1-2 八つの団②
次は、クラフキュートパーシェという団の説明である。名前からして可愛らしく、唯一の女性限定らしい。もちろん、団長が一番愛嬌あるのだと、茶寓さんが話す。すると、望遠鏡から嘲笑が聞こえた。
『見た目だけです。全員逃げる未来が……おぉ、見えますねぇ』
テレスコメモリーの中身は見れないので、勇者さんの姿は分からない。けれど、今の彼は、どこか遠くへ目を向けている気がする。とにかく、ここの団長にはギャップがあるようだ。
「お茶会を開いてますね。他の団の女性は、よく誘われています。男性は極めて稀に、たまぁぁぁに……」と、茶寓さんは項垂れる。この言いようだと、男である俺は絶対に排除されるだろう。
花園に野郎が入ってきたら、確実に追い出されるのは明白だ。女は恐ろしい生物なので、舐めてかかる奴らは死を覚悟すべきである。
「ご安心ください! オーバービーストハザードは、男性オンリーです!」と、立ち上がった総団長は、再び説明に戻る。ここの団員のほとんどは、筋肉質で素行が荒く、喧嘩ばかりしているらしい。
つまり、団員同士の仲が悪い。曇りなき笑顔で断言されたので、膝から崩れ落ちて四つん這いになる。団長に関しては、『毎日喧嘩に明け暮れて、全身が血まみれである』という、物騒な噂が絶えない。
「副団長が止めたら良いのに」
「実は、ここに副団長はいないのです」と、茶寓さんが教えてくれる。団長は絶対条件だが、腹心は任意らしい。現時点では、六人だけである。
言い換えると、団長に歯向かう人がいないという意味である。さらに物騒を極められ、落ち込み続ける。優しい仮面の大男は隣にしゃがみ込み、一緒に項垂れてくれた。できれば、一生無縁が良い。しかし、団長にはいつか会わなければ。
『あの野郎……!』
テレスコメモリーが、ガタガタと揺れた。口調からして、確実に憤怒している。どうしたのかと聞くと、何でもないと返された。
『次に行きましょう。ダークネスマーダーですね?』
ここにも、副団長がいないようだ。とてもトリッキー集団なので、茶寓さんは頭を悩ませる日々が続いているらしい。団長に関しては、自分好みではない人には目もくれない。
俺を見たら、トイレで糞を出すように一発KOすると言われたので、早々に辞退した。確かに、魔力が無いという点では、十分なトリッキー要素だ。しかし、この団が求めているのは、魔法そのものであろう。
「不定期に開催される、マジックショーが大人気なんです。だからなのか、ここの団には色んな種族がいます。もちろん、団長も人間ではありませんよ」
『というか、八人の中で人間なのは、凱嵐だけです。あ、おれと英雄もそうですよ』
色んな種族が一丸となって、世界を調査する。差別がないと完璧だが、どうしても魔力量の差とかで、上下関係が出てきてしまう。どこの環境でも、こうなるのは必然なのだろうか。
茶寓さんは次に、バブルバベルを書く。個人的に、一番覚えやすい名前である。短いし、語呂が良いからだろうか。しかし、彼からは「一番危険な団ですね」と、言われてしまった。
その理由としては、『七不思議』があるほどの謎を持っているからだと。総団長ですら、本拠地がどこにあるのか知らないらしい。恐ろしい雰囲気をまとっている。映画館で気絶した経験がある俺に、この恐怖は乗り越えられるだろうか。いや、乗り越えなければならない。
「団長さんは、占い師でもあります。百発百中なんだとか!」
『インチキって言ったら、気づかない間に海のモズクですよ』
完了形にしてくるとは、やはり恐ろしい。しかし、次の団であるリンカルライフのほうが、謎が深まっている。事情があるらしく、『特別扱い』しているようだ。基本的に、DVCへ来ないらしい。
「もちろん、本拠地がどこなのか分かりません。加えて、どこで何をしているのかも想像つかない。連絡手段もゼロなので、幻の団と言われてますねぇ」
『さっきから思ってましたが、権力低くねぇですか?』
