第11話 老人扱いされてる!?

 

「よし」


 サリーさんと案内人さんが去ってから荷物の整理をしていた。まあほぼ亜空間倉庫に直接放り込んだだけだけど。ただクローゼットとか収納スペースが寂しいので、買った服の何着かは仕舞っておいた。


「んー……やっぱこの広さを一人で住むの寂しいよなあ」


 そのうち隣にサリーさん一家が引っ越して来るらしい?ので、そのときはどっぷり入り浸らせてもらおう。


「ん?」


 一息つこうとリビングに戻ってきたら、先程までなかった箱が2つ部屋の隅に積まれていた。


「何だこれ……これは、転移陣?」


 箱を亜空間倉庫に入れて退けてみると、床には先程見たのと同じ転移陣が描かれていた。


「なるほど、配達物も転移で送ってくれるってことか……凄い時代になったもんだ」


 でも今のところはこのマンション限定なのかな?世間には隠してるみたいだし。


 まあそれはいいとして、箱の中身は何だろうか。早速取り出して開封してみる。


「パカッとな!……ああ教材か」


 そういえば忘れていた。役所で小中高の教材くれるって言ってたな。じゃあもう一個の方はどうだろう。


「こっちも教材か……ん?これは、学生証か」


 多分大学で使うやつだな。いつ撮ったのやら、幻惑verの俺の顔写真が貼られたカードが入っていた。


 だがすぐに元の顔に戻ってしまう。魔道具による幻惑を見破ったのだ。


「ふむ……一瞬しか見えなかったけど、確かに若干容姿が変わってたな」


 ただそこまでの変化ではないので、そこそこ似たそっくりさんといった所か。まあそれは置いといて……


「せっかく教材届いたんだし、お勉強といきますか」


 ギュッと、合格と書かれたハチマキを巻いて(一緒に入ってた)気合を入れる。


「まずは歴史からだな」


 一番気になるところだ。この500年で何があったかをキチンと把握したい。


「よし……時間加速魔法、発動!」


 魔法を発動した瞬間、世界が遅く感じるようになった。捲られる教科書のページがゆっくりと動いている。だが俺の体はいつもと同じ速度である。


 自分の時間が、世界の時間に対して速くなっているのだ。


(やっぱ本を読むときはこれだよな)


 本をパラパラ捲りながら宙を浮くページに書かれている内容を、右手から左手に移動するまでに高速で目を動かして読み切る。


「うおおおおお!」


 読む!読む!読む!読むっ!!!


――パタン


 そして本を閉じる音が静かに響いた。


「ふうう……」


 この間約9.8秒である。そして……


「途中の内容が衝撃すぎて、その後の内容が一切頭に入らなかった!」


 あまり魔法を使った意味はなかった。






 ☆★☆★☆






「なるほどな」


 結局要所要所で魔法を使いながら、実際の時間で5分程かけて読み直した。そして肝心の読んだ感想は……


「なんつう所に国作っとんじゃ!」


 である。


 というのもこのマグノリア帝国はブローザ大陸の、かつて前人未到の超危険区域と呼ばれていた凶星の森に位置しているのだ。その危険地帯をレーネル一人で無理矢理開拓しこじあけたらしい。


「アホなの?うんアホだわ」


 だけどまあ理由は合理的ではある。普通のやつはそんな選択しないけどな!無理矢理過ぎるというか脳筋過ぎるというか。


 これがこの教科書読んだ感想だ。内容については時系列順に、重要な所だけピックアップしていこうと思う。


 まず502年前、これが俺が死んだ日だ。そして同年内にヴァルシエ王国が調停者の手によって滅ぼされている。これは役所の職員さんに教えてもらったことだな。


 次に501年前、調和の女神ヴァルディニアが異世界の神と契約し、俺の後継者である金雷の勇者――アヤカ・ツワブキを召喚、その後女神は契約の代償により力を奪われて眠りにつく。今尚目覚めていないとのことだ。


 500年前、アヤカ・ツワブキが本来俺が討伐する予定だった敵――異界の凶星ラプティエルの封印に成功する。この戦闘の余波により次元に穴があき、時々周辺に勇者と同郷の異世界人が転移してくるようになる。


 同年、異世界人の受け皿として街を作るため、封印地周辺を開拓。次年の499年前に始まりの街、旧都マグノリアを完成させる。その街を中心に国興しが始まった。開拓、住人集め、街づくりを繰り返して現在に至る。


 というのが俺が死んだ後に起こった出来事だ。これ以外にも歴史的大事件とかはいくつかあるが、一旦関係ないのでここでは触れないでおく。


 この中で特に重要なのは500年前の出来事だ。


「アヤカ様に足向けて寝れねえな、これは」


 誰?とか生意気なこと言ってすいませんでした俺の尻拭いしてくれて誠にありがとうございます。


 異分子イレギュラーNo.2 異界の凶星ラプティエル、全属性持ちの俺にしか倒せない人型の化け物。俺にしか倒せないのに死んでしまったから、代わりにアヤカが封印してくれたのだ。もう感謝の言葉しか出てこない。


