1-9 準備完了

 ソフィスタには八個の団があり、各国にそれぞれの本拠地が存在する。そしてこの職場の本部となるのが、この『DVC』なのである。



「私達の本拠地は、『ケルリアン王国』という国にあります」



 本を開き、目次からケルリアン王国のページへ飛ぶ。こことは違い、気候が穏やかで自然も多いようだ。中央に宮殿があるらしい。


 他にも広大な大畑、賑わっているだろう横丁やスタジアム、様々な展示物がある美術館など、観光スポットが満載だ。ツアープランもバリエーションが豊富だ。



「何これ!?」

「どれですか?」



 俺が指した場所は、『ピスティル空中庭園』という花畑。そこは、ケルリアン王国の領土である事には変わりないが。どうやららしい。



「それ、浮遊島なんです!」

「えぇ~~!?」



 俺の世界には、ファンタジーとしか考えられていない存在だ。まぁ、ここには色んな種族がいるように、地形にも様々なモノがあるのは、何らおかしい事ではないだろう。考えるよりも慣れた方が良い。



「その庭園はケルリアン王国の中で、のスポットなんですよ!

 中央にある『クリムチック・テランス』を見ようと訪れる方は、世界中から沢山いらっしゃいます!」

なのか、これが」



 全長は約200m。五つの巨大な花弁には、それぞれ別の細かい模様が描かれている。全ての色が違うが、どれも中心に向かって白色へと変わっていく、とても不思議で美しい花だ。実際に見てみたいと思ってしまうのも、納得する。



「ピスティル空中庭園は西ですね。私達の本拠地は南です!」

「ワープポイントの総数は……二十二個だとォ!?」

「世界から見ると、五十番目に多いんです。う~む、あまり誇れませんね?」



 俺の中のミニチャレンジである『ワープポイントの制覇』は、達成出来るだろうか。だが登録しておいた方が、移動が楽になるに違いない。無理かもという不安が出て来ると同時に、絶対に制覇してやるという闘志も沸いて来る。



「私達は、南側にある『国立パルブ公園』まで行きます。ここでと待ち合わせしているんですよ~」

「シュクワクン?」

とういん しゅくクン!

 とっても優しくて、彼は『戦闘団員』なのに、毎日会いに来てくれるんです!」



 どうやら、基本的には『非・戦闘団員』と『戦闘団員』は、中々会えないらしい。管轄が内側と外側で、全然違うからだろう。



「一ヶ月くらい前かなぁ、彼が面白い話をしてくれたんです!」

「へぇ?」


『なんかさぁ、を助けた。情けねぇつらしてたけど、良い奴そうだったよ』


「えっ!? そ、それって!」

「千道サンの事だったんですね~!」

「彼って……骨を出す?」

「はい! 彼は『骨』のソウルを宿しているので、ズバズバ切っていきます!」



 なんというなのだろうか。まさか、待ち合わせ人が彼だなんて。あの日から約一ヶ月。まだ、俺の事を覚えてくれているだろうか。



「千道サン、珍しい魔道具を持っているんですね~」

「ん……あ、これ? テレスコメモリーって言うんだ」

「わぁ〜! 沢山使い込まれていますね! 壊れていないのが、不思議!」



 やはりこの杖は、誰から見てもその感想が出て来る。餅歌が少し触れると、魔力を勝手に吸収し始めてしまう。でも、彼女は気にしてない様子。



「私は『魔法薬』が専門なので、あまり語れませんね」

「魔法薬を作るの?」

「布団サンと一緒に!」



 あぁ、だから『爆発』っていうワードが出て来たのか。大方、失敗した時に巻き起こる現象だろう。それに魔法薬ってという事を知った。毎日『翻訳薬』を飲んでいるのに、一向に慣れる気配がない。


 餅歌はポケットから小瓶を出して、俺に手渡す。中には、青色の液体が入っている。見た目だけだと、飲もうとは思えない。



「これは『集中薬』です。集中力を上げられます! 効果は三十分くらいです~」

「これも、餅歌が作ったの?」

「そうです! あ、良かったらどうぞ!」

「ありがとう」



 俺はテレスコメモリーと一緒に、本と薬をリュックの中に入れる。勇者さん、狭いけど我慢して下さい。



「では、行きましょうか!」

「おう」



 家を出た瞬間、目の前に布団さんが来たので思わず凝視する。窯に目なんざある訳無い。だが見つめ合っている気がするのだ。



「千道サンは、乗り物酔いとかしちゃいますか?」

「……あ? あ、いや、大丈夫。参考書を読めるくらいだよ」

「そうですか! でも安全運転で行きますね!」



 布団さんに会釈してから、乗り込む。元々は実験専用だったからか、底が結構あるようだ。



「布団サン布団サン。ケルリアン王国まで戻りましょ~!」

「♪♬♪」

 


 布団さんが浮きはじめる。そして、綺麗な海へ出ていく。後ろを見ると、ゼントム国がどんどん小さくなっていく。



 ……行ってきます、茶寓さん。



「今のうちに、ケルリアン王国をよく知っておこうかな。餅歌はどのワープポイントがオススメ?」

「やっぱり『オーブリー横丁』ですかね〜。良い代物が沢山売って―――」



 ドガァァァァン!!



「~~~~!!!」

「!? な、何だぁ!?」



 突如、布団さんに魔力砲が直撃する。海の中に入る事は無かったが、次の攻撃に備えて身体を縮こませ、警戒する。

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