第15話 あれ、何か忘れてるような……?

 

 え、お金の作り方って。


「クロネ先輩、通貨の偽造は犯罪ですよ?」

「……ごめん間違えた。手っ取り早いお金の稼ぎ方教えて」


 ああそっちね。おじいちゃんビックリしちゃったよ。


「なるほど、先輩5ですもんね」

「――っな、なんで知ってる!?」


 驚愕っ!といった表情でこちらを見るクロネ先輩。


「いや、ベーシックインカム来月で切れるって自分で言ってたじゃないですか」

「ハッ!?そういえばそうだった」


 やっぱり忘れてたのね。


「うーん……あ、知り合いの店紹介しましょうか?居酒屋なんですけど」


 サリーさんの実家である。あそこなら雇ってくれるんじゃなかろうか。


「……それは無理」

「え、接客とか苦手でしたか?」

「違う」


 クロネ先輩はスマホの画面を俺に見せてきた。画面には可愛い女の子の絵が映っていて、明るい音楽が鳴っていた。


「ゲームの課金に月45……いや、切り詰めても42万は必用。だからそれだけ稼がないといけない、じゃないと死んじゃう」


 絶対もっと切り詰められるだろ、という言葉は飲み込んだ。何故ならクロネ先輩の表情が真剣そのものだったから。


「推し活に金は惜しめない。私がマックスちゃんの1番でなきゃいけない」

「お、推し……?」

「そう!この子!」


 目をキラキラさせてスマホを見せてくるクロネ先輩。凄くハイテンションである。


 画面には白髪ロングヘアーの際どい衣装を着た美少女キャラが映っていた。


「マックスちゃんはマクス・マグノリアをモチーフとして美少女化したキャラでうんぬんかんぬん――」


 更にハイテンションで饒舌になったクロネ先輩は、ノンストップでマックスちゃんの魅力について語り続けた。


(ていうかなんで俺が美少女になってんの!?なに勝手に……いや、現実リアルでも美少女化してたわ)


 このゲームまさかこのことを示唆した予言者が作ったのか!?……流石にないか。


「――つまり、一目惚れした」


 考え事をしている間に、クロネ先輩の話が終わったようだ。


「なるほどです」


 取り敢えず聞いてたフリをしておく。


「……あれ?」

「どうかしましたか?」


 クロネ先輩はこちらをじっと見て首をかしげた。


「ヴェール、ちょっとマックスちゃんに似てる?」

「え」


 そうか?そんなに似てないと思うけど。


「ハッ!?……ヴェール、一生のお願いがある」

「な、なんですか?」


 いいことを思いついた、といった表情でお願いしてきた。……嫌な予感しかしない。


「マックスちゃんのコスプレしてほしい」

「絶対嫌です」

「な、なぜっ!?」


 俺が即答すると、ガーン!とショックを受けるクロネ先輩。


 だって衣装際ど過ぎだし、こんなの着てたら確実に痴女扱いされる!そんなの恥ずかしくて死んでしまう。


「とにかく嫌です!それより、お金稼がないとじゃないんですか?」

「……何か思いついた?」


 うーん……あ、そういえば。


「クロネ先輩って、入学したとき能力テストみたいなやつやりました?」

「……うん、魔力容量キャパシティーがDで他はAだった」

「お、だったら冒険者なんてどうですか?私もなろうかと思ってましたし」

「えっ……ぼ、冒険者はちょっと……」


 あれ、いい提案だと思ったんだけど……なんか嫌そうだ。怖いのかな?でもぶっちゃけ他にお金稼ぐ方法なんて知らないしなあ。俺もソロより仲間いた方がやりやすいだろうし、もうちょっと押してみるか。


 俺はスマホを出して調べ物をした。


「……クロネ先輩、Aランク冒険者の平均月収って知ってますか?」

「え、知らないけど……」


 そう言うクロネ先輩に、俺のスマホ画面を見せる。


「――っな!?週に1回の狩りで月300万!?」

「どうですか?今までの6倍、マックスちゃんに貢いでもまだお金余りますよ」

「ぐっ……そ、それでも……っ!」


 うーん、もう一息といったところか?クロネ先輩も嫌だとは言ってるけど、絶対にやりたくないという感じではなさそうだ。


「クロネ先輩、私は魔力制御がSランクでした」

「えっ!?」

「そして魔力容量はEXです」

「えくすとらっ!?!?!?!?」

「どうです?私と組みませんか?もちろん報酬は半々です」

「ぐっ……!」


 目を閉じて震えながら葛藤するクロネ先輩。いけそうだな……ダメ押しといこう。


「クロネ先輩、Sランクの平均月収は2000万ですよ」

「な……」

「もちろん魔力制御も鍛錬を怠るつもりはないですから、いずれはEXランクになるつもりです。EXランクになれば5億以上です」

「お……く……!?」


 これでどうだ……!


「……やる……いや、やらせてください」

「クロネ先輩ならそう言ってくれると思ってました!」


 よっしゃ、戦力ゲットだぜ!


「早速登録しにいきましょう!」

「……あー、今日は眠いから明後日でいい?」

「あ、そっか。分かりました、明後日ですね」


 そういえばクロネ先輩、目に隈が出来てて眠たそうだったわ。


「……そろそろ、限界」


 そう言ってクロネ先輩は、部屋の隅の席に座って机に突っ伏した。


「すぴー、すぴー」

「寝るのはやっ!?」


 余程ぎりぎりの戦いだったんだな……ゲームのことはよくわからないけど。


 俺は亜空間倉庫から毛布を取り出し、クロネ先輩の肩に掛けてあげた。


「あ、連絡先交換するの忘れてた」


 仕方ない、RINEのID書き置きしておくか。……これでよし、と。


「……帰るか」


 部屋の外に出て、起こさないよう静かに扉を閉める。


「あれ、何か忘れてるような……?」


 何か重要なことがあってここに来た気が……あ。


「そうだ、調べ物しに来たのに何もしてないじゃん」


 そういえば悪魔に関する資料を見に来たんだった。


 ……まあ今度でいいか、と今日は諦めて帰ることにした。階段を降りて、図書館から出たところでふと思い出す。


「ん?そういえばもう転移魔法使えるんじゃね?」


 時空属性の転移魔法。旅をする上でめちゃくちゃお世話になった魔法である。かなり高度な魔力制御を要求する魔法だが、今の俺なら出来そうだ。


 一人になれる場所を探し、建物の影に入った。時空属性は隠してるから見られるわけにはいかない。


「ここなら大丈夫そうだな」


 辺りを見回して人がいないことを確認して、魔法を発動する。すると……


――バチンッ


「ん、失敗したか?」


 いや、間違いなく発動は成功している。となると、転移封じの結界に阻まれたか?


 って、当たり前か。あんだけお金かけてたら普通は付ける。セキュリティ万全って言ってたしな。


「しゃあない、普通に帰るか」


 転移魔法の使用は諦めて、徒歩で帰路についた。






 ☆★☆★☆






 マグノリア魔法大学敷地内、先程までヴェールがいた建物の影に2人の人物が現れた。


「……何か魔法を発動してた」

「そうなのか?」


 片方は背の低い猫族の男、もう片方は口元を布で覆ったエルフ族の女である。彼らは元老院第二席――ルダーノ・フォン・グラジオラス小飼いのエージェントだ。


「相変わらず目がいいなお前は……あんなに遠かったのに。しかも虚無属性波動だろ?普通見えないって」

「もっと褒めてくれ。気分がいい」

「そういうところがなければ素直に褒めてやるのに……」


 猫族の男は褒められるのが大好きだった。


「それで、何の魔法だったんだ?」

「……分からん」

「まあそうだよな」


 虚無属性の本質は“破魔“と“力の操作“だ。そしてそれらは体外に出辛いという性質を持つ。故に波動を目視出来ても、何の魔法を使用したかまでは分からない場合が多い。


「なんて報告すれば褒めてもらえるかな?」

「いや流石に手柄が少なすぎるだろう。いつも通り、もう少し情報を集めてから報告するのはどうだ?」

「採用」


 彼らは優秀である。その諜報能力は元老院の者ですら褒め称える程だ。……ただし、これは手柄を大きくしたいがために、報告が遅くなるという欠点を除いた話である。


「報告が楽しみだ」

「そうだな」


 ふふふと笑い合う2人。彼らはヴェールターゲットが家に帰ったことを確認すると、その場で解散となった。

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