第8話 多分違う人です、それ

 

――カタカタカタ、ッターン!


「よし、登録終わりました!」

「ありがとうございます?」


 職員さんは何やらノート型の硬そうな端末を操作していた。登録したと言っていたが、よくわからなかったので適当にお礼しておいた。


「では最後にこちらを支給します」

「これは……?」


 机の上には、四角い手のひらサイズの端末に、職員さんが今使っていたノート型の端末、それからピアス、ペンダント、指輪のアクセサリーが置かれていた。


 手のひらサイズの端末には見覚えがあった。


(これは……確かサリーさんと野次馬の人たちが持ってたやつだ)


 そういえばここに来る途中でも、すれ違う人たちが持っていたような……?基本下向いてたせいで確実とは言えないが。


「こちらからスマホ、ノートパソコン、尻尾を隠す用の魔道具です」


 すまほ……?ぱそ……?何?


 最後しか理解できなかった。


「マグノリア帝国が誇る技術の結晶たちです。順番に説明していきますね」


 カクカクシカジカマルマルウマウマ……


「す、すごい……!?」

「フッフッフ、我が国の魅力を知っていただけたようで何よりです」


 わかってはいたが、500年というブランクは相当大きいものだったようだ。


「まあ第七席様の国にあったものを真似ただけですけどね」

「な、なるほど。異世界の技術でしたか……」


 どうりでえげつない発展の仕方をしているわけだ。


「あとは魔道具ですね……と、その前に」

「なんですかそれ?」


 職員さんが取り出したのはモノクル型の端末だった。


「ス○ウターです」

「……?」


 なんか謎のノイズでよく聞こえなかった。……まあいいか。


「これは対象の魔力容量せんとうりょくを0から53万までの数字で評価してくれる優れものです!」


 ん?当て字違くない?


「は、はあ……なんでそんな中途半端な数字?」

「製作者が言うには、やんごとなき御方の魔力容量せんとうりょくを超えるなんてとんでもない、とのことです。恐らく皇帝陛下のことかと」


 よくわからんけど多分違う人です、それ。


「ふむふむ……おおおおお!」

「……どうでした?」

「3万5000です!なかなか高いですよ、この数字は!」

「そ、そうなんですか?」

「はい、一般的な魔法使いの平均は8000程ですから。ちなみに第一席様は35万だそうです」


 10分の1!?それだけかあ……魔力容量キャパシティーは頑張っても伸びないからなあ。……いや?極大魔法が使えないくらいで別に関係ないのか。魔力すぐ回復するし。


「これだけあるなら、指輪型でも問題ないですね」

「それぞれで性能が違うんですか?」

「はい、そのとおりです。指輪型は1時間で1000くらい魔力を消費します。その代わり幻惑効果が強力かつ、全体の容姿も軽くジャミングされます。元の姿を知ってる人でも、ちょっと似てるなー、ぐらいの反応になります。ただし声でバレるので注意です」


 おお〜、高性能だな。こんな魔道具が昔にあればよかったんだがなあ。


「逆にペンダント型は1時間で50消費と低燃費な代わりに、そこまで効果は強くありません。あと回路が複雑で大きいので地味に重たいです。まあ、こんなものでもほとんどの人にはバレません。ピアス型は他2つの中間ですね」


 ほとんどの人にはバレないというのはよく理解出来る。幻惑魔法は使う側の技量と、使われる側の幻惑耐性でバレるかバレないかが決まるからだ。耐性は完全に慣れ、どれだけ幻惑魔法を見破ってきたかで変わる。なので、耐性には魔力制御とかは関係ないのだ。


 この耐性は意図的に訓練しないと伸びない。幻惑慣れしてない人が幻惑魔法に気づくには、今から幻惑魔法を見破ってやるぞ!という気にならなければいけないからだ。普通に生活しててそんな考えに至る人はなかなかいない。


 それに時空、幻惑、虚無といった上位属性はそもそも数が少ない。それぞれ0.5%くらいといったところだ。さらにこの上位属性の2属性持ちダブルとなると、とんでもない確率である。サリーさんが俺のことを珍しいと驚いていたのはそういう理由だ。


 なので、適性属性が幻惑の人物に出会う確率自体がそもそも低い。そのため、普段から見破ってやるなんて意気込みを持つやつなど滅多にいないのである。


「ではこちらをどうぞ。波動が出る方の手の指に嵌めると効果が高まりますよ」

「ありがとうございます」


 職員さんから指輪型の魔道具を受け取り、早速右手中指に嵌める。すると……


――カチン


(ん?なんの音だ?)