「私は不本意ながら、二代目となりましたからね! 本当の総団長は、英雄さんです! 昨日も今日も明日もその先も、書類を捌くのが私の役目ですよ!!」
社畜根性が、根強くなってしまっているが、打たれ弱い。ちなみに、茶寓さんのソウルは『記憶』である。とても強そうに思えるが、実際は戦闘向きではないことを、相当気に病んでいるようだ。
そんな少し拗ね気味となった総団長は、ハンドトゥルーラックの説明に移った。ここは一番真面目で、喧嘩もしない。毎年功績を残しているので、信頼も高いようだ。
『無理ですよ』と、希望を持ち始めた俺を否定したのは、勇者さんだった。頭ごなしに全否定するのは、彼の癖らしい。幼馴染である茶寓さんは、いつも苦労していたようだ。
『おれは事実を言っているだけです。アイツは、自分にも他人にも厳しい。学力試験でも、トップしか取ったことがねぇくらいに。初手で、無理難題を要求するに違いねぇ。例えば、国家試験を三つ以上一発合格しろ、とか』
無理だと、直感した。全員眼鏡をかけていて、分厚い辞書を持ち歩いている。男性は坊主頭で、女性はおさげ。魔法以前に、知能が爆発的に優れている。多少は偏見も入っているが、あらかた間違っていないだろう。
いつの間にか、最後になってしまった。フェザーフェイトマーシーという団は、とても神秘的な雰囲気をまとっているようだ。
ソフィスタに入団したら、必ず『戦闘団員』か『非・戦闘団員』の二種類に分けられる。前者は戦闘系、後者は事務系の依頼を中心にこなす。俺は前者となったが、ここの団は、全員が両立しているようだ。
「魔法技術はもちろん、勉学や雑学の知識、発想の巧みさ等々。何もかもが、逸脱している団です。あそこに選ばれる合格者は、毎年一番少ないですねぇ。団長に見初められた者は、たちまち才能を開花して成功するという、素晴らしい噂がありますよ」
他の団長には失礼だが、一番良い内容だと感想を述べた。どこの団も、長の存在が大きいことには違いない。その中でもここは、正に全員から慕われているのだろう。
『これで、説明が終わりましたか。で、千道はどの団と一緒に調査を?』
そう言われた茶寓さんは、もう一度考え始める。冷や汗を垂れ流し、無言のまま硬直してしまった。そんな彼を見かねた勇者さんが、もう一度口を開く。
『どこに行っても痛い目に遭う、って訳ですね?』
「え、あ、そそそそそんな事は一言も」
『まぁ、そんな気はしてましたよ。覚悟を決めやがれ、千道』
どこの団にも、受け入れてもらえない。氷柱よりも冷たいナイフが、俺の心臓を突き抜けて行く。もしもこの状態が続いてしまうと、団長たちには会えず、お二人は一生思い出してもらえない。
ゼントム国から出て、テレスコメモリーの部品を探せない。ナイトメアをブチのめすという野望が、叶わない。何も出来ない、ということになる。
両膝を床につけ、両手を額に当てて背筋を伸ばして、絶叫する。いきなり前途多難状態の、始まりを迎えてしまった。
「私たち以外に、君を知っている人がいれば良いのですが」という、茶寓の呟きを拾う。しばしの熟考の末、俺はある人物を思い出した。
「俺を助けてくれた、骨の彼!!」
初めて、この地に降り立った日。無力だった俺はシニミに襲われ、殺されかけた。彼が爽快に助けてくれたから、今も生きていると言っても過言ではない。
茶寓さんも、合点がついたらしい。彼は、エレガンティーナイツに所属しているようだ。たった一つしかない選択をした俺は、総団長に頭を下げる。
「分かりました。白鶴さんに問い合わせてみますよ~」
もはや、消去法である。しかし説明を思い返してみても、ここの団にしか希望が見えない。交渉が上手く行けば、向こうの非・戦闘団員が来てくれるようだ。
「『国際世界長会議』が三日にあるのですが、まぁ何とかなるでしょう!」
と言われたのが、最後の会話である。それ以来、四日も待たされる羽目になった。まだ交渉が上手く行ってないか、失敗したかのどっちかだろう。
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