第9話 お買い上げありがとうございます!


「いや〜、さっきまでお昼だったのに、もう夕方になっちゃったねぇ」

「は、ははは……」


 つ、疲れたあああ……女性の買い物が長いのは、時代が変わっても共通なんだな。


 ショッピングモールで昼から服屋に3時間、下着屋に1時間、靴屋に1時間という内訳になっていた。色んな店であれこれ着せ替えさせられ、もうヘトヘトである。


 ちなみに指輪をつけていたおかげか、視線の数は減っていた気がする。やっぱりこの国で悪魔って人気なんだな、と痛感した。


 買ったものは大量で、俺とサリーさんの両手は買い物袋で埋まっている。ちなみに下半身は全てスカートだが、膝上10cm以内を死守した。サリーさんがたまに際どいの持ってきたときは全力で拒否させていただいた。それはもう泣き喚く勢いで。


「今日はお金ありがとうございます、今度返しますね」

「え?いいっていいって、それに結構高いよ?」

「なんか毎月50万貰えるらしいので大丈夫ですよ」

「え゛!?」


 値札見てた限り、今日だけで30万くらい使ってたはずだ。流石に会ってまだ1日なのに、そんな大金奢られる訳にはいかない。俺の良心が痛む。


「流石悪魔の国……」

「なので心配いりませんよ、ちゃんと返しますから」

「ああいや定期収入額にはビックリしたけど、私も結構稼いでるからね、お姉さんに安心して奢られなさい!」

「えっ……稼いでるって、サリーさん居酒屋の従業員ですよね……?」

「そっちはあくまでお父さんのお手伝い、本業は別なの」

「そうだったんですか!?本業はなにを……?」

「ん〜、それはヴェールちゃんには秘密」

「そうですか、残念です」


 まあそう簡単には教えてくれないよな。


「まあヴェールちゃんどころか、家族にすら言ってないけどね!」

「え!?」


 家族にも言ってないの!?


「ふっふっふ、お姉さんこう見えてお金持ちなのだよ。家族内の収入は私>お母さん>>>お父さんなのだ!」

「は、はあ」


 ホントかなあ……?てかサリーさんまだ20歳なってないんじゃない?見た目的に。そんなに稼いでるようには見えないが。


「あ、信じてなさそうな顔をしてるなヴェールちゃん」

「ギクッ」

「いつか私の本業知ったらビックリしすぎて腰抜かしちゃうんだから!覚悟しとけよ〜このこの」


 そう言ってつんつんと俺の頬を突いてくるサリーさん。ちょっと痛い……。


「あ、着きました。ここみたいです」


 役所でもらったスマホのマップアプリが、目的地に着いたことを知らせてくれた。


「「でかっ!?」」


 ショッピングモールから30分ほど歩いてきた場所にあったものは、超巨大な建物だった。悪魔補助制度で貰える住宅が決まったらしいので、早速見に来たのだ。


「お、億ションだ……!」


 おく……?何?


「お待ちしておりました、ヴェール・オルト様」


 中から案内人らしき女性が出てきて、そう声をかけられた。


「お部屋へご案内いたします。良ければお連れの方もどうぞ」

「い、いきます!」

「あれ、サリーさん、店の手伝い大丈夫なんですか?そろそろお店開く時間ですよね?」

「何言ってるのヴェールちゃん、こんなの中見るまで帰れないって!私を生殺しにする気!?」

「そこまで!?」






 ☆★☆★☆






 中に入ると開放感あふれる空間になっていた。


「「ほえ~……」」


 俺とサリーさんはしばらく内装に魅入られて突っ立っていた。


「こちら当マンション――サウスマグノヒルズ自慢のエントランスロビーです。デザイナーは第五席様、ルムルツ・アカンサス様なんですよ」

「え!?」


 サリーさんはめっちゃ驚いてるが、俺は何となくそうなんじゃないかと思っていた。あいつこういうの好きそうだし。ドワーフだし。


「ち、ちなみにここおいくらで……?」


 お値段が気になるサリーさん。


「下は3億です」

「3億!?」

「最上階は17億です」

「じゅっっ!?はへぇ……」


 あ、サリーさんが壊れた。


「何でそんな高額な値段に?」


 気になったので壊れたサリーさんの代わりに聞いてみた。


「もちろん立地や景観、セキュリティ面など一切妥協してないから……といいたいところなんですが」

「……?」

「このマンションは元老院の方々に認められた方でないと購入出来ないんですよね。しかもその審査が結構厳しくて」

「え」

「なのでまだ5分の1しか埋まってないんですよ……築7年なのに」

「な、なるほど?」


 そういえば俺、マンション?の購入の仕組みとか知らないから聞いても分からなかったわ。


「一応補助金は出てるんですけど、この空室率だとまだまだ元が取れず……」

「せ、世知辛いんですね――」

「分かっていただけますかオルト様!」

「は、はい!」


 ごめん分からん。


「あ、着きました。これをお渡ししますね」


 案内の人に渡されたものは一枚のカードだった。


「これは?」

「カードキーです。これに波動を当ててみて下さい」


 波動を?こうか?


