儀凋 仁

1-29 ブルーム・ランウェイ

 どの団にも本拠地があるという話は、第一章でもしただろう。もっと深入りすると、ちゃんと名前が付けられているようで、ワープポイントも傍にある。



『ワープポイント―――登録完了』


「ブルーム・ランウェイっていうのか。良い名前だな」



 正団員証明書をしまい、目の前にある建物を見上げる。城みたいな外観で、高層ビルのような高さだ。白鶴団長達は、ここで生活をしている様だ。



『十二年の内に建てたようですね。莫大な金が飛び回ったに違ぇねぇです』


「それくらいビッグになったって事ですよねぇ」



 十二年前はたった十人で挑んだという話は、今思うと考えられない。それ程、英雄さんと勇者さん、そして団長達が強かったに違いない。



「本当に、十人だけで立ち向かったんですか?」


『古代の魔道具を使ったり、万全な装備をしたり。そりゃ勿論、をしましたよ。まぁ、今は無くなっちまってると思いますが』



 テレスコメモリーも古代の代物だ。他にも消滅しなかったモノが一つでもあれば、とても心強いのだが。



『中に入らないんですか?』


「勢いでここまで来ちゃったけれど、勝手に入って良いのかなって」

「勿論さ。オーディションを合格しているからね!」

「うぉぉぉぉぉおおおおおお!!!?!?!?」

「ん~、やはり良い反応をしてくれるね!」



 いつの間にか俺の背後にいた、儀凋副団長から後ずさりをする。彼はそんな俺を見て愉快そうに観察する。心臓の鼓動が、バクバクと強く打ち始める。



「ここに来ると予測していたよ。これから何度も訪れる事になるだろう、私にツアーをさせてもらえないかい?」

「つ、ツアー?」

「千道君には、是非ともこの美しい本拠地の魅力を知って貰いたいんだ。それに、他の本拠地にはないモノが、沢山置いてあるからね」


『まぁ、広そうですし。ついて行ったらどうです?』



 そうですね勇者さん。このまま突撃していっても、きっと迷子になるだけだろう。それに、儀凋副団長の事も知りたいし。



「よろしくお願いします」

「では、行こうか。ジューリシーしゅっぱーつ!」



 俺達は、中へ入る。いきなり広いエントランスだ。壁も天井もお洒落なデザインで、奥にある窓はステンドグラス風で芸術品にしか思えない。照明は巨大なシャンデリアで、叩き割ったりしたらウン数億はするだろう。



「俺の家も、これくらい綺麗になれたら良いなぁ」

「凱嵐は、その願いを叶えてくれるかもしれないね」



 そのまま真っ直ぐ進むと、談話室に着く。そこには、団員がソファーに座りながら談笑している。周りにおいてあるのは、どれも高級そうだ。触れてしまったら指紋がついてしまいそうなので、丁重に歩かなければ。



「今日の君は、一層と美しい。すみれの様に儚い雰囲気が出ているよ」

「貴方こそ、香水を変えたの? 花吹雪が舞うような明るさが滲み出ている」



 よくもまあ恥ずかしげもなく、あんな台詞を言えるなと、いささかか失礼な事を考えていたら、「儀凋副団長!」と声がする。振り向くと、一人の団員が駆け寄って来るので、少し後ろに下がる。


 団員は胸に右手を添え、片膝をついて綺麗なお辞儀をする。これは挨拶のようだ。儀凋副団長も、シルクハットを外してお辞儀をする。



おはようございますラヴォンヌ。本日の貴方は、昨日の貴方よりも美しいです」

ありがとうルガスィ、愛しい騎士よ。君も昨日より肌の艶が良くなっているね。洗顔の仕方を変えたのかな?」

「気づいてくれるとは……! とても恐縮です。本日も、美しく舞っていきます」



 他の団員も、儀凋副団長の元へ集まって来る。白鶴団長のように、人気が高いようだ。まぁ確かに、上に立つ者は慕われていないとやっていけないだろう。


 完全に蚊帳の外になってしまったので、勇者さんとヒソヒソ話をする。



『変に気取った言葉遣いをしやがりますね。疲れねぇんですかね』


「彼らにとっては、これが日常なのでは?」



 ここに居たら、嫌でも美意識が高くり、毎日三十分は掛けてメイクアップをするようになりそうだ。いや実際は、もっと掛かっているのかもしれない。



『依頼に間に合わねぇじゃねぇですか』


「魔法で手入れをしたら短縮出来そうですね」


『有り得ますね。凱嵐も、髪の毛とかはそうやってました』


「そうだったんですか!」



 勇者さんから英雄さんの事や団長達の話を聞けるのを、ひそかに楽しみにしているのだ。彼は、些細な事から覚えているように思える。だから団長達にも、十五年前の日常を思い出して欲しいと願ってしまうのも、当然なのだろう。


 茶寓さんの『記憶』のソウルを発動させるには、このテレスコメモリーの中に入っている写真を出す事。その為には、だと推測しているが、そんな簡単に見つかる訳が無い。



「待たせたね、千道君。今日も我が団員の輝きに見惚れていたよ」

「皆さん、とても綺麗ですね」

「ふふ、私と凱嵐で考えたプランをこなしているからさ」

「プラン?」



 見た目だけで「美しい」と感じさせるには、ただメイクをするだけではなく、鍛えるのも重要らしい。全ての団員に、それぞれ違う日課を出しているらしい。継続は力なり、って言うもんな。



「儀凋副団長も、腕の筋肉が凄いですよね」

ありがとうルガスィ! 私は観察をするのが趣味だからね。獰猛な標的相手になると、自然と鍛えたくなるものさ」

「狩るんですか?」

「休日にね。しかし彼らもまた、今日を生き延びようとしている。外見だけで満足したら見逃すのが、殆どさ。どんなに美しかろうと必ず狩る標的は、シニミだけだ」



 普通の生物だけではなく、シニミも観察対象に入っているのが、儀凋副団長らしいな。

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