1-53 団長とトップモデル

 餅歌は『六家罪』という理由で、どれ程怯えながら生きているのだろうか。俺はそれを経験してないから、完全に理解が出来ない。だから、彼女ともっと話したい。



「俺は餅歌の事を、もっと知りたいです」

「そう言ってくれると、あの子も喜ぶに違いないわ。ただ、祝和に折られないように気を付けなさいよ」

「はい……」

「あら、見た事あるの?」



 買い出しをした時の話をした。すると団長は両肘を机の上に置き、指を交差してため息をつく。少々、呆れている様だ。あれで前よりマシになったとは、儀凋副団長から聞かされている。しかし、やはり信じられないのも事実だ。



「あんなにキレるとは……」

「餅歌には全く伝わってないわよ」

「あ、やっぱりそうなんですか」



 通りで餅歌は祝和君と俺の事を、する訳だ。俺はまだ、出会って一週間も経たない程の立場なのに。ここまで行くと、祝和君が哀れに思えて来た。



「でも、どうしてあんなに餅歌の事を大切にしているのかは、よく知らないの」

「えっ?」

「当然、れんもあるだろうけれど、それにしては……過保護? いや、執着? う~ん、依存? そんな気がする」

「一歩間違えたらアウトだ……」



 いや、もう既に踏み外している気がする。この役職じゃなかったら、刑務所に行っ……どうしてだろうか。牢屋をブチ破る彼が、いとも容易く想像出来る。



「……あの子、中庭で寝る事が多いんだけれど。物音一つで、目が覚めるの」

「あぁ、儀凋副団長も言ってましたよ。猫みたいだなって思います」

「ふふ、確かに。でもね、一度だけ……寝言を聞いた事があるわ」

「えっ!?!?」



 思わず、大声を出してしまった。あまりにも食いつきが良すぎたので、彼女は声を出して笑う。そりゃ、友達の事は何だって知りたくなる。これは普通じゃないのかもしれないが、俺はそういう性格らしい。



「仁に羽交い締めをされ、アタシに殴られて気絶した時だったわね」

「それ、寝てるって言いませんよ」

「気絶しているなら、寝言も吐かない筈でしょう?」

「……あの、どうしてそんな状況になったんですか?」



 儀凋副団長から少し話された時から、ずっと気になっているのだ。大体は見当がついているけれど、ツートップが出て来るまでの騒ぎを起こしたとまでは、想像が追い付かない。



「二人が入団したての頃の話よ。一番最初の模擬実践で、餅歌のソウルを見た団員が、あの子を『バケモノ扱い』した。それで、祝和が大暴走。もう大騒ぎになったわ」

「バケモノ……それは、良くないですね」

「アタシも仁も猛省した。餅歌の事を入団させたのは、正しい事だと信じ切っている。、あの子の魂をもっと見てあげるべきだった……」



 それ以来、餅歌はソウルを出さなくなったようだ。もう二度と、誰かから酷いレッテルを貼られない為に。俺に見せてくれる日は、限りなく『無い』に等しいのかもしれない。



「それで、気絶した祝和を部屋に運んだの。暫く経ってから、起きたかどうか様子を見に行った。その時に」



『……お……か……さん……』



「……お母さん?」

「そう言ってた。酷く、苦しそうに魘されながらね……後から聞いても『覚えてない』の一点張り。まぁ、夢の中の記憶は忘れてしまうモノだけど……」



 人間には、誰しも言いたくない出来事がある。相手が家族だとしても、どんなに親しい間柄だとしても。あの二人は、ずっと一緒にいるのだろう。それでも、お互いの事を完全に理解していない。


 餅歌が祝和君を頼る日は、来るのだろうか。そして、祝和君はちゃんと、彼女に秘めている想いを伝えるのだろうか。



「話が逸れてしまったわね。餅歌が戻って来たら、報告を一緒に聞きましょう。他に、何か聞きたい事はあるかしら?」

「……殺人事件の方は、どんな感じですか」

「あぁ……昨日も出たわ、犠牲者が」



 一昨日も、その前の日も……毎日、王国のどこかで亡くなっているようだ。死体はすぐに発見する様だ。団員が見つける事もあれば、一般市民が通報してくれる事も。



「自国に集中するようになっても、糸口すら掴めないのは悔しい。こんなに犠牲者が出ているのに」



 確かに、もう少しで五桁に到達してしまいそうだ。なのに手がかりすらも分からない。という事は、犯人は相当手馴れているという事だろう。ここまで犠牲者を出す目的とは、何なのだろうか。



「それに加えて、モデルの仕事もずっとある。合間を縫って撮影しているのだけれど……正直、クオリティーが低くなっているかもしれないのが、不安ね」

「でもその仕事は、団長にしか出来ませんよね……」



 こればっかりはそうだ。他の人だと、彼女の代わりは務まらない。芸能界の仕事は、白鶴団長にしか出来ない。しかし、どちらかを捨てるという選択肢は、絶対に作らない彼女だ。



「撮影も、極力日帰りにするように交渉しているの。ラツフェイの更新も、少し間隔を空けている。こっちに集中する為にね」

「白鶴団長」

「どうしたの?」

「……何日も掛かる、大規模な撮影に招かれたら……どうするんですか?」



 これは俺の台詞じゃない、勇者さんが言った言葉だ。しかし、彼女には全く届かない。だから、俺が代弁する。間接的だが、二人は会話が出来ている。

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