1-10 庇陰軍団
突然だが『ドラングリィ総軍』の説明をしよう。
総人数は五百万越えしているという、大規模な集団である。一般人を助ける軍人のような風貌から『
しかし奴らの本性は『暗殺集団』であり、ソフィスタを滅ぼそうと企んでいるようだ。
そして『六家罪』の説明もしておこう。
その名の通り、六つの家系を示している。しかし彼らは、ナイトメアが復活する手立てを知る存在だと、言われている。
それが本当か噓かはどうあれ、ドラングリィ総軍はその末裔を捕らえようとしているのだ。
――――――
餅歌が操縦し、布団さんが魔力砲に当たらない様に動く。しかしドラングリィ総軍の奴らは、魔法砲を撃ちながら確実に距離を縮める。あっという間に、すぐ後ろまで来た。
「魔力が無い男。その女は、我々に必要なのだ。大人しく手渡せ」
「なんでだよ」
「世界を滅ぼす存在だからだ」
「はぁ~~~???」
何言ってんだこいつと思いながら、餅歌を見る。彼女は困り眉をしながら首を横に振っている。そうだろうな、そんな訳ないだろ。
「ヤダね」
「残念だ。まずは貴様を殺してやる」
ここは海上。俺を布団さんから蹴落として溺死させるつもりだろう。既にゼントム国からは大分離れている。泳いで陸地に上がれる距離ではない。これは、落ちたら終わりだ。俺は布団さんを操縦出来ないし、バタフライを25mしか出来んからな。
『どうして一番難しいのが出来るんです?』
「いつの間にか出来てました。でも泳ぎたくないので、力を貸してください!」
リュックからテレスコメモリーを取り出して構える。すると奴らは目を見開いて、この杖を凝視する。
「何故、貴様が『天羅の杖』を!?」
「あぁ? テレスコメモリーも知ってんのか?」
「その女は諦めよう。代わりにその杖を差し出せ」
「はぁ~~~……全く気に食わねぇな、その態度」
どうやら、テレスコメモリーの事も知っているらしい。この瞬間、奴らはこれから俺自身にも関わってくる事が、決定的になったのだ。しかし、こんな奴らに渡す訳にはいかない。
「餅歌、テレスコメモリーを強く握ってくれ」
「えっ!? こ、壊れませんか……?」
「壊れないよ、大丈夫。さぁほら!」
彼女が握ると、テレスコメモリーは魔力を吸収し始める。ドラングリィ総軍の奴らが魔力砲を撃ってくるが、布団さんが回避してくれるので時間稼ぎになっている。
「魔力が無い異端者がッ! その杖と女を寄越せェェーーッッ!!」
「餅歌。今から見せるのが、俺のソウル。君の魔力で、奴らをブッ飛ばしてくる」
布団さんが接近し、手を伸ばせば届くくらいの距離になった瞬間、俺は飛び上がって右手に餅歌の魔力を纏う。
攻撃するのは奴ら自身ではなくて、乗っている船で十分だ。
決意のソウル―――
「な――――ぎゃあああああっっっ!!!」
「はっはぁ~~ザマァねぇな。今の内に逃げよう!」
「は、はい……! 布団サン、全力疾走です!」
「! ! ! !」
餅歌が『摩擦防止魔法』を掛け、布団サンの速度を上げる。空気抵抗を一切感じないので、後方にブッ飛ばされる心配もない。後ろを振り向いてみるが、奴らが折ってくる気配は無い。瞬間移動魔法で難を逃れたか、サメに食われたかのどちらかだろう。
「……あいつら、いつも追いかけ回してくるのか?」
「最近は、そんな事無かったから……油断しました……」
「どうして餅歌を狙うんだ?」
「えっと……失礼します!」
急にいそいそと服を捲り始める彼女から、全力で顔を逸らして左目を硬く閉じる。一ミリも見ない様に、しゃがみ込んで縮こまる。
「わああっ、ど、どうしたの急にっ、そんな大胆な事をっ」
「胸は隠しているので、大丈夫です!」
「そういう問題じゃないよォ~!」
「でもでも、ここを見て貰ないと……お願いします!」
「ぬぐぐぐっ……!!」
事前に
彼女のへそを中心に、六角形の星型の痣らしきモノが付いている。鈍い緑色で打撲の様にも見えるが、痛くもかゆくもないようだ。何も知らない人から見ると、
「これが六家罪である、確固たる証拠です」
「生まれつき?」
「そうですね~物心ついた時には、もうありましたので」
「そっか……でも、手立ては本当に何も知らないんだろ?」
断言すると、彼女は驚いて「どうして言い切るんですか?」と首を傾げる。ニカッと笑い、テレスコメモリーを見せる。彼女は勇者さんの声が聞こえてないし、これが英雄さんの杖だったって事も、知らなさそうだ。
「これを見ても、無反応だったからな。でも、いつか……何かのきっかけで知ったら、教えて欲しい」
「えっ」
「破壊したら、もう悩む事が無いだろ?」
親指を立てて力強く笑うと、彼女も笑顔を取り戻した。また追手が来ない事を祈りながら、再びケルリアン王国を目指す。
これからあの美少年と再会を果たしたり、エレガンティーナイツの適性検査を受けたりするのだが、その事に関しては、どうか続く第二章を読んでもらいたい。
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