1-32 ブルーム・ランウェイ④

 部屋から出て、次に向かった場所は洗濯室という場所だ。ランドリーが視界に入り切らない程に並んでおり、バルコニーには団服や私服が風に煽られている。



「清潔感を保つためには、洗濯が必須さ。だが、やり過ぎてしまったら縮んでしまうから、ランドリーを使い分けているよ」

「あ、これは『団服用』って書いてありますね」

「ソフィスタ団服を作る素材は、特別でね。防御力も上がるし、耐熱性も防寒性もあるんだよ。だが、破いてしまったりしたら、その分修理代が掛かってしまうんだ」

「そうなんですね」

「だからなのか、簡単な依頼の時は着て行かない人が多いんだ。制服を着て行けばソフィスタと分かるからね」



 本気で取り組まないといけない時に使う、勝負服のようだ。祝和君も餅歌も、まだ団服を着ている姿を見た事が無い。それに改造もしていると言っていたので、全然違うのだろう。



「どこまで改造して良いんですか?」

「基調の色を保つのと、団のマークを取り外さなかったらOKさ」



 外にある団服も、白が基調なスーツである事には変わりないが、微妙に違いが出ている。儀凋副団長は団服を着ているが、背中の花がプリントではなくて刺繡でやってあるから、副団長の威厳を感じられる。



「俺は団服というのが無いので、ちょっと羨ましいです」

「ふむ……団服という訳ではないが、作って貰えるかもしれないよ」

「え?」

「ソフィスタの団服は、『国際世界研究所』の中にある『防具部』に作って貰っているんだ」



 ソフィスタと同じ『国際世界組織』の一つである、研究所。五つの『部』から構成されているが、詳しい内容はまた今度しよう。



「部長はいつも、最強の防具を研究しているよ。洋服と材料を持って行けば、強化もしてくれるんだ」

「強化?」

「すぐに破けなかったり、特殊な効果を発動させたりするんだ。ただ、その材料がどれも入手困難でね。理論上は間違ってないらしいのだが……」

「例えば……?」

「生々しい話だけどね、シニミの一部……内臓とかさ」

「え、え、ええええ!?!?」



 シニミというのは、魂を開放したらそのまま塵となって消えていくモノだ。しかし、こんな言い方は変かもしれないが、運が良かったら内臓を落として消えていくようだ。



「『肉体融合魔法』で本来の内臓は無くなり、ナイトメアによって汚染された素材のみが手に入る。しかし、部長の力なら……それらは、輝かしい逸材となるんだ」

「凄い方ですね」

「少し変わった性格をしているが、きっと千道君を気に入ってくれるよ」



 お会いしてみたいと思う。茶寓さん曰く、研究所はソフィスタの『ズッ友♡』のようだし、行く日が来るのはそう遠くないだろう。



「さぁ、次は十階に行こうか。是非見てもらいたい部屋が、沢山あるんだ」



 部屋を出て、階段を上って行く。白いカーペットが敷かれているが、埃が一つもない。本当に、隅から隅まで掃除が行き届いている。



「団員で大掃除をするのさ。掃除もまた、体力育成になるからね」

「雑巾がけとか結構鍛えられますよね。魔法は使わないんですか?」

「勿論さ。魔法に頼りっぱなしになってしまうと、己の力を過信してしまう可能性があるからね。何事も、基礎が大切だ」



 白鶴団長は、下積み時代をどれ程やって来たのだろうか。トップモデルになる為に、全く理解が出来ない事をしてきているのだろう。

 掃除の様な、一見はモデルと関係ないように見える行為も、毎日怠らずにやり続けると、何かしら報われるのではないだろうか。



「さぁ、ここが十階さ」

「おぉ……壁に、高級そうな絵画が飾ってありますね」

「千道君は美術が好きかい?」

「そうですね、好きな方です」



 行く機会は無かったけれど、美術館巡りをしてみたいとは、幾度かは思った事がある。水彩画、油絵、彫刻、合作などがあるが、どの作品も一切手を抜いてないと素人の目でも分かる。



「これはね、団員達が描いたんだ。自分にとって、一番美しいモノをね」

「そうなんですね。皆さん、どれも上手です」

「ふふ、千道君はすぐに褒めてくれるね。本心なのが手に取るように分かるよ」



 あまり下手に褒め過ぎると、媚を売っているように思われるかもしれない。だから、言い過ぎは良くないのだろう。しかし、思っている事を声に出すのを制限されるのは、辛いモノであるという事は、よく理解しているつもりだ。



「これが祝和君の作品だよ。彼は油絵で描いたんだ」



 立ち止まって見る。その絵は、巻層雲が出てきている晴れ渡った空を背景に、大きな蜜柑の木が生えている。地面に落ちてしまった蜜柑、まだ完熟していない蜜柑まで、丁寧に描かれている。彼の手先の器用さが、ここでも発揮されたようだ。



「綺麗な絵だ……何をモデルにしたのかな」



 口にはこう出したが、本当は分かっている。しか考えられない。作品も、隣同士にして貰ったようだ。

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