 金属同士がぶつかる音か?指輪をよく見てみる。特に複雑な構造はしておらず、これ単体で音が鳴るとは思えなかった。


 ……まあいいか。


 なんだかもやもやするが、一先ず置いておくことにした。


「おお、実際に見てみると凄いですね、他人にしか見えません。尻尾も完全に見えませんね」

「自分では効果がわからないので助かります」


 鏡を見れば分かりはするが、俺だと一瞬で見破ってしまうだろう。幻惑神ジジイにバカみたいに鍛えられてるからな……。


 あれ、そういえば……と、ふと疑問に思ったことを口にした。


「なんで尻尾を隠す必要が?この国は悪魔に優しいんですよね?」

「あ~その〜……優しいんだけど、ちょっと行き過ぎてるというか……熱狂的というか」

「ああ……」

「第一席様に憧れてる人多いんですよね……私もそうですし。なのでたまに、たま〜にストーカーされたりしてたみたいです」

「oh……」






――大丈夫だぜ、ここには嬢ちゃんの敵はいねぇからよ。……まあこれから別の意味で大変かもしれんが






 あ、そういえばガロアさんがこう言ってたな。そういう意味だったのか。


「まあその指輪を付けてる限りバレる心配はしなくて大丈夫です。バレるとしても元老院の方々ぐらいでしょうから」

「ありがとうございます、こんな貴重なものまでいただいて」


 これだけ強力な魔道具となると、相当お高いのだろう。


「いえいえ、あくまで補助制度の一貫ですから……悪魔だけに」


 職員さんは最後にそう付け加えて、いひひと笑った。ちょっと不気味なんだよなその笑い方。






 ☆★☆★☆






「サリーさん、お待たせしました」

「――というわけなんで、もう切りますからね?今から忙しくなるので。また3日後に連絡します……はい」


 個室を出ると、サリーさんはスマホを耳に当て、何やら話していた。なるほど、ああやって通話するのか。


「おかえりヴェー……あれ?」

「どうかしましたか?」

「ん?あ、ああ!幻惑魔法か!声聞くまで誰か分からなかったよ……」

「あ、そうでした」


 部屋を出る前に付けたばっかりなのにもう忘れてた。


「って!?なんで幻惑魔法まで使えるの!?流石にそれはスルー出来ないよ!?」

「ち、違います!魔道具です!」

「あ、ああ、なんだそういうことか……もう少しで上位属性コンプリートクレイジーちゃんって呼ぶところだったよ」


 いや、ネーミングセンスよ……。


「それより、何か用事あったんじゃないですか?」

「ん?ああさっきの電話のこと?なら大丈夫だよ、そんなに大事な用事じゃないし。そ・れ・よ・り……ヴェールちゃんを着せ替え人……もといお洋服を買いに行こう!」


 今着せ替え人形って言おうとしたよな……?


「さてさて、ヴェールちゃんをどんな痴女に仕立て上げてやろうか……いや〜、楽しみだな~!」

「あー!もうたくさん謝ったじゃないですか!許してくださいよ〜」


 めちゃくちゃ根に持たれてる!(※自業自得です)


「ダーメ!刑期満了するまで絶対許さないからね!」

「うぐぅ」

「ミニスカは恥ずかしくないの、おしゃれアイテムなの。そもそもその認識を改めてもらわないと!」

「ぜ、善処します……」


 このあとめちゃくちゃ連れ回された。

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