1-1 八つの団

 3月31日


 かつては十二年前の英雄さんが使っていたらしい、テレスコメモリーという杖の中に入っている勇者さんと共に、この世界を放浪すると決めた。


 身寄りがいなかった俺だが、今はゼントム国で暮らしている。もっと細かく言うと、俺が入団した『ソフィスタ』の本拠地『DVC』があり、母屋おもやから離れた場所に家があるので、そこで生活中。


 本当は誰の家なのかは知らないが、ここで勇者さんと一緒に暮らす事になった。



 この世界に落とされた俺がやる事は、主に三つある。順番に話して行こう。



 ①団長の魂を開放する


 ソフィスタには、八個の団がある。それぞれに団長がいるのだが、彼らは全員、かつては英雄さんと勇者さんの親友だったようだ。しかし、今はその記憶が。思い出して貰わないと、非常に困る。


 ②テレスコメモリーを完全復活させる


 実はこの杖、一番最初に見た時から『大欠損状態』である。むしろ、この形でよくまだ使えるなと思わせられる程である。古代の部品で作られているようなので、探し回らないといけない。この杖が完治したら、勇者さんも出て来るのだろう。


 ③ナイトメアを倒す


 全ての元凶である。コイツをブッ飛ばさないと、ユーサネイコーは終わる。シニミの祖先と言われているので、コイツさえいなくなったら、世界中から怪物が消え去る事だろう。今はまだ封印されているが、いつ復活するか分からない。



「③が最終目標として。①と②は必ず通る道だ」


『壮大な旅になりますね』


「お供して下さいよ、勇者さん。英雄さんの杖と共に」


『勿論ですよ』



 まずは、団長達に会う。俺の放浪旅は、そこから始まる。なので、彼らの事を少しでも知っておこうと思い、勇者さんから話を聞く。十五年前は仲良かったらしいから、色々聞けるかと思ったのだ。



『■■■■■が■■■■■で、■■■■と■■■■■でしたね。あぁ後■■■■■でもあって、■■■■が■■■で■■■■■■とかもやってました。それから意外にも■■■■でしたり。■■■■■は■■■■■で■■しやがりました』


「なるほど」


『どうです、聞き取れました?』


「アダルトビデオを視聴した気分です」


『クソナイトメアがッッッ!!!』



 結論から言うと、初手から詰んだ。テレスコメモリーの中に閉じ込められているせいなのか、勇者さんが本当に話したい事や伝えたい事は全て、俺の耳には届かず『雑音化』してしまう。なので有力らしい情報を、全く知る事が出来ない。



「では、私が説明しましょう!」

「んぎゃあああああああ」



 窓ガラスをブチ破って入って来られると、横転するのは自然だろう。上半分が仮面であり長身である彼は、勇者さんの幼馴染である・ソフィスタ総団長、ちゃぐう おのさん。



「相手の事は知っておいた方が良いですし。それに千道君は調査する時、誰かと一緒の方が絶対に良いでしょう」



 地球出身である俺も、最初は驚いた。この世界には魔法が存在するのだ。主に四種類あるが、一番重要な奴だけ取り敢えず話しておこう。それは『特有魔法』と言って、またの名を『ソウル』だ。


 魂に基づいて生まれる魔法らしい。だからなのか、魔力が無い俺にも『決意』というソウルが宿った。


 これは、俺の意志が強くなればなるほど、テレスコメモリーの中に入っている魔力を身体に纏い、爆発的な力を出す。逆に言うと、テレスコメモリーの中に。この状態になってしまうと、俺は一気に無力になる。


 まぁつまりスゲェ簡単に言うと、ソウルを発動させる分のなのだ。



『千道と共に行動する人が、魔力を渡してくれるかが肝心ですね。団の説明から、見つかると良いのですが』


「一つずつ見ていきましょうか」



 茶寓さんは空中に向かって指を振ると、文字が浮かび上がってスラスラと並んでいく。ちなみに書かれる文字は日本語じゃなくて、ゼントム語という。本来ならば絶対に読めないが、今は翻訳薬を飲んでいるから大丈夫だ。



『エレガンティーナイツ』


『クラフキュートパーシェ』


『オーバービーストハザード』


『ダークネスマーダー』


『バブルバベル』


『リンカルライフ』


『ハンドトゥルーラック』


『フェザーフェイトマーシー』



「これらが現在のソフィスタに存在する、八つの団の名称です」


『……フッ……』


「勇者さん、どうして笑ったんです?」


『どれも英雄が付けた、微妙にダセェ名前のままだなって』



 勇者さんは、英雄さんの事が大好きなのだ。時折話してくれるとほっこりする。茶寓さんもニコニコしながら、『エレガンティーナイツ』以外の文字を消す。



「ここは、ものすご〜く『美』を重視していますねぇ。団長はトップモデルも兼任していますし。『ラツフェイ』のフォロワーは、世界でも数少ない七千万人越えです。この数のフォロワーを持っている人は『世界で0.0000003%』しかいませんねぇ!」



 ラツフェイとは、連絡先交換して通話とかメッセージ送ったり、独り言を言ったり、写真投稿とか出来る、良いアプリの事らしい。いわば超大型SNSアプリ。


 余談だが、この世界にもスマホはあるらしい。入団祝いにと、茶寓さんが灰色のスマホをプレゼントしてくれた。なんと、最新版をくれるとは。


 アプリを立ち上げる。まだ作ったばかりなので、フォロワーは茶寓さんとスパムばかり。彼以外は全部ブロックしているけれど。もっとどうでも良い事を言うと、対応言語はゼントム語だ。



「『アカウント検索』で『S』って打てば、一番上に出て来ますよ」

「えーっと、しろ……しら? が、が……う~ん??」

「本名そのままですねぇ。エレガンティーナイツの団長は、しらつる がいらんというのです」



 アカウントをタップすると、細部まで拘っているとても美しい女性の写真が、沢山出て来る。衣装もポーズもカメラ目線も全部キマっており、俺の腹筋あたりまでの脚の長さをしていると本気で思う。これは、男性でも女性でも虜になるに違いない。そんなストイックな雰囲気が出ている。

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