第一章 旅立ちはいつでも緊張が伴う

準備編

1-1 八つの団

 三月三十一日


 改めて名乗ろう、俺の名前はすえなり ゆきだと。実を言うと、地球という遠くにある惑星から来たのだ。ソフィスタに入団するまでの過程は、前作で話した。とはいえ、軽くおさらいでもしておこう。


 俺は重なり合った天命により、ユーサネイコーという惑星に転移された。運良くソフィスタに助けられたが、安心したのも束の間だった。

 ナイトメアという、シニミの始祖が復活する予兆が立っているらしい。奴は十二年前に、英雄さんという伝説によって封印されている。俺はこの世界を生き抜くために、入団試験を受けた。


 この世界では、魔法が使える。『基礎魔法』、『応用魔法』、『特有魔法』、『唯一魔法』と、四種類に分けられている。俺は魔力が流れていないので、基本的には使えない。

 しかし、魂があることには変わりない。俺は試験の最終局面にて、『決意』のソウルを宿した。 これは、俺の意志が強くなればなるほど、爆発的な力を出す。MBHを解放させたことにより、合格となったのだ。

 だがこの技にも、欠点がある。俺の杖となったテレスコメモリーの中に、魔力が無い時は発揮しない。この状態になってしまうと、俺は当然にも無力になる。


 武器は歪な望遠鏡となっているが、前は英雄さんが使っていたらしい。そして今は、相棒である勇者さんが、何故か中に閉じ込められている。彼女自身は、元凶を封じたと同時に命を落とした。

 伝説の片割れと共にこの地獄を放浪すると、覚悟を決めたのだ。俺は今、ゼントム国で暮らしている。もっと細かく言うと、ソフィスタの本拠地であるDVCの母屋おもやから、少し離れた場所に家がある。本当の持ち主は不明なので、ここで勇者さんと一緒に暮らしている。


 ナイトメアの討伐を最終目標とし、俺がやることは二つある。一つは、テレスコメモリーを完全復活させることだ。この杖は、一番最初に見た時から大欠損状態だった。よくまだ使えるなと、思わせられるほどである。

 これは古代の部品で作られているらしいので、世界中を歩いて探し回らないといけない。この杖が完治したら、勇者さんが脱出できると推測している。


 もう一つは、団長の魂を開放することである。このソフィスタは、八個の団から成り立っている。すべての団長たちは、英雄さんと勇者さんの親友だったようだ。しかし今は、その記憶全てがナイトメアによって

 思い出してもらうためには、接触しないといけない。彼らのことを少しでも知っておこうと、勇者さんから話を聞く。十五年前は仲良かったらしいから、色々聞けるかと思ったのだ。


『■■■■■が■■■■■で、■■■■と■■■■■でしたね。あと■■■■■でもあったんですよ。■■■■が■■■で、■■■■■■とかもやってました。それから、意外にも■■■■でしたり。■■■■■は、■■■■■で■■しやがりました』


 結論から言うと、初手から詰んだ。大人向けの映像を見ている気分になり、頭を抱えるほどだった。勇者さんが本当に話したいことや伝えたい部分は、俺の耳には届かずに雑音化してしまう。

 テレスコメモリーの中に閉じ込められているせいなのか、はたまた忘れられた存在となったからか。有力な情報は、まったく手に入れられなかった。望遠鏡からの舌打ちに、肩を震わせる。


「では、私が説明しましょう!」と声が聞こえたのと同時に、窓ガラスを割って侵入された。心臓が飛び跳ねて、横転するのは当然のことだろう。顔の上半分が仮面であり、とても長身である大男。

 彼は勇者さんの幼馴染であり、・ソフィスタ総団長を務める、ちゃぐう おのさんである。


「勇者くん、会いに来ましたよ!」


『そうですか』


「うぅっ、冷たいですねぇ。英雄さん以外に塩対応なのは、変わりないですねぇ」


『茶寓はいつまで経っても打たれ弱ぇですね。千道を見習って、そろそろ自分のソウルに自信を持ちやがれください。君がいなかったら、団長の記憶は取り戻せねぇのです。を蘇らせれるのは、君しかいねぇでしょうが』


 鼓舞されてすっかり機嫌が直った茶寓さんは、テレスコメモリーを優しく抱き締める。しかし、勇者さんにぬくもりは伝わらない。急に視界が無くなった、という認識に過ぎないらしい。

 彼の言う通り、テレスコメモリーの中には写真が入っている。部品と魔力を集めれば、現像される仕組みである。今は、若かりし頃の英雄さんと勇者さんの写真のみ。これは、テーブルの上に大切に飾ってある。

 全ての写真を復帰させるにも、部品が必要になる。茶寓さんのソウルは『記憶』なので、団長たちに思い出させる可能性を秘めている。


「千道くんは調査する時、誰かと一緒の方が絶対に良いでしょう。いざという時、魔力を渡してくれる人が必要になります」


『団の説明から、目星がつくと良いんですがね』


「そうですね。では、一つずつ見ていきましょうか」と言った茶寓さんは、空中に向かって指を振る。文字が独りでに浮かび上がり、文章を創り上げていく。

 ちなみに、書かれる文字は日本語じゃなくて、ゼントム語である。本来ならば読めないが、『翻訳薬』のおかげで事なきを得ている。



 エレガンティーナイツ


 クラフキュートパーシェ


 オーバービーストハザード


 ダークネスマーダー


 バブルバベル


 リンカルライフ


 ハンドトゥルーラック


 フェザーフェイトマーシー



 これらが、八つの団の名称である。望遠鏡から笑い声が漏れたので、振り向く。勇者さん曰く、この名前は英雄さんが名付けたらしい。茶寓さんも笑顔になりながら、エレガンティーナイツ以外の文字を消す。


 この団は、とても美意識が高いようだ。団長は、トップモデルも兼任していると言われる。余談だが、この世界にもスマホはある。入団祝いにと、総団長が灰色のスマホ――なんと、最新版である――を、プレゼントしてくれた。

 アプリの一つに、『ラツフェイ』という超大型SNSアプリがある。通話とかメッセージを送れたり、独り言を呟いたり、写真投稿ができる。団長のフォロワー数は、世界でも数少ない七千万人越えらしい。

「この数を持っている人は、世界で0.0000003%しかいませんよ!」と、茶寓さんが教えてくれた。俺はまだ作ったばかりなので、フォロワーは茶寓さんとスパム――全部ブロックしている――だけである。もっとどうでも良いことを言うと、対応言語はゼントム語にしている。


「アカウント検索で『S』と打てば、一番上に出て来ますよ。芸能人ですが、本名そのままですねぇ。エレガンティーナイツの団長は、しらつる がいらんというのです」


 アカウントをタップすると、とても美しい女性の写真が、たくさん出てきた。衣装もポーズもカメラ目線も、全てが完璧である。脚の長さは、俺の腹筋辺りまであるかもしれない。これは、男性でも女性でも虜になるに違いないと、確信した。

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