1-44 ゲーセンに行こうぜ
「ここって、何があるんですか?」
「リズムゲームとか、ビデオゲームとか……クレーンゲームとか」
「くれーん? 車はこの中に無いと思いますよ?」
「う~ん、ちょっと違うねぇ」
言葉だけでは、伝わりそうにない。ゲームと言うのは、正に『百聞は一見に如かず』なのである。彼女はとても興味深そうに、遊んでいる人達を見ている。
「あー……あのさ……」
「はい?」
「その、知り合いとの話が終わったら……俺と一緒に、遊んでみない?」
「えっ!? 良いんですかぁ~!?」
両頬に手を当てて「わ~っ!」と、嬉しそうに言う餅歌は、とても可愛い。それにさっき言った通り、俺自身もこの世界のゲーセンがどんな感じか、とても知りたいのだ。
「お知り合いサンとの時間はまだ早いので、先に遊びます!」
「そうなの? 分かった」
彼女はニコニコしながら、フードを深くかぶる。ゲーセンの中には人も多いだろうから、誘うのは良くなかっただろうか。しかし、本当は遊べるのによく分からん理由を付けられて出来ないなんて、苦しい以外何物でもないだろう。
『デートですか』
「まぁ、そうなっちゃいますね。あ、でも彼女には、祝和君がいますから。
『本当ですかぁ~?』
「マジですよ。俺、祝和君の事を応援しているんで」
『あの歪な一途をですか』
「あそこまで本気なのは、中々お目にかかれませんから」
クラスメイトや近所を思い出してみると、浮気とか不倫とかが普通だった事に絶望する。マトモに付き合っていた組なんて、冗談抜きで一つもいなかったな。しかし悲しいかな、そっちの方が普通であるのだ。
「千道サン、どうしましたか?」
「うん? お金はあるかな~って、思っていただけ」
「お金が掛かるんですかぁ!?」
「はは、俺が払うよ。ゲーセン代くらいは持ち歩いているし」
そう話しながら、俺達はゲーセンに入っていく。テレスコメモリーは、リュックの中に入れておく。こんな場所で戦闘になったら、ケルリアン王国の民度の低さを疑おう。
―ツード・ゲームズ―
ネオンっぽいライトに照らされて、色んな機械が置いてある。結構色んな人が楽しんでいるので、とても賑わっている。どこに行っても、こういう娯楽の場があるのは嬉しい。
「おぉ、本当にゲーセンだ」
「あれは何ですか? どうやって遊ぶんですか?」
右手で入口のすぐ傍にある機械を指し、左手で俺の袖を軽く引っ張る。これを天然でやっているのかぁ、そりゃ祝和君があんなになる訳だ。
「あれがクレーンゲームだよ。ほら、上に何かを掴むような機械が、ぶら下がっているだろ? これを動かして、下にある商品を取るんだよ」
「むむ、機械なんですね。ボタンが並んでいます! どれを使うんですか?」
「一回やってみるよ、見ててね」
一回に付き百リディか。まぁ妥当だな。お金を入れるとボタンが光り出し、音楽が流れ出す。機械が稼働したのだろう。赤のボタンが上下で、緑のボタンが左右に動くらしい。俺はボタンを押して、クレーンを動かしていく。そして、決定ボタンを押した。
「わぁ! クレーンが下がって、ジニアをキャッチしましたよ!」
「普通、商品はぬいぐるみとかお菓子とかなんだけれど……お花が商品って、ケルリアン王国らしいな。これ、あげるよ」
「良いんですか?」
「これって、造花じゃなくて本物だよな? 俺、すぐに枯らせちゃうと思うし」
「ありがとうございます~」
餅歌は両手で受け取って、笑顔になる。喜んでくれたようだ、良かった。彼女もやってみる事にしたようだ。お金を入れて、クレーンを動かしていく。
「あ、あれ? あれれ? 右に行かなくなっちゃった」
「それ以上は行けないみたいだねぇ」
結局、餅歌は商品を取れなかった。「難しいですね……」と、しょんぼりする彼女に「初めてだったし」と、あまり役に立たないフォローをする。テンションが下がってしまったかもしれない。
「あー、あっちのゲームやってみるか?」
周りを見渡して見つけ、指した先にはリズムゲームがある。これはあれだ、音に合わせて体を動かすゲームだな。餅歌は新しいモノを見つけた子供みたいに、駆け足で近づいて行く。
「難易度があるんですね。千道サンはどれにしていますか?」
「いつもは『ふつう』にしてたな。『つよい』とか『げきやば』って、本当に難しいんだよな~。餅歌は始めてだから『かんたん』にするか?」
「はい! 私、頑張ります!」
音楽が始まった。餅歌は画面を見ながら譜面を踏んでいく。何故か両手も広げている姿が、歩くのに不慣れなペンギンのようだ。
この曲は何だろうか。ピアノだけで、静かな曲だ。別に、盛り上がる場面も無い。ケルリアン王国で有名な曲なのか、それとも世界的に有名なのだろうか。
「こ、こっちですか! わぁ、すぐに流れてくる!」
「頑張れ~餅歌ぁ~」
よたよたしつつも、頑張って踊っている後ろ姿を見て、自然と微笑んでしまう。折角だし、ビデオ撮影でもすれば良かった。でも、そんな事したら祝和君に殺されるか。やっぱりやらなくて正解だった。
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