第7話 やりやがった、マジでやりやがった!
「だいぶ制御出来てきました」
「う、うんソウダネ」
食事後しばらく、力の制御をしっかりと出来るように練習を繰り返した。制御出来ない状態で外なんて出れたものじゃないからな。
練習方法?もちろんトライアンドエラーである。サリーさんが、自分で直せるなら練習してもいいと言ってくれたので、お言葉に甘えさせてもらった。何回ベッドボードさんが亡くなったかは、10回目以降から数えていない。
だが結構早い方だと思う。聞いた話だと急激なレベルアップで同じ症状になった場合、治るのに1週間はかかったらしい。今回俺は30分程度だったので、多分悪魔による謎パワーが炸裂したものと思われる。
「そういえばヴェールちゃん、
「えっ?は、はい!そうなんですよねーあはははは!」
使ったそばから回復してるなんて言ったらどんな反応するんだろうか。気にはなるが、多分このことは誰にも言わないほうがいい。
「な、なんか不安になる反応だなあ……まあいっか。そろそろ行こうか。はい、ヴェールちゃんの服」
サリーさんは俺が昨日着ていたワンピースを俺に差し出した。
「ありがとうございま……」
しかし俺が受け取ろうとしたところでヒョイっと引き戻した。
「……えと、サリーさん?」
そして少しの間だけ俺の方を見て葛藤し、うんと頷いた。
(あれ……この光景、つい30分前にも見たような……?)
「ちょっと待ってて、ヴェールちゃんの服準備してくるから!」
「え、あの!?」
そう言ってサリーさんは部屋を飛び出していった……俺のワンピースを持って。
「え、えええええぇ…………」
なんだろう、猛烈に嫌な予感がする。
☆★☆★☆
「キャーーーーー!カワイイ!やはり私の勘は間違ってなかったわ!サイズもぴったりね!」
まあ案の定というか、嫌な予感は的中した。
部屋に戻ってきたサリーさんの手にワンピースはなく、代わりにお下がりと思われる色んな服を山盛り抱えて持ってきた。
そして止める間もなく、あれよこれよと着せ替え人形にさせられた。
現在姿見に映る俺の容姿は上から、グレーの帽子、ベージュのニット服、そしてかなり短めの赤いスカート。
「キャスケット帽、カーディガンにミニスカ!我ながら完璧なコーデだわ……」
「あ、あああああの!これ短すぎませんか!?」
「普通だと思うけど?」
そうは言うが、女歴2日目の俺がこんな服を着れるような心構えが出来てるはずもない。
「ワンピース、ワンピースがいいです!」
「え、長さ一緒くらいだよ?」
サリーさんは背中からワンピースを取り出し、俺の前にワンピースを当てた。
なんでそんなとこに仕舞ってんだよ。
「ほら」
「ほ、ほんとだ……」
「ね?」
驚愕の事実であった。昨日は着てる服とか考えてる余裕がなかったから、気づいてなかったのか。
「……って!?上の方ちょっと巻き取ってるじゃないですか!?」
「チッ、バレたか」
やっぱりそうだよね!?膝下まではあった気がしてたし……危うく騙されるところだった。
サリーさんは分かってないみたいだからちゃんと教えてあげないと……!
「いいですか、サリーさん」
「な、何かなヴェールちゃん?」
俺はゾッゾ家のお家芸、ズイッを発動した。
「スカート履いて膝出してるやつは…………痴女なんですよ!」
「……ヴェールちゃん、いつの時代の人?」
「ガーン!?」
なん……だと……!?これがカルチャーショック……いや、ジェネレーション……というよりは、イラショック!?(適当に言ってます)
そうだよな、500年も経ってるんだもんな、価値観大変化しててもおかしくないよな。昔は基本足首上のロングばっかりだったのに……そうか、俺は時代に取り残された、悲しきモンスターになってしまったのか。
「そ・れ・と・も」
――ガシッ!
「へ?いた、いたたたたた!?」
サリーさんの右手によるアイアンクローが炸裂した。
(あ、頭が!頭がミシミシいってるううううううう!)
「ヴェールちゃんは、昔この服着てた私が痴女だと……そう言ってるのカナァ?」
「ち、ちがっ、いたたたた!違います失言でしたごめんなさいいいいい!」
違うんですそういう意味で言ったんじゃないんです俺が古の時代に取り残されてるだけなんですううううう!
ていうかさっきからサリーさんの手を引き剥がそうとしているんだが、全然びくともしない。先程の粉砕事件で結構な力を手にしたと思ったのに、まだサリーさんには届かないのか……!?
サリーさん一体何者なんだ……!
「そうですか……では今から被告人、ヴェールちゃんに判決を言い渡します」
裁判!?
「有罪!」
有罪!?
「そして……」
………………ゴクリ
「1ヶ月間、ミニスカの刑に処す!」
「い、いっかげつううううう!?!?む、無理です無理でギャアアアアア!?」
ヤバい音鳴ってる!頭からしちゃいけない音鳴ってるううううう!
――グシャッ
「ヒィッッ!?」
サリーさんは俺の頭を掴んでいないもう片方の手で、リンゴを一瞬で木っ端微塵にした。
ていうかどっから出したのそのリンゴ!?
「ヴェールちゃんもこうはなりたくないよね……?」
「は、はいっ!」
「じゃあ、やるよね?」
「誠心誠意刑を全うさせていただきますっ!」
「…………よろしい」
や、やっと開放された……死ぬかと思った。頭の形歪んでないだろうか。
「取り敢えずこのワンピースは没収します」
「……はい」
「役所で手続き終わったら、お姉さんと一緒にショッピングしようね〜?」
「……はい」
ニガサナイカラネ、という圧を感じた。
大丈夫です、もう逆らう気など微塵もないので……俺の心はポッキリです。(※自業自得です)
嗚呼、あんなに優しかったサリーさんはどこへ行ってしまったんだろう。(※自業自得です)
☆★☆★☆
「こちらの用紙に必要事項をお書きください。何かわからないことや質問等あれば、私にお声がけ下さい」
「……ハッ!?」
ここはどこ?私は痴女?
「じゃあヴェールちゃん、私は外で待ってるから。終わったら教えてね」
「あ、はい」
そうだった、なんか手続きするとかで役所に来てたんだった。
男では感じなかった、下半身の無防備さによるあまりの恥ずかしさで、意識が飛んでしまっていた。ここに来るまでの記憶が曖昧だ。
ここは役所内の個室?そういえば、注目されるからって気を使って中に入れてくれたんだった。
(あ、段々思い出してきた……)
確かサリーさんの家を出て、めちゃくちゃ周りの人に見られて、ずっと下向いて歩いてたんだ。それでサリーさんが……
――恥ずかしがってるから逆に注目されちゃうんだよ。もっと堂々と、胸を張って歩こう!
って言ってた気がする。それで言われた通りに歩いたら、周りの人たちの視線が全部俺の方に向いてることに気付いて、結局恥ずかしくなって、それで……
(そうだ、例の病気が再発したんだ)
でも昨日のに比べたら1000倍は軽かった。というかもはや病気ではなくただドキドキしてただけだわ。
「あの、わからないとこでもありましたか?」
「へ?あ、ああ、すいませんボーッとしてました……大丈夫です」
ペン持ったままじっとしてたから、職員さんに心配されてしまった。早く書いてしまおう。
Q1.あなたのお名前は?
(ヴェール・オルト)
Q2.あなたの性別は?
(女性)
Q3.あなたの肉体の年齢は?※推測でも可
(約13)
Q4.あなたの魂の出身地は?
(うーん……ヴァルシエ王国にするか。聖ヴァルディニア教の総本山、一番悪魔を冷遇していた場所だ。ここなら別大陸出身という俺の設定的にも合うだろう)
Q5.あなたの適性属性は?
(虚無属性)
Q6.教育機関への転入を希望しますか?
(教育機関?学校のことか?)
何のことかよくわからなかったので、質問しようかと、ちらりと職員さんの方を見る。職員さんは俺をじっと見てウズウズしていた。
え、なに?
