1-28 立ち回り方
「茶寓、わがままを聞いてくれてありがとう。アタシはもう行くわね」
「えぇ。お気をつけて下さいね」
「ありがとう。それじゃ」
そう言った白鶴団長は、総団長室から出て行く。適性検査で作った花束を持って来れば良かったと、少し後悔した。足音が遠くなったのを確認した茶寓さんは、俺を手で招く。近づいて、テレスコメモリーをテーブルの上に置く。
「わがままって、何ですか?」
「王室から依頼が来た以上、彼女はケルリアン王国の依頼しか引き受けない様にしたのです。他国へは基本的に『行かない』という形ですね」
団長なのに一国だけに留まるって、凄い決断力だ。それくらい、どうしても犯人を見つけ出したいのだろう。
「勇者君、十二年振りの白鶴さんはどうでしたか?」
「話し方とか性格とか、変わってますか?」
『いや、思っていたよりは変わってねぇです。ただ、本当に……おれの事を忘れているんだなって……』
勇者さんが、少しだけ落ち込んでいるように思える。白鶴団長に、認知されなかったからかな。分かっていた事だけど……やはり、寂しくなるんだろう。
『茶寓。凱嵐は千道の事を、敵対している訳ではねぇんですよね?』
「はい。『適性検査』に合格したから、ある程度は認めているようです。本人も言ってましたが、ここからは千道君の行動次第になりますね」
「やってみせますよ」
「それにしても、テレスコメモリーに何一つ触れなかったのは、私も内心驚きっぱなしでしたよ」
「そう言えばそうですね」
この歪な杖の事を、彼女は不思議がるどころか、全く見向きもしなかった。ただ単に、俺の武器だとしか思っていないのだろうか。そう考えると、少し悲しくなる。英雄さんの形見を見ても、何とも思わないのが。
『……やっぱり……』
「?」
『……千道。おれ、エレガンティーナイツの本拠地に行ってみてぇです。今の君なら、通して貰えるでしょう』
「そうですね。俺も本拠地には行っておきたいって、思っていました。ワープポイントにもなっていますし」
「見たら驚くと思いますよ〜。とっても綺麗なお城の様です。しかし、どうしても徒歩になってしまうんですよねぇ」
「まぁ、それはしょうがない事ですよ」
致命的だが、当然である。魔力が無いので箒に乗れない。ケルリアン王国には、ゼントム国と違って交通機関もあるだろう。だが無所属の俺には、交通費代が支給されないようだ。これだけ見ると、チェーン店のバイトのようだ。
「ユーサネイコーでは、自分の乗り物であったら法律に縛られずに、どこでも自由に走り回れるのが利点なのに」
「私有物だからでしたっけ?」
『そうです。所有権は己になるので、誰にも縛られる事はねぇです』
「まぁ、事故ったら……それは『自己責任』という事ですね!」
「危険なドライブをしないように、気を付けます」
魔力が無い俺でも乗りこなせそうな奴が、そんな都合よくあるだろうか。いつもはフィデスを使って、ゼントム国内の依頼しか受けてない身分だ。ケルリアン王国は、この国よりも断然と広い。徒歩だと限界が訪れるだろう。
「千道君は引き続き、ゼントム国内の依頼を受けて下さい。一日に付き、十件くらいがノルマですねぇ。そして依頼の合間にケルリアン王国を放浪する、という形で行きましょうか」
妥当な判断である。ゼントム国に本部がある癖に、ここの団員は他国に飛ばされまくるのだから。その理由は二つ。一つは精神災害警報である。各国でシニミが大量発生した証拠だ。二つ目は、この国が小さいからだろう。先ほども言った通り、報酬が小さい依頼が殆どだ。俺くらいしか、引き受ける気になれないらしい。
「分かりました。調査していきます」
「うんうん、目標が明確になりましたねぇ。私も、出来る限り援護しますよ~!」
『徹夜でブッ倒れないで下さいよ』
「うそ……英雄さん至上主義の勇者君が、私の心配をしている!?」
『失礼しやがるな。茶寓が居ねぇと、記憶が戻せねぇんですって』
「聞きましたか千道君! 勇者君が、私の事をこんなにも大切にしている!!」
「そんな相手にされなかったんですか?」
「英雄さんに首ったけだったので!」
目標である団長とその副団長、友達である美少年と美少女が、エレガンティーナイツの中で最も関わる事になる四人になるのだが、その詳細に関しては、どうか次の章を見て行って欲しい。
そして、笑い合っている俺達は露とも知らずに、監視されているのだった。顔も名前も知らない、頂点に君臨している奴によって。
「やはり、来るか……末成 千道。白鶴を解放する気でいるとは、身の程知らずにも程がある」
『ダイヨングンダン ゾウハンシャ ソンザイ』
『ジッコウ カノウセイ 7.86%』
「誰であろうと、結果は同じだ。エレガンティーナイツを滅ぼし、手立てに従うまでだ。そして返してもらおう、その杖を……」
壮大に広がる世界の片隅で、不気味な笑い声が響き渡っている事は、本人以外誰も知らない。
―――――
次回から、毎日『一話投稿』に切り替わります。
ここまで読んで「面白い!」「続きが気になる!」と少しでも思ったら、ぜひ遠慮せずに★や応援、コメントやフォローを下さい。その行動が、筆を折らない原動力になります!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます