第14話 フェアじゃないですね

 

「え、縞々パンツが恥ずかしくて黙っててほしいって話じゃないんですか?」

「違う!」


 あ、あれえ?もしかして俺、とんでもない勘違いしてた……?


 あ、そうかあっちの話か!


「分かりました、ランキングで1位取れなかったことは黙って――」

「ゲームの話でもないっ!」


 あれええぇ?これも違うの?


 言われたら恥ずかしいことなんて他にあったかなぁ……?


「分かっててやってる……?」

「え、いや」


 お、怒ってる!?な、何か言わないと……!


「……尻尾」

「へ?」


 ん?尻尾?


「見たよね……尻尾」

「そりゃ見ましたけど」

「……!やっぱりわざと!」


 えええどゆこと?


 あ、わざとって、俺がしらばっくれてるってことか!


「ごめんなさい、わざとじゃないです……本気で言ってました」

「……それはそれで頭おかしいと思う」

「ガーン!」


 いやそうだよね、女子同士だからっていきなり初対面でパンツの話なんかしないよね。


「とにかく、私が悪魔なのは黙ってて」

「あ、そっか!」


 そうじゃん、悪魔は人気だから隠れてるんだった。全然実害無いから忘れかけてた。


 あれ、そういえばこの人、俺も悪魔だって気付いてないのか?この部屋には悪魔しか入れないことを忘れてる?


「……何すれば黙っててもらえる?」

「あ〜、ストップです

「……ん?」


 俺は右手の中指から、指輪型の魔道具を外した。


「――っ!?悪魔!?」

「これでどうですか?お互い同じ秘密を共有したわけですし、私が喋らないって信じてもらえますか?」

「う、うん……初めて見た」

「そうなんですか?この国ならいっぱいいると思ってたんですけど」

「……普段お互い魔道具で隠れてるから、普通は見つけられない。それに、この国でも悪魔が生まれてくるのは3年に1人くらいらしい」

「なるほど」


 そっか、そりゃ隠れてたら見つからないよな。


 あ、そうだ。折角悪魔同士出会えたんだし自己紹介しておこう。


「ヴェール・オルトです、気軽にヴェールって呼んでください。よかったら悪魔同士仲良くしましょう、先輩」

「……クロネ・ベクトリール、よろしく」

「はい、クロネ先輩!」


 よかった、結構優しそうな人だ。


「……ねえヴェール。同じ悪魔のあなたに、聞きたいことがある」

「なんですか?」


 そう言うクロネ先輩の表情は真剣そのものだった。


「ヴェールは、外から来た人?」

「外、っていうのは、このブローザ大陸の外って意味ですか?」

「そう」

「なら自分は外から来た人間ですね。サーレン大陸のカリアウス王国というところから来ました」


 ということになっている、と語尾に付くが。


 俺がそう言うと、クロネ先輩は真剣な表情から一変、嬉しそうな顔をして


「ヴェールはこの国のこと、どう思う?」


 と質問してきた。


「え、どうって……」

「率直に思ったことを言ってほしい」


 う、うーん。最初は見つかったら殺されるんじゃないかって凄く怖かったけど、ガロアさんアインスさん、それからサリーさんに会ってから、いい国だなって思ったな。


 率直にって言ってたし、思ったことをそのまま伝えるのがいいか。


「そうですね、いい国だと思いました。種族間の争いとか全然ないし、悪魔にも優しいですから」

「あ…………そっか」


(あれ?)


 俺に質問したときはめちゃくちゃ笑顔だったが、俺の解答を聞いたら凄く残念そうな顔をした。望んでた解答と違ったってことかな?


