1-45 ゲーセンに行こうぜ②
「見て下さい千道サン! 『ニューレコード』ですって!」
「凄いね~。よく踊りきったじゃん」
結果発表を見て、凄く嬉しそうにしている彼女に拍手を送る。ちなみにだが、ゲーセンの機械は『ゲスト』扱いになっている。一度終わったら、その都度スコアがリセットされてしまうので、必ず『ニューレコード』になるという野暮な事は、絶対に彼女には言わない。この笑顔を失くしたくないから。
「千道サンも踊りますか?」
「そうだな。さっきのにするよ。曲名教えて」
「『ブーレン・ブェッジ・ブルンゴト』という曲です!」
「どういう意味?」
「古代ケルリアン語で『美しく呼吸する花束』と言いますね~」
翻訳薬の効き目が薄くなっているのもあるが、専門用語や古代語などは、元々対応が出来ていない。読めない文字が多くなるのは苦労するので、やはり茶寓さんに相談した方が良いかもしれない。
「でも、音楽しか流れませんでしたね? 本当は、歌詞が付いているのに。それに最初の部分だけでしたから、とても短かったです」
「それは多分、ゲーム用にカットしているんだよ。それで、歌詞無しの方にしたんじゃないか?」
「なるほど~! この曲って、国家と同じくらいに大切にされているんです! いつか、全部聞いてみて下さい!」
「あぁ、分かった」
そう言いながら俺は『ふつう』を選んで台に乗り、ステップを踏み始める。やはり『かんたん』よりは、流れてくる譜面が多い。しかし一度聞いているので、ゲームオーバーにならずに踊り切れる。
曲が終わると、餅歌が拍手してくれた。流石にフルコンボは出来なかったけれど、三ミスで収められたので、まぁ良しとしよう。
「凄いです~! 千道サンって、ゲームが得意なんでしったけ?」
「まぁ、テレビゲームは良くやってたけれど。全般的じゃないと思うぞ」
「私からしたら、凄く得意そうに見えます!」
「そ、そう? ありがとう」
真っ直ぐな瞳を向けられてそう言われると、
「あれが『テレビゲーム』と言うモノですか? 画面があります!」
そう言いながら、浮き浮きで駆け足になった餅歌の後を追う。見ると、固定された椅子が並んで置いてあり、前には画面が映し出されている機械があった。
「そうそう、これがテレビゲーム。えーっと、これはどういう内容なのかな」
俺は取扱説明書を見る。どうやら、このゲームはカーレースの様だ。手元にあるハンドルを動かして、画面内で走る車を動かすという内容だ。
「一緒にやってみる?」
「はい!」
「難易度は『かんたん』で良いかー?」
「よろしくお願いします!」
俺と餅歌は隣同士に座り、お金を入れてゲームを起動させる。俺と餅歌以外の車はCOMだ。所謂、機械。
レースが始まった。ハンドルを動かして車を操作する。一直線に、ちらほら障害があるだけだ。ぶつかったらロスタイムなので、避ける。
ヒマワリがカーを加速するアイテムで、ラフレシアが上位三位のカーを一時的に停止させるアイテム。そんで、右足にあるボタンを押したらブレーキ、左足がアクセルって感じか。
「よし、ここだ!!」
道中で手に入れた、ブーストアイテムとなるイエローサルタンを使い、障害物を避け、一気に五台抜いてトップでゴールする。この手のテレビゲームは、実に久しぶりだった。腕が鈍って無さそうだ。
しかし隣の餅歌は「ほわぁ~!?」とか「うわ~ん!」とか言っている。凄く心配になったので、彼女の方を向く。
「餅歌、大丈夫? ……うん? なんで他のカーが逆走しているんだ?」
「わ~! ずっと矢印が上から出ています~! どうしてですかぁ~!?」
「……餅歌が逆走しているのかッ!! は、ハンドルを全力で動かすんだ!」
「こ、こうですか?」
「回し過ぎ、回し過ぎ!!」
餅歌のカーが、えげつないスピードで回転し始める。そのまま崖から落ちてしまった。再出発しようとした瞬間、餅歌が足で押す場所を間違えたので、全力バックし、また崖から落ちた。
「右下に『7』って書かれているのは、ラッキーって事ですかね?」
「それ、順位だね」
ずっと最下位だったようだ。他のカーも、のろのろしながらゴールを通ってしまった。もはや勝負など関係無しに、餅歌をゴールさせる事に尽力する。
「よし、そのままブレーキを踏んで、軌道を変えるんだ」
「えっ!? 凄く進んでいきますよ!!」
「それアクセルぅぅぅぅぅ!!!!」
ガッシャーーーーン!! と、ガードレールを貫通する。三度目となる、滑落だ。どうやら、一度落ちたら『故障』という、デバフ効果が出て来てしまうようだ。物凄くトロくさい。歩行者にも抜かされている。
それからも餅歌は、何度も踏む場所を間違えたり、ハンドルを逆に回したりしたので、カーがほぼ全壊でのゴールとなった。タイムは、六位の十倍は超えている。むしろ、よくこの状態でゴールが出来たなと思うが、そこはゲームの中なので。
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