「質問ですかっ!?何でもお聞きください!」
とても元気な声でそういった。
あ、なるほど、教えたかったのね……。
「えっと、この6個目の質問なんですけ――」
「よくぞ聞いてくれました!全てわかりやすく説明させていただきます!」
職員さんは喋りたくてたまらないのか、食い気味にそう言い、説明してくれた。
「適性属性とは、あなたの使える魔法の属性のことです!」
「……それ一個上の質問です」
「あれ?」
☆★☆★☆
「……というわけです」
「なるほど」
この国には悪魔補助制度なるものが存在し、悪魔は様々な補助を受けることが出来るらしい。その中でも主要なものが3つあり、教育機関への無償入学・住宅1つ無償提供・5年間のベーシックインカムである。
2つ目と3つ目に関してはそのままの意味で、住宅は希望地付近からランダム、ベーシックインカムは月50万と超優遇されている。なんとなく、
そして質問内容だった教育機関への入学だが、この国には小・中・高・大の学校があり、そこにどの学年からでも編入させてくれるらしい。職員さん曰く、この国は他の国に比べて学問がかなり進んでいるらしく、他国から来た悪魔はどこかしらに入学したほうが良いとのこと。
(小学校からやり直しは流石に嫌だよなあ……でも500年もギャップがあるから、知らないことだらけだろうし……)
まあ学校なんてそもそも行ったことないからやり直しもクソもないんだけどね。
でも魔法に関してはそんなに学ぶこともないしなあ。どこかで魔法の研究しながら、この500年で変わったこととか学べたらいいんだけど……一応聞いてみるか。
「魔法の研究……ですか?それならマグノリア魔法大学一択ですね。それと、小中高の教材も提供しますからご安心ください!」
お、おお……手厚いサポート。言ってみるもんだな。
6個目の回答欄に、はいと書いて、続けて回答していく。
Q7.どの教育機関に転入しますか?(Q6ではいと答えた方のみ)
(マグノリア魔法大学)
Q8.住宅の提供を希望しますか?
(もちろんはいだ)
ゾッゾ家で働かせてもらいながらお世話になろうかと考えたが、無料で家貰えるならそっちの方が断然いい。1日だけならいざ知らず、毎日お世話になるのは流石に気が引けるからな。レーネル様さまだ。
Q9.住宅の希望地は?(Q8ではいと答えた方のみ)
(まあ、マグノリア魔法大学付近かな?)
というか、国といい学校といい、自分の名前が付いてるのってなんか恥ずかしいというか、むず痒いな。
Q10.ベーシックインカムの受給を希望しますか?
(はい)
よし、これで終わりかな?
「書き終わりました」
「はい、拝見します。ふむふむ……ブフォっ!?」
書いた書類(というかほぼアンケート用紙)を渡すと、内容を見た職員さんが突然吹き出した。
な、なにか変なことでも書いただろうか……?
「ひ、ひひっ……ヴァルシエ王国って、いひひひ……もうっ、冗談が上手いんですから!」
「へ、冗談?」
え、なにどゆこと?
「だってそうでしょう?ヴァルシエ王国は500年前に調停者様たちが滅ぼした国なんですから!」
「…………え???」
――潰しますか?あの国
あ、あいつうううううううう!!!
やりやがった、マジでやりやがった!真摯な説得で交渉するんじゃなかったのかよ!?真っ赤な嘘じゃねぇか!?
悪魔補助制度考えたり、ちゃんと国を運営してるんだな、ってちょっと感動したのに!俺の感動を返せ!!!
「ひひ、あ~笑った笑った。あ、でももうこんなこと書いたらダメですよ?最悪不敬罪ですからね」
「え……そうなんですか?」
「そりゃそうですよ。私は皇帝陛下を殺した国の住人です、って言ってるようなものですからね」
「…………へ???」
俺を……殺した?いや確かに俺が死んだダンジョンはヴァルシエ王国にあったものだけど。
「あれ、もしかして知らないんですか?旧聖ヴァルディニア教の教祖がダンジョンに魂抜くトラップ仕掛けて殺しちゃったんですよ」
「ファッ!?」
え、俺教祖に殺されたの!?いや確かに恨まれる要素ありまくりだったとは思うけど。
でも本当なら、レーネルたちの行動も納得だ。……いや、敵討ちじゃなくてもあいつはやるわ。あの国の国民大体やなやつばっかりだったし。
「それで犯人の教祖はヴァルディニア様の神罰で灰になり、国も調停者様たちにより粉々になりました」
「……ソウナンデスネ」
「というわけなので、今のヴァルシエ王国の領地はお隣のカリアウス王国のものとなってますね。出身地はそちらに変えておきますね」
「ハイ、オネガイシマス」
なんか、今日と昨日で一生分驚いた気がする。
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