1-6 地球への帰り方②
茶寓さんから貰った、壁に掛かっている世界地図を眺める。
国土が広い国、細長い国、複数の島からなる国。形は様々だが、地球とは地形が全然違う。なんか島国が多い。陸海の比率は同じくらいだと思うけれど。
ゼントム国は南半球側で軽度が高いから、年中通して涼しい島国だ。なので今は四月だけど秋だ。でもなんで桜が舞っているんだろう。あれ、桜じゃないのかも。
『千道の出身国は何でしたっけ?』
「日本です」
この世界には、『に』から始まる国と『じ』から始まる国が無い。その理由は、聞いてないが、何となく分かっている。
元から無かったか『ブレイズバースト』という禁止魔道具によって、ヤジカ国のように一瞬で消滅してしまったか。
「ブレイズバーストの魔力って、どうやってかき集めているんですかね」
『多分、【秘境地帯】から摂取しているんでしょうね』
「秘境地帯? ……【危険地帯】とは、また違うんですか?」
危険地帯とは、シニミが住み着いてしまった場所の事だ。ルージャ山もそうだったな。あの時の俺は、丸腰同然だったな。
秘境地帯と危険地帯は、全然違うらしい。前者は『莫大な自然魔力がある』と認定されている場所のようだ。いわば、眠れる財宝がある神秘そのもの。きっとそれは、息を吸う事を忘れる程に圧巻される場所なんだろう。
「じゃあ、そこに行けばターミナーも」
『そんな簡単ではねぇですよ』
秘境というのは、誰にも知られていないという意味。ただでさえ行くのも大変だろう。加えて現在は『精神災害警報』が発生するくらい、シニミが大量発生している。
「つまり、危険地帯化している?」
『その可能性はバカ高ぇですね』
「最悪の相性じゃないですかやだー」
死ぬ事よりも生きる方が数倍も難しいと言うが、それは的を得ていると思う。地球にいた時ですら、そう思っていたんだ。この地獄は本当に酷いモノだ。全ての希望を絶望に染め上げられるだなんて。
『まぁ、ターミナーに関しては
「他の方法が?」
『シニミでしょう』
「え、シニミ?」
予想の斜め上過ぎる回答に、素っ頓狂な声を出してしまう。人様に迷惑しか掛けねぇナイトメアの無数分身共が、俺の役に立つのか。
『最初はナイトメアに創り出されただけなのに、生物の魂を取り込んでいく』
「それでランクが高くなっていくんですよね」
『魔力量も増えてやがる訳です。でもテレスコメモリーなら、吸い取る事が出来る』
シニミは倒したら消滅してしまうが、その
『ほんの一部だけ部品が戻ったからなのか、吸い取る魔力量も増えたでしょう。
それに、この中にいるおれも手伝いますし』
入団試験の最終項目で、俺はこの国にあるルージャ山という場所に行った。話せば長くなるから一言で片づける。「激戦だった」と。
その時に、最期に正気を取り戻して魂が解放されたシニミから、テレスコメモリーの一部品を貰ったのだ。それでも、大欠損している事には変わりないので、本来の力を発揮させるのは、まだまだ先の未来になりそう。
だが全ての部品を集め終わった
「他の部品も、シニミが持っているんでしょうか?」
『どうでしょうね。持ち歩くとは限りませんが。
部品だけ持って行っても、本体が無いと意味がねぇのに』
十二年前は、英雄さんから奪えなかったのだろう。だからナイトメアは今もこの杖を欲しがっている様だ。
それなら、逆に利用してやろう。アイツからありったけの魔力を吸収し、ターミナーを集めておこう。
「でも、不可思議までいけるとは思えません」
『そもそも、この国から出れねぇのが大問題じゃねぇですか』
正論です。ここは本当に近場の国が無い。加えて交通機関も一切無い。強いて言うならば海上か空上タクシーだが、勿論料金がアホみてーに高いので、一文無しに近い俺は使えない。
そう考えると、この国に落ちてきた俺はガチャ運が
ピ……ン……ボッ、ブッ
突然チャイムが鳴ったので、肩を震わせてしまう。初めて聞いたが、やはり壊れかけているな。だがこのボロさでちゃんと稼働したので、良しとするか。
玄関の扉を開ける。鍵穴は、いつの間にか茶寓さんが直してくれていた。だが、相変わらずギシギシ軋むので、気を付けないといけない。
「おはようございます! えーっと、末成 千道サン……ですね!」
「かわ」
「かわ?」
短めな蜜柑色の髪、パッチリ二重な緑色の瞳をしている。茶寓さんの面影は無い。どこにも無い。ソフィスタの『制服』である、灰色のブレザーを着ている。
「……? 大丈夫ですか~?」
「はッ!!」
この世界に来て初めて女の子に会ったから、めっちゃくちゃ見入ってしまった。彼女が手をひらひらと振らない限り、永遠に見ていただろう。
「寝不足でしたか?」
「い、いえ! えっと、俺が末成 千道です」
「わぁわぁ〜! お会いできて嬉しいです~!」
両手の指をお互いに絡ませ、左右に振りながら喜ぶ。
不登校にもなったが頑張って小学校、中学校、高校はちゃんと卒業している。つまり、十二個のクラスを渡り歩いた経験があるのだ。
この子の言動は、今までのクラスメートが霞んでしまう程の、可憐で庇護力が出て来るような煌めきを持っている。猫とか兎とかに抱く愛情が、芽生えて来る。
うん、ちゃんと分かりやすく言おう。彼女は可愛い。
この美少女が俺の友達となり、とんでもない鍵を握っている存在だとは、この時は考えもしなかった。
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