1-30 ブルーム・ランウェイ②
エレガンティーナイツの本拠地である、ブルーム・ランウェイへ行ってみた。一人では回り切れずに迷子になると思うので、儀凋副団長が間取りを解説をしながら、一周する事になったのだ。
「ここは、右側が男性で、左側が女性に分かれているんだ。男女比率が丁度半々だからね」
「左に行ったら怒られちゃいますね」
「ふふ、とても親しい間柄だったら、問題がないさ」
祝和君と餅歌の事だろうか。ただ、これは俺から見た感想ってだけで、実際はどうなのかはまだ聞いていない。でもあれは多分、彼の一方的な……いや、憶測はここまでにしておこう。
「この本拠地は十一階建てでね。勿論、最上階に凱嵐の部屋があるのさ」
「入るのだけで、緊張しちゃいそうですね」
「肩の力を抜いていつも通りに接した方が、彼女は喜ぶよ」
「ほほう」
変に着飾るのは、好みではないようだ。いつも通りに行ったら良いのかもしれない。本当は少しでも仲良くなりたいけれど、立場が圧倒的に違い過ぎる。でも、事件の話をされたという事は、ちょっとだけ俺の事を見てくれているって、勘違いしても良いのかもしれない。
「ちなみに、屋上はテラスでね。訓練用の温水プール付きなのさ」
「訓練用って?」
「とても広いのさ。十レールで片道50Mだよ。水上で戦う事もあるからね、団員は良く活用しているよ」
プランと言い、もしかしてエレガンティーナイツの皆さんは、俺が思った以上にビューティフルゴリラ集団なのかもしれない。着やせするタイプなのだろうか、今度祝和君に脱いでもらおう。
「儀凋副団長の部屋も、十一階にあるんですか?」
「そうさ。だが勿論、凱嵐とは離れているよ。右側が私さ」
「でも、お二人の部屋しか無いなら広そう」
「お陰で、沢山の彫刻や標本を飾れている。千道君にも見せてあげよう」
最後に見せてくれるらしい。俺達は今一階にいるが、二階から八階に団員の個室があるようだ。一人一人に部屋を割り振り出来るなんて、毎月の電気代とガス代と水道代が大変な事になりそう。
「心配しなくても、凱嵐がカードで一括払いしているよ」
「カッケェ」
「家具を壊してしまったら、自己負担させているのが普通さ。だが、餅歌君のような例外もいるよ。彼女は実験をするからね、地下に部屋があるんだ」
「そうなんですか!?」
地下を掘って、天井を高くしたようだ。爆発しても被害が行き届かないようにと、工夫をしている様だ。一人の為にここまでしてくれるなんて、白鶴団長は本当に面倒見が良い。
「丁度、談話室の真下に作ったからね。時々足音を聞いて、上へ来てくれるよ」
「響いているんですね~。勘違いして来ちゃいそう」
「ふふ、確かにそんな時もあるよ。しかし大抵は、祝和君が迎えに行くんだ」
「あ、やっぱりそうなんですか」
いとも容易く想像出来てしまう光景に、くすりと笑う。自分は戦闘団員なのに、彼女へ毎日会いに行くという、彼の熱意が垣間見れて良い気分だ。
「談話室の他に、食事室もあるよ」
「わ、良い匂い」
儀凋副団長が扉を開けた瞬間、ほのかにパンケーキの香りがする。専用のシェフが働いている様だ。
「美しさを保つには、十分な睡眠、活発な運動、健康的な食事が大切さ」
依頼が立て込んでいる朝と昼は、大食堂で食べる団員が多いが、一番ガッツリ食べてしまいがちな夕食は、ここで食べるように指示しているようだ。
「勿論、依頼が重なってしまったら、それは仕方が無いけれどね」
「どうしてそんな制度を?」
「夕食が一番どうでも良いからね。重要なのは朝ご飯さ。食べると食べないだけでも全然違う。大食堂も、朝メニューはどの階も気合が入っているよ」
そう言えば、プレートの種類が多い。これはバリエーションが豊富の方が、リピーターも増えるからだろう。確かに、夕食を食べたら風呂に入るか寝るだけだろう。
「しかし、最近は中々揃わないのさ。やはりあの警報が出て来てしまったから、依頼の量も劇的に増えてしまってね」
「精神災害警報……」
「そうさ。シニミには悩まされる。しかし、いつかまた全員で夕食を食べる日を夢見て、今日の依頼を乗り越えるのさ」
儀凋副団長は、団員の事を大切に思っている。よく観察しているから、些細な体調不良もすぐに見抜き、依頼を代わりにやってあげる時も多いようだ。凱嵐と一緒にプランを作成するのにも、決して手は抜かないだろう。
「努力家ですね」
「ふふ、きっと凱嵐の影響さ。私だけではなく、団員全員が何かしらの努力をしているよ。持久力、攻撃力、回復力、効果範囲の拡張……新しい魔法薬や、恋路!」
「最後の二つは特定できますね」
「ははは! ……千道君。あの二人とは、是非とも末永く仲良くしておくれ」
「勿論です、儀凋副団長」
ここに来て、初めて出来た友達。見す見す切り捨てる事は、この先何が起きてもする事は無いだろう。まだまだ二人の事を全然知らない。だから、もっと知りたくなるという、儀凋副団長みたいな考えを持っているのだ。
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