1-48 極秘情報

 『国際世界医療機関』は、主に患者の治療をする。その患者の中には、芸能人やお偉いさんもいるようだ。そして、ユーサネイコーに漂っている、噓か本当か分からない、どこか神秘的な情報を持っている人も、時折現れるらしい。



「まぁ、ちゃんと裏付けは取るがな。を流したらもう大変さ」

「それが、極秘情報ですか?」

「あぁ。お嬢からしたら耳が痛くなる話だから、今の内に話そう。に関する情報だからな」



 後ろの扉をちらりと見たシンサスさんは、少しだけ屈んで俺に顔を近づける。俺も、左耳を彼の口元へ持って行く。彼は、小声で話し始める。



「……お前さんは知っているか。六家罪のを」

「ナイトメアを復活させる、手立てを知る存在……」

「その通り。しかしその言い方だと、少々をする人が多数。噂ですら捻じ曲げられているから、困ったモノだ」

「えっ?」

「いいか、末成。手立てと言うのは『』だ。

 歴史には『』しか載らないから、分からなくなる」



 ここで言う『結果』というのは、ナイトメアの復活。これが実現してしまったら、この地獄は奈落へと生まれ変わるだろう。その結果を作る為に、どこに行って何をするべきかを『過程』と言う。


 六家罪は、この『過程』を知っている存在となる。



「お嬢は知らない。だが彼女の御母堂や他の家の方も、となる。それが、迫害される由縁」

「じゃあ本当は……アイツは、って事ですか!?」

「いいや、そんなから、奴は復活出来てない」



 シニミの始祖であるナイトメアは、御伽噺でしか出て来ない存在と、巷では言われている。しかし『国際世界組織』は、奴が実在する事を知っている。俺も勿論、そう思っている。



「この前、わざわざ本部まで来た患者は『六家罪』を名乗る者だった」

「えっ?!」

「どこの家なのかまでは、特定出来なかった。何故なら、顔の皮膚が剝がれ落ちていたからな」

「うぅ……」



 それだけではなく、髪の毛すら一本も無い状態だったようだ。その方も生き延びようと必死だったのだろう。だが、医療機関の方に出来る限り伝えて、息絶えてしまったようだ。



「へその部分を見たら、お嬢と同じ痣が刻まれていたからな。これはだ。話したのは、正に『過程』についてだ」

「それは、何ですか?」

「奴が復活するには、が必要らしい。そのを思い出したと言っていた。しかしを言う前に、事切れてしまった……結局は、分からずじまいってところだ」



 肝心な部分と言うのは、順序だろう。それを知ってしまったら、何があっても隠し通さなければならない。ナイトメアが復活するのを、阻止する為に。



「何も言わなかったら、迫害されないのでは?」

「はは、確かに一理ある。だがな、末成……六家罪を追いかけ回すのは、必ずしも彼女達をんだ」

「……!!」



 この王国へ来る時に、ドラングリィ総軍が「我々に必要だから、餅歌を渡せ」と言って来たのを思い出す。やはり、奴らの狙いはナイトメアの復活だろう。



「で、でも……餅歌は知らないんだ。これからも……知る事なんて」

「いや、必ず知る日が来る。これは、古代から続いている。本にも載っているくらいだ」



『復活時に沢山の魂が必要って事だけが、古代から分かっている』



 今日の朝食の時に、祝和君が話していた事を思い出す。ナイトメアの復活は、古代からという事だろうか。夥しい生贄に加え、十二の古代魔道具……



「どうして……餅歌は知ってしまうんですか?」

「別の惑星出身である末成には、難しい話かもしれないが……『魂の導き』と、言われている」



 六家罪は、それぞれの『特有魔法』がある。この六つのソウルを、いつか必ず持つようだ。一種の遺伝のようだと捉える事が出来る。これは、一般の家庭にも当てはまる。


 だが手立てに関しては、六家罪しか知らない。祖先は子孫に話もしないし、どこかに書き記したりもしない。しかし、何かをキッカケに子孫は突然、様だ。これが、魂の導きと言われているらしい。



「導きなんかじゃない……そんなの、酷い呪いじゃないか」

「そうだな。しかし、これが六家罪の宿なんだ」

「宿命……」



 俺は、自分が望む天命に従う為に、運命を変える覚悟でいる。だけど、には、打ち勝つ事が出来ない。人間が変えられるのは、進む運命だけなのだから。



「それにドラングリィ総軍の様な、ナイトメアを崇拝している奴らが、手立てを今世に残している可能性もある。今の所、目撃情報は無いが……」

「アイツらも、昔からいる存在なんですよね?」

「そうだな。だが奴らの事も、あまり分かっていない。どうしてナイトメアを復活させたいのか……いや、そもそもが、どれ程いるのかも」



 苦しい。神様はどうして彼女達に、そんなかんな運命を与えたのだろう。生まれた場所で、関わり方がすべて決まってしまう。思うように生きられないのが、どれ程辛い事か。ドラングリィ総軍は餅歌を捕まえたら、無理矢理にでも思い出させようとするのだろう。そんなの、俺が許す訳が無い。



「餅歌を苦しめる要素は、全部ブッ壊してやる……!!」



 無意識に、右手で石のように固い拳を作っている。もしもカップを持ったままだったら、割ってしまったかもしれない。それくらいに、俺は怒りを感じている。まどっこしい魔道具を創ったナイトメアにも、六家罪を軽蔑する世間にも。



「……骨騎士のような事を言うな、お前さんは」

「えっ、そうで」

「餅歌、ごめん!!! ……あ? 何でイモ君がいんの?」

「祝和君!??!?」

「おぉ、ご本人だな」

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