「よし、歴史は大体オッケーだ。残りの50冊、一瞬で終わらせる!」


 3時間後……


「お、終わったあああ」


 思ってた以上に時間がかかった。主に理科、数学、物理、化学のせいである。これらはこの世界にはなかった異世界の学問らしく、理解するのにかなり手こずった。というか、多分まだ全部は理解出来てない。


「教材もらっといて正解だったな……」


 この500年で変わったこと、新しく出来たことはまだまだ沢山あるのだろう。少しずつでもギャップを埋めていかないとな。教科書以外に何かいい方法はないだろうか。


「あ、そういえばスマホでも調べ物が出来るんだっけ」


 確かスマホの操作方法が詳しく書かれてある本を、役所の職員さんに渡された気がする。


「ん〜と、あったあったこれだ」


“Re:シニアから始めるスマホ生活“


 取り出した本のタイトルだった。


(老人扱いされてる!?)


 バカな、こんなピチピチでかわいいヴェールちゃんを老人扱いとは……あいや中身500越えてたわ。


 と、自分がジジイであることを再認識したところで……


「何から調べようかな」


 本を見てスマホを操作しながら、何を調べたいかを考えていた。


 あ、そうだずっと気になってた単語があるじゃないか。


「ろ、り、こ、ん……っと」


 この後眠くなるまでスマホで調べた。






 ☆★☆★☆






「ふわあぁ……結局遅くまで調べ物してしまった」


 スマホというのは罪深き代物だ。まるであの小さな端末から無限に本が湧いてくるかのような、そんな高揚感と依存性を与えてくる。もう二度と手放せないだろう。愛してるぜスマホ。


「着替えるか」


 光属性の洗浄魔法を自分にかけて、のそのそとクローゼットを開け、昨日買ってもらった服に手を伸ばした。


「……ふむ」


 着替え終わった自分を姿見で確認する。


「サリーさんやっぱりセンスいいなあ。ヴェールちゃんに凄く似合ってる」


 ただし、これは見る専用の感想である。自分がこれを着るとなると話は変わる。


「足元心許ねぇ……」


 余りにも無防備、スッカスカ、防御力0である。今まで男としてズボン系しか穿いてこなかったから、余計にそう感じる。


「これ1ヶ月経っても慣れない自信あるわ」


 みんなよくこんな服着て外歩けるよなあ……やはり痴じ――


「おっと、これ以上はいけない。アイアンクローのおかわりは嫌だからな」


 と、こんなことしてる場合ではない。準備出来たんだ、出発しよう。


 玄関の扉を開け、ガチャリと音が鳴る。


「……行ってきます」


 扉が閉まっていき家の中が見えなくなるにつれて、なんとなく寂しさを覚えて、そう言葉が漏れ出た。


 そうか、もうここが自分の家だと認識してしまってるんだな。今まで家なんて持ったことないけど、帰る場所があるってこういう感じなんだ。


「なんか新鮮だな……」

「――なにが?」

「ふぁあっ!?」


 急に声をかけられて後ろを向くとサリーさんがいた。


「さ、サリーさんでしたか、おはようございます……ビックリしちゃいました」

「あはは、おはよう。急に声かけてごめんね。どこかお出かけ?」

「はい、大学に行く予定です。サリーさんは?」

「私は引越し作業中。新しい家具色々買ったから」

「なるほど……え、荷物は?」


 サリーさん手ぶらに見えるけど。辺りを見回してみても、家具らしきものはどこにもない。


「え゛!?ああいやっ!……そう、終わったの!今入れ終わったとこなの!」

「なるほど、そういうことでしたか」

「う、うんそうなの!あごめん用事あるんだったじゃあねヴェールちゃんっ!」

「え、あ、はい」


 もの凄いスピードで家の中に入っていったサリーさん。何かまずいこと言っちゃったかな……?






 ☆★☆★☆






 マンションから外に出てスマホのマップアプリを開く。


(徒歩7分か、近いな)


 アプリには目的地の大学がマークされていて、そこに着くまでの時間が表記されていた。


「って、当たり前か」


 そもそも大学に近いところで家貰ったんだから、近所にあるのは当たり前のことだった。


 なんて考えていると、ふと視界の端を何かが横切った。


「お、あれが車か」


 まあ何度も見てるんだけどな、と自分で自分にツッコミを入れる。ずっと気になってたのだが、質問するタイミングを逃してしまったので、昨夜自分で調べたのだ。


(転移陣はまだ普及してないけど、代わりにあれが移動手段になるわけか……結構スピード出るんだなあ)


 どうやって動いてるかも調べてみたが理解できなかった。だがあれはいいものだ、馬がいらない所が素晴らしい。


「お、あれかな」


 正面に見えてきたのは巨大な門と、その奥にこれまた巨大な時計塔とその周りに建つ建物たちだ。近付いていくと、門に国立マグノリア魔法大学と書かれていたので間違いなさそうだ。


(でっか……)


 正門は遠くから見ても大きいってわかったけど、近くまで来ると予想以上の迫力だった。


「お待ちしておりました、ヴェール・オルト様」


 俺が門に圧倒されていると、横からメガネをかけたスーツ姿の女性に声をかけられた。


「本日案内役を務めさせていただきます、理事長秘書のエリン・ミッシェルです」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る