 やってみたが特に変化はなかった。


「……?」

「あ、それで大丈夫ですよ。登録出来てます」

「登録?」

「はい、これでそのカードキーを起動できるのはオルト様だけになりました」

「お、おお〜?」


 なるほど分からん。


「早速やってみましょうか、中へどうぞ」


 案内されて中に入ると、そこは少し狭い密室になっていた。一見なにもないように見える。だが、床をよく見ると……。


「こ、これ転移陣ですか!?」

「そのとおりです。ご存知でしたか」


 す、すげえええええ!完成してたのか!


「一応秘匿されている技術なので、御二方共、ご内密にお願いしますね」

「「は、はい!」」


 あ、サリーさん復活した。


「それではオルト様、陣の中央に立ってカードキーに魔力を流して下さい」

「はい」


 言われたとおりにやってみた。すると床の魔法陣が起動し、次の瞬間には景色が変わっていて、密室とは別の場所にいた。


「「おお〜!」」

「さあ、オルト様のお部屋はこちらです」


 転移して右に曲がり、歩いた先にある扉が俺の家らしい。


「扉の鍵も同じ方法で開けれますよ」


 と言われたのでカードキーに波動を当ててみる。すると


――ガチャン


「ど、どういう原理なんですかこれ……?」

「ふふふ、まあ調べたらすぐ分かりますよ。ささ、どうぞ中に」


 扉を開けて玄関に入ると少し長めの廊下になっていた。


「右手にお風呂、左手にトイレと収納スペースですね」


 廊下を歩きながらサクッと何があるかを説明してもらい、奥の扉からリビングに入った。


「こちらがサウスマグノヒルズが誇る絶景を兼ね備えたリビングルームです!」

「「おおおおお!」」


 壁一面透明度の高いガラス窓になっており、そこから覗く景色はまさに絶景だった。夕方ということもあり、茜色に染まる街並みを拝むことができた。


「気に入っていただけましたか?」

「もちろんです!」

「夜になると、また違った街の顔が見れますよ」


 すげえ……これがあいつらが作った街か。めちゃくちゃ大きいな。


(あれ?こんだけ大きかったら、初日の街脱出作戦って超無謀だったのでは……!?)


 なんて今更なことを考えた。まあ結果オーライだし、気にしないでおこう。


「いいなあ、私もここ住みたい!」


 とサリーさん。


(ふむ……)


 ちらりとリビング横の廊下を見る。あっちは多分個室がいくつかあるのだろう。


「6LDKです!」


 俺の様子を見ていた案内人さんが補足説明?をしてくれた。……俺には理解できなかったが。


「1部屋いります?どうせ広すぎて持て余しそうですし」


 というわけで部屋なんて有り余ってるので提案してみた。


「いる――らない!」

「どっち!?」

「いやあ、お言葉に甘えようかと思ったんだけど……せっかくだから家族でここに引っ越そうかなって。普段贅沢とか全然しないからお金も余ってるし」

「は、はあ」


 え、でもサリーさん、最上階の値段17億って聞いて気絶してなかった?


 あ、しかも気絶してたからさっきの審査が厳しい話聞いてない可能性が。


「あのサリーさん、ここ結構審査厳しいらしいですよ……元老院の人たちに認められないとダメって――」

「ああ、それなら多分大丈夫だと思うよ」

「え」


 大丈夫?そうなの?


「お姉さん!最上階一室空いてますか!?」

「あ、空いてますけど……」

「じゃあこれで手続きお願いします!」


 サリーさんは何やらカードを取り出して、案内人のお姉さんに渡した。


「え……ええっ!?!?!?」


 そして驚きの声をあげた。信じられないといった表情でカードとサリーさんの顔を交互に見る案内人さん。


(お姉さんめっちゃ驚いてる……サリーさんホントに何者!?)


 そして……


「お買い上げありがとうございます!」

「はやっ!?」


 審査はどうした!?


「まあ絶対審査通るので、事後報告でも大丈夫でしょう!」

「それは流石に怒られるでしょう……」


 さてはこの人、上客逃したくないだけなんじゃ……?


「さ、さて!それではオルト様、今からここに住んでいただいて大丈夫ですので!さあゾッゾ様、1階でお手続きいたしましょう」

「はい!じゃあヴェールちゃん、また明日も会いに来るね、ばいばい!」


 ぴゅーんと風のように去っていった二人。そして広い部屋に一人ぽつんと立つ俺。


「……買った服でも整理するか」


 そう溢した声が、広すぎるリビングで悲しく響いた。

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