1-7 交渉の結果
俺の家の周りには、草木が生えていない。中も外も寂しい雰囲気を纏っている。しかし目の前の彼女が来ただけで、一瞬で彩った気がする。
「はじめまして! エレガンティーナイツ所属の、
「……、……、……うん、よろしくお願いします」
危ない危ない、見上げる瞳に見入ってしまった。思わず「可愛いね」と変態くさい親父の台詞を吐き捨てる所だった、セーフセーフ。
それにしても、女性と話したのはいつ振りだろう。世間一般的に言うと一番近い存在になるであろう、母と妹ですら何年も話してない。
彼女は両手を口元に持って来て、上品に笑う。心の中では「可愛い」と何度も思っても、罪にはならんのだよ。
「千道サンよりも年下なので、敬語じゃない方が嬉しいです」
「あ、そうなの? いくつ?」
「十五歳です!」
「俺は十八歳だから三つ違うのか。あ、家に入る?」
「はい! 本日は凱嵐サンのお願いで、ここまで来ました!」
餅歌はさっき「エレガンティーナイツ所属」と言っていた。そして、この用件。つまり、茶寓さんは交渉を成功させたという訳だろう。五日も待たされた俺と勇者さんは、漸く安心する事が出来る。
「それでは、お邪魔します!」
彼女は扉に向かってお辞儀をし、中へ入る。女の子を家に招き入れるなんて、人生で初めてである。勘違いしないで欲しいが、無粋な心なんざ一切無い。何度も言うが、彼女に抱く「可愛い」は、猫とか兎と同じなのだ。
『千道』
「うぉ……ど、うしましたか?」
先に歩いて行く餅歌には聞こえていないと思うが、一応コソコソと小さく囁く。急に話しかけられたので、少し驚いてしまった。すみません勇者さん。
『あの子の名前は?』
「え? 柑子 餅歌ちゃんって、言ってましたけど」
『……そうですか』
勇者さんはテレスコメモリーを通して、景色を見る事が出来るらしい。餅歌の姿も見たと思うが、何か気になる事があったのだろうか。リビングへ走っていくと、彼女は部屋を見渡している。
「シンプルな部屋ですね~!」
「まぁ、うん」
最初に来た時は、穴ボコだらけで雨漏りも酷く、とんでもない悪臭と埃、大量のGとCが居て、殆どの家具を捨ててしまったっていう話は、しないでおこう。
「うふふっ! 私、凄い方と出会えちゃった!」
「え?」
「千道サンって、世界で唯一の存在じゃないですか~」
俺がこの世界の人ではない事を、話している様だ。斜め上な褒め方をしてくれる彼女に、口を開いて驚く。
「お互いに凄い強運を持ってないと、『お友達』になれませんでしたよ!」
「と、友達?!!?」
自身の柔らかい頬に両手を付けながら、身体を左右に動かして喜んでいる餅歌の言葉を、思わずオウム返しする。
「あ、初対面なのに、急にお友達になるのは失礼ですよね……」
「違うよ餅歌、スッゲェ嬉しいんだ!!!」
俺が嫌がっているように、見えてしまったのだろうか。ならば、全力で謝ろう。俺は、この場で飛び上がる程に嬉しいのだ。
「ありがとう、餅歌。俺と友達になってくれて」
右手を差し出すと、彼女は両手で包み込むように応答して微笑む。これが「癒し」って奴なのか、俺も笑顔になる。
部屋を一通り見終わった彼女を、ソファーに座らせる。背筋を伸ばして、脚を閉じている彼女は「ふむふむ、ふかふか」と言いながら、手でソファーを優しく押している。
「餅歌は、ワープポイントでここまで来たの?」
「いえいえ。ワープポイントって、一つの正団員証明書につき、一人しか認めないんです。なので、飛んできました!」
「ゴリ押しじゃないか、魔力は大丈夫なの?」
「はい! 布団サンと一緒なので!」
彼女が玄関に来たときは、それらしきモノを抱えてはいなかった。というか、今もどこにも見当たらない。周りをきょろきょろと見渡していると、彼女はまた口元に手を当てて微笑む。
「うふふ、布団サンは人じゃなくて、私の箒です」
彼女はそう言い、窓の外を指さす。首を動かして見てみる。
「♪♪♪」
「うぉおおおおおあああーーーッッッッ!?!??」
「わぁ~~! 大丈夫ですか~~!?」
俺は本気でひっくり返る。餅歌が心配してくれるが、そのまま外を凝視する。
そこには窯がいる。全体的に白がベースで、蜜柑色の模様が浮き出ている。描かれているのは、花とか
「あ、あれが……餅歌の、箒?」
「そうです。私、皆サンが乗っているような箒を、しょっちゅう破壊しちゃうんです。なので、布団サンを箒にしたんです!」
「……? ……??」
彼女の見た目からは考えられない、物騒なワードが出て来た気がするが、まぁ気のせいだという事にしておこう。そう思う事にしていたのだ、この時の俺は。
「本当は、茶寓サンがジェット機を用意してくれたんですけれどね、デザインが気に入らなかった凱嵐サンが、破壊しちゃいました」
「あ、そうなの」
そんなの知ったら、茶寓さんが拗ねてしまうじゃないか。
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