1-34 世界で一つだけの魔法
この世界では魔法があり、四種類に分けられる。一つは『共通魔法』と言い、誰でも使える可能性がある魔法だ。細かく見ると『基礎魔法』と『応用魔法』に分けられる。
十六歳に到達した時点で、およそ七割の人が使えると言われているのが『特有魔法』である。これは簡単に言うと『ソウル』であり、自身の魂の本質が顕現されると考えられている。
そして、上記三種類の魔法が使える者の中で、一万人に一人が使えると言われているのが『唯一魔法』である。これは世界でたった一人にしか使えない魔法で、使用する時に必ず「暗唱をする」と言われているのだ。
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「儀凋副団長の唯一魔法を、見せてくれるんですか!?」
「ルィ! 是非、千道君には知っておいてもらいたいからね」
「でも、本当に良いんですか? それ、バッチリ個人情報だし……」
「確かにそうだ。だが安心したまえ。団員全員に知れ渡っているからねッ!!」
それは堂々と胸を張ると、格好がつくような台詞なのだろうか。儀凋副団長の性格ならば、別に見られてしまっても恥ずかしくないと思えるのかもしれない。
「よろしくお願い致します」
「ふふ、そんなに畏まらなくて良いさ。私の唯一魔法は、そんな大それた事じゃない。あまり期待はし過ぎないでおくれ」
そう言いながら扉を開ける彼について行く。ここが、儀凋副団長の部屋のようだ。見た事が無い置物が、沢山ある。どんな用途なのだろうか。
「この鏡、一際目立って大きいですね」
「彼女はマチカと言うんだ。今は普通の鏡だが……これが、私の唯一魔法になり得る存在だ」
布団さんのように、鏡にも名前が付けられているのかと思っていると、儀凋副団長は片脚を付き、シルクハットを丁寧に床へ置いて集中し始める。魔力が彼の魂一点へ移動していくのを、肌で感じる。
「―――『一等星よりも強い輝きを持ち、宝石を卓越する美しさを秘めている万物を、どこまでも求め続けよう。発見はそこに成るのだから』」
鏡のソウル―――
儀凋副団長がマチカさんに向けて指パッチンをすると、彼女が光り出す。それだけであって、特に劇的な変化が起こる訳でもない。
「さぁ、千道君。この鏡に向かって、何か質問をしてみてくれ」
「質問? 何でも良いんですか?」
「勿論さ。君が知りたい事を聞くと良い」
唐突に背中を押され、マチカさんの前まで行く。鏡なので、当然のように俺が映っている。何でも良いと言われたのだが、逆に纏まりがつかなくなってしまったので、苦し紛れに変な質問をしてしまった。
「マチカさん、マチカさん。儀凋副団長の好きな食べ物は何ですか?」
「おや、私の事を聞くとは嬉しいね」
鏡が食べ物を答える訳が無いだろうと、少し後悔した。尊敬している人は誰ですかとか、人物を特定出来る質問の方が良かっただろう。そう思いながら前を向くと、マチカさんが映し出しているモノに、驚愕する。
「……うどんだッッ!!」
「そうさ、私はうどんが大好きでね。他の麵類も美味だが……あの太くて嚙み応えがある感触は、オンリーワンだろう?」
正確に言うと、マチカさんは餡掛けうどんを映し出している。大盛りで、すぐに満腹になりそうだ。麵類はあまり食べて来なかったけれど、もし大食堂でうどんが出てきたら、食べようかな。
「マチカはね、他の鏡から学んでいるんだ。鏡には真実しか映らないからね、何でもお見通しさ」
「他って、向かい側にある白鶴団長の部屋に置いてある鏡、とかですか?」
「ルィ! 効果範囲は団員の協力を得た状態だと、ケルリアン王国全土が最高さ」
「あ、だからバレるんですね」
しかしこの唯一魔法は、とても便利だと思うのは俺だけだろうか。色んな鏡の情報を、マチカさんが一つに纏めてくれているとは、探し物にはうってつけだろう。
「一日につき、三つまでなら何でも聞けるよ。もう一つ質問してみるかい?」
「え~っと……マチカさん、マチカさん。祝和君は誰に恋してますか?」
鏡の中にあったうどんが変貌していく。ぐにゃり、ぐにゃりと変わっていき、最終的には餅歌が映し出された。こちらに向かって子供のような満面の笑みを向けている。
「しかし残念な事に、彼女にはイマイチ伝わっていないようだ。ふふ、彼は意外と奥手のようだね」
「マチカさんは、なんでも知っているんですね~」
「だが、凱嵐が探し求めている犯人の情報は、一向に掴めないのさ」
「え」
「マチカよ、教えてくれ。十一年目になる、殺人事件の犯人は?」
マチカさんは餅歌を消して、渦巻きを描く。暫らくその状態が続いていたが、やがて正面に立っている、儀凋副団長すらも映さなくなった。無を示しているように思える。
「これが、彼女の答えだ。分からない、という意味になる。私の目から逃れるとは、相当なやり手だろう。しかし、諦めないよ。必ず見つけ出す」
「俺も、見つけ出します!」
「心強いね。
この目で犯人を見つける。十一年も逃げ続けているから、絶対に簡単では無いだろう。それを乗り越えるのが、俺達なのだ。
「そろそろ時間だね。どうだい、この本拠地は?」
「凄く綺麗で、芸術そのものを見ている気分になりました」
「ふふ、ありがとう。またいつでもおいで」
本拠地を一通り見終わったので、儀凋副団長と別れワープポイント経由で、自宅へ帰る。洗面所に行き手を洗い、少しヒビ割れている鏡に映る自分を見る。
俺もいつか、唯一魔法が使える日が来るのだろうか。それはどんな効果があって、何を叫びながら発動させるのだろう。現時点では見当が一切つかないので、まだまだ当分先になるという事しか分からなかった。
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飾るのは、千道の恩人でありマブダチ美少年な、祝和です!
https://kakuyomu.jp/users/henavelro/news/16818093075036060695
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