1-8 質疑応答

 現在、朝の八時を回る。腹の虫が鳴り響くのは健康である証拠だろう。餅歌にも聞こえたのか、俺の腹を見てニコニコする。


 少し恥ずかしいなと思っていると、彼女は空中からサンドイッチを出し始める。どうやら、ここに来る前に作って来たようだ。


 卵、ベーコン、レタスとトマト、ツナ、チーズ、ラズベリージャム。沢山の種類を作ったようだ。そしてパンには花柄の焼き跡があって、おしゃれに見える。



「手作りとかNGでしたか?」

「全然大丈夫! ありがとう、いただきます!」

「は~い!」



 大食堂の料理も、サバイバルクッキングも、美味しく食べている。ここの世界の料理は、何だって食べれる気がしている。胃袋の強さは普通だと思っている。


 だが、『女の子の手料理』っていう事実が、俺を幸せにしてくれる。朝っぱらからこんなに美味しい物を食べれるだなんて、贅沢だろう。地球にいた時は毎日インスタント生活だったので、手作りの偉大さを嚙みしめれる事が出来る。



「そうだ私、千道サンに渡したいモノがあるんです〜!

 どうぞ、お受け取り下さい!」



 次に、分厚い本を空中から出現させて、そのまま俺の膝の上に乗せる。ズッシリとしている辞書のようだ。



 『世界の地形~walk and smile~』



 ペラペラと捲ってみる。そこにはユーサネイコーに存在する、全ての国の情報が載っている。面積や人口、平均気温などの基礎情報から、写真付きで文化や有名な観光地まで掲載されている。ゼントム国も載っている。



「千道サンは、これから沢山の国を歩く予定って、茶寓サンから聞きました。沢山使って欲しい。ユーサネイコーの事を、沢山知って欲しいです!」

「ありがとう、餅歌。表紙が剝がれ落ちるくらいに酷使するよ」



 完全に新品だ。俺の為に、餅歌がわざわざ買って来てくれたのかもしれない。全ての国が書かれているからか、本自体は結構重いけど、リュックに入れて歩き回れば、そのうち慣れるだろう。



『千道。柑子さんから、色々聞いたらどうです?』



 勇者さんが、こっそり俺に話しかける。返事をする代わりに、テレスコメモリーを軽く叩いてみるが、感覚が行っているかは分からない。そして餅歌は無反応なので、やはり彼の声は聞こえていないようだ。



「白鶴団長って、どんな方なの?」

「とってもカッコイイと思っています!」



 団長としての仕事は勿論、モデルや女優の仕事もこなせる。団員全員から慕われているようだ。理想の上司って感じが、溢れ出ているらしい。



「茶寓さんが白鶴団長と交渉しに行ってから、四日も経ってさ」

「う〜む、凱嵐サンは一昨日までドラマ撮影でしたからね〜。予定が合わなかったのかもしれません!」



 成程、それはあり得る話だろう。茶寓さんは総団長だから、他の仕事もこなさないといけない。社畜のように働いているので、俺に連絡する暇などなかったのだろう。



「昨日、笑顔の茶寓サンに会ったんです!」

「どこで?」

「私達の本拠地です。う~む、仮面でよく見えなかったけれど、頬に赤い手形があったような?」


『凱嵐のビンタですね。一度は失敗した様子』



 どうやって頷かせたんだ、茶寓さん。俺の為に、身体を張ってくれたんですね。ジェット機が破壊されたって知ったら、拗ねてるどころじゃないかも。机に突っ伏して泣いているのが、妙に想像できてしまう。



「他に何か、聞きたい事はありますか?」

「これから白鶴団長に会いに行くから、なんか持ってった方が良いよな?」

「あ~……今日は、と思います……」

「えっ!?!?」



 何だか申し訳なさそうな彼女を見て、驚く。聞いてみると、無条件でOKサインを出した訳ではなく、を前提に承諾したとの事だ。



「千道サンが『一緒に調査が出来る人材か』を確かめる『適性検査』に合格したら、会っても良いらしいです!」



 ソフィスタは、基本的には同じ団の人と行動するが、たまに他の団の人と調査するようだ。初めてだと、その団の『適性検査』に合格しないといけないらしい。


 馬が合わない方と一緒に依頼に行っても、失敗する可能性が高いからだろう。


 それに、どっかの喧嘩ばっかりしている団みたいに、依頼どころじゃなくなるのは非常に困る。加えて俺は、信頼も信用も『0』の状態だ。



「千道サンは、凱嵐サンの力が必要なんですか?」

「うん。絶対に必要なんだ」



 あの写真を横目に見る。合格したら、白鶴団長の所に持って行こうかと考えていると、目線に気付いた餅歌がそれを手に取り凝視する。誰なのか気になるのだろうか。



ね〜。何か入れないんですか?」

「……え?」



 彼女の言葉を、理解するのに時間がかかる。何も入っていない、と。確かにそう言った餅歌はニコニコしている。



「う~む、このサイズだと……写真とかが良いのかなぁ?」

「も、餅歌……?」

「? どうしましたか千道サン?」

「どうって、君は何を……」


『噓なんかついてねぇですよ』



 勇者さん曰く、この写真はソフィスタの中だと、千道と茶寓さんにしか見えてないらしい。それは、お二人の事を知っているから。彼女は知らないので、見えない。


 もしかすると人なら、見る事が出来るのかもしれない。二人との直接的な関わりが無いから。だがどの道、名前は知らないだろう。



「えっと……な、なんか撮ったら、入れるよ」

「わぁわぁ、楽しみです~!」

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