 クロネ先輩はどう思ってるんだろう。


「先輩は?」

「……え?」

「クロネ先輩はこの国のこと、どう思ってるんですか?」

「…………」


 質問を返してみたが、クロネ先輩はじっと黙ってしまった。そして、やや葛藤してから口を開いた。


「私は――」


 一度口を開いて言葉を出しかけたが、やはり悩んでいるのか、もう一度口を閉じて、そして今度こそ開いて――


「気持ち悪い、って思う」


 ……なるほど。それがクロネ先輩が望んでいた解答というわけか。


「……ごめん、忘れて。私もいい国だって思ってる」

「え、いや――」


 それ矛盾してるんじゃ?とは口に出来なかった。


 気持ち悪い、か……もし俺が平和な世界なんて望んでなくて、悪魔のことを嫌っていたら……悪魔に優しいこの国の人たちのことが変に映るのかな。


「……変、だよね」

「いや、そんなことはないと思いますけど」

「ううん、いい。私が捻くれてるだけだから」


 何か慰めの言葉をと思ったが、こういうとき何を話していいのか俺には分からなかった。


 だがありがたいことに、クロネ先輩の方から話題を変えてくれた。


「……ん?」


 こちらをじっと見て首をかしげるクロネ先輩。


「ど、どうかしましたか?」

「ヴェール、ちょっと後ろ向いて」


 え、後ろ?まあ、言われた通りにするか。


「こうですか?」

「……やっぱり似てる」

「あの……?」


 なになに?意図がわからん。


「ほらこれ」


 そう言ってクロネ先輩は、スマホの画面をこちらに見せた。そこには悪魔になって初日の、俺の後ろ姿が写っていた。


「あ、私だ……なんで?」

「……ヴェール拡散されてる」

「拡散?」

「ここ」


 クロネ先輩はそう言って、画面の一部を指差した。


「ハートマーク……80.1万?」

「うん、少なくとも80万人にこの写真見られてる」

「ふぁっ!?!?」


 80万人!?なんでっ!?


「実際はもっと見てる。500万はいってるかも」

「えええ!?」

「これがこの国の悪魔の人気」


 悪魔が人気なのは知ってたけど、ここまで凄いとは思わなかった。


「ヴェールは姿変えれるからいいけど、私はペンダント型だから無理。だからバレたら終わり」

「はい、墓まで持っていきます!」

「……うん、よろしく」


 ペンダント型は消費魔力が少ない代わりに、尻尾のみしか隠してくれない。なので一度バレたら、そいつにはもう隠し通すことは出来なくなるのだ。


「……フェアじゃないですね」

「ん、フェア?」


 俺はバレても問題ない。なんなら魔道具に頼らなくても自前の幻惑魔法でなんとかなる。だから俺たちの秘密は同価値ではないのだ。それでは平等とはいえない。


「今から私の、もっとバレたらヤバい秘密を教えます」

「えっ、そこまでしなくても」

「いえ必要です。先輩のリスクと私のリスクが見合ってませんから」

「……は、はあ」


 困惑する先輩をよそに、俺は右手から透明な波動を出した。


「私の器の適性は虚無属性です」

「……そうだね?」


 それがどうかしたのか?といった顔をするクロネ先輩。これだけなら俺が全体の0.5%――200人に1人の人間であるということしか分からない。確かに珍しいが秘密と言えるかというと、そんなことはない。


「でも私の魂は虚無属性だけじゃなく、時空属性も使えます」

「……え?」


 もちろん信じられないと思うので、亜空間倉庫からお気に入りのマグカップを取り出して実演する。


「――っ!?亜空間倉庫!?」

「はい、虚無と時空の混合魔法です。信じてもらえましたか?」

「う、うん……なんで波動が灰色じゃないの?」

「さあ、私にも分かりません」

「でも確かに、これはヤバい秘密」


 やっぱりこれヤバいのか。


「研究者……というかこの国が、間違いなく躍起になって調べたいことだと思う」

「え、そこまで?」

「うん、悪魔になる条件の1つ――魂と器の適性一致が覆る」


 それはサリーさんも言ってた。俺が元男ってバレたら性別一致の条件も覆るけど。


「そのメカニズムさえ分かれば、マクス・マグノリアの復活条件が緩くなる。器が全属性じゃなくてもよくなるから」

「あ」

「マクス・マグノリア大好きなこの国は、意地でも研究したいことだろうね」


 あれ……?もしかしてこれ想像以上にヤバい秘密?


「……クロネ先輩」


 震える手でクロネ先輩の両肩を掴む。


「ヴェール……!?」

「頼みましたよ、絶対誰にも言わないでくださいね……?」


 クロネ先輩にそうお願いする。


 きっと今の俺は口が引き攣って、青褪めた顔をしているのだろう。


「わ、わかった!わかったから離れて、近い!」

「あ、すいません」


 バレたらモルモット確定かと思うと、取り乱してしまった。


「……ヴェール、優しいね」

「え?」

「普通初対面の私にそんな秘密教えない」

「……別に、平等じゃないのが嫌だっただけですよ」

「そんな優しいヴェールに相談がある」

「相談、ですか?」


 なんだろう?


「……お金の作り方教えて」

「はい?」

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