで、テレスコメモリーを指す。
「ドラングリィ総軍は六家罪だけじゃなくて、その杖も狙っている。むしろ、そっちの方が大事かもしれないわね」
「……なぁ、何でこれを知っているんだ?」
「『大元帥殿』から、聞かされているからよ。全員、知っている」
大元帥。それが、ドラングリィ総軍の一番上に君臨する存在のようだ。リナムは下っ端だから、実際に見た事が無いらしい。というか、ソイツの姿を見た事ある人は、上官の中でもいないと言われているようだ。
「いつも、文通で指示が来る。上官達は、それに従っているだけ」
「お前が所属している『第四軍団』って、ドラングリィ総軍の一部なんだよな?」
「そうよ。ケルリアン王国に本部が置いてある。エレガンティーナイツの存在も知っている。でも、大元帥殿から指示が来ないから、襲撃をしない」
やはり、今はその時ではない様だ。だが言い換えると、攻撃の命令がいつ起きてもおかしくない。エレガンティーナイツと戦争なんて、想像だけで混沌化するだろう。そこに俺が関わる事になるならば、もっと複雑化するに違いない。
「第四軍団のトップは?」
「ガルゼェ将軍殿という。目を付けられているから、災難が起きるわよ。逃げようとしても無駄。アンタ達は、絶対に関わる」
「何でそう言い切れる?」
「『仁義と悪は、嫌でも必ず交わる』。この世界の決まり文句として、覚えておくと良いわ。……少し、離れなさい。もう、時間ね……」
「は?」
「何故、一般人には手を出していけなかったのか……その理由を、教えてあげる」
『! 千道、下がれッッ!!』
俺の脚よりも先に、テレスコメモリーを持っている右手が後ろに引っ張られる。背後の牢屋にぶつかるが、幸いにも誰もいなかった。起き上がると、前方の牢屋から血が出て来ている。
「リナム……?」
赤い海を踏みながら、中身を覗いてみる。そこには、さっきまでいた筈の囚人が息絶えているではないか。血肉だけではなく、臓器も見えている。背後から恐怖が駆け上り、その場で立ち尽くす。
「な……にが……?」
『死んだ……正確に言うと、殺された』
「えっ……?」
『銃声も、爆発音も。細胞が張り裂ける音なんて、聞こえなかった。無音で殺されやがった』
これが、一般人に手を出した代償となるらしい。だから、単独行動はしないのだ。暗殺集団と言えど、自分の命が誰かに消されてしまうのは、何があっても嫌だから。
折檻とかではなくて、殺人を実行するなんて惨たらしい。ただ一つ言えるのは、殺したのは彼女の上官である事だ。それが将軍なのか、大元帥なのかは分からない。
ただ、この光景を見た俺への、宣戦布告のようにも感じる。
「仁義と悪は、嫌でも必ず交わる……」
『?』
この世は『仁義』と『悪』で成り立っている。正反対、真反対、対極。そんな言葉が似合う二者だ。関わらなければ、この世は物騒にもならないだろう。殺人事件も起きる訳が無い。
しかし現実世界は非常にも、毎日何かしらの事件が巻き起こる。それは何故か。
「……お互いが、お互いを望んでないから……」
ジャンケンする時、『グーを出すな!』って強く思った時に、相手はグーを出す。逆に何も考えていない時に限って、パーを出して来る。それと似ている気がする。
これから目標に向かって、この『決意』のソウルで突き進む。勇者さんと、この地獄を放浪する。それを拒む奴らは、この先わんさかと出て来るに違いない。
「……魂の事を、何も考えていない奴らなんかに……俺達は負けない」
尋問棟の人が来て、リナムの残骸に驚愕する。説明すると、後は対処しておくと言われて外に帰される。立ち止まってはいけない。彼女の為にも、俺は動かないといけない。
ワープポイントへ歩き、ケルリアン王国へ飛んでいく。白鶴団長に会う為に、ブルーム・ランウェイに赴く。
『着きましたね』
「彼女は中にいると良いんで」
「「「「きゃーーーーーっっ!!!」」」」
「っ、ぉお!? 何だぁ?!?!」
一歩踏み出そうとしたら、黄色い歓声に視線が行ってしまう。老若男女問わず、何かを囲っているようだ。事件かと思ったので、近くまで寄る事にした。
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