第20話 何してくれとんじゃっ!?!?!?


 キルフは俺の顔面を鷲掴みながら、ノールとクロネ先輩から離れた位置まで連れてきた。そして俺はポイッと地面に捨てられる。


「いてっ!おい、もっと丁重に扱え!」

「うるせえ」


 いててと尻もちをついたお尻をさすって抗議する俺を、そう一蹴するキルフ。


「おい、全部だ」


 そして恐ろしいほどのキレ顔でそう言った。


「へ?な、なに?」

「悪魔になってから今日まで何やってたか全部話せ!」

「はひ!?」


 有無は言わさん、という圧力を感じた。普段から怒りっぽいキルフだが、ここまでキレてる姿を見るのは本当に久しぶりである。


(つっても、話すことなんかほぼないんだが……)


 俺はキルフに、生まれてから今日までの5日間何があったか話した。


〜5分後〜


「……わけがわからん」


 これが、キルフが俺の話を聞いて最初に放った言葉である。


「事実だぞ?誓って嘘は言ってないからな」

「はぁ……仮に事実だったとして、何でお前500年も魂残ってんだよ」

「さあな。まあ多分女神の加護のお陰だとは思ってる。心当たりはそれしかないしな」

「……なるほど」


 キルフは腕を組んで少しの間考え込んだ。


「聞きたいことは3つだな……なんで女に憑依してるのか、なんで波動が虚無属性なのか、なんで悪魔になったことを黙ってたのか」


 キルフは、指を順番に折り曲げて3つ数えながら質問した。俺の答えは……


「前半2つは知らん、俺が聞きたいぐらいだ。黙ってたのはレーネルあいつに玉座に縛られるのが嫌だから。あと柄じゃない。まあ悪かったとは思ってるよ」

「……概ね予想通りの解答だな」


 分かりやすくて悪かったな!


「つか、俺からも質問させろよ。なんでレーネルの暴走を止めなかったんだ!」

「暴走?……多すぎてどれか分からん」


 そう言って首をかしげるキルフ。


「ヴァルシエ王国のことだよ!なに滅ぼしちゃってんの!?」

「ああ、あれか。あれは調停者全員の総意だったぞ」

「はあっ!?正気か!?」


 まさかの全員暴走!?


「なんならヴァルディニア様からゴーサインが出たな」

「なんで!?!?」


 ますます意味がわからん。なんで平和の象徴たる調和の女神が率先して争い起こしてんだよ。


「あー……お前、誰に殺されたか知ってるか?」

「教祖だろ?旧聖ヴァルディニア教の」

「そうだ、簡単に言うと……そいつが“イレギュラーNo.1“だった」

「――っ!?マジで!?……いやでも、それで国丸々滅ぼす必要あったのか?」


 俺がそう問うと、キルフは言いにくそうに理由を話した。


「その……国民全員があいつに洗脳されててな」

「え、てことはまさか殺したのか……?」


 俺の質問に、キルフは至って真面目な顔で答える。


「いや、解除出来なかったから、信仰対象をお前にすり替えて全員この国うちに連れてきた」

「何してくれとんじゃっ!?!?!?」


 え、ホントに何してくれてんの!?バカなの?アホなの?死ぬの?


「本当はヴァルディニア様に変えるつもりだったんだが、向こうもそれを想定してたみたいでな、対策してやがったんだ」

「だからってなんで俺なんだよ!?」

「そりゃお前……あー、故人の方が色々都合いいじゃん?」

「何だその間は。さては何か隠してるな?」

「別に大したことじゃねぇよ。それよりマクス、これからどうするつもりだ?」


 キルフは分かりやすく話題を変えて、はぐらかした。


「どうするって、今まで通りだよ。皇帝なんてやだぞ、さっきの話聞いたら余計にな!普通に街歩けなくなるだろ」


 国民全員が俺の狂信者とか、どんな罰ゲームだ。


「洗脳されてたやつらは寿命でもういないぞ?あとレーネルも大丈夫だ。他人の意見も聞き分けるようになったし」

「信じられるかっ!国民はともかく、あのレーネルだぞ!?ありえねぇよ!」

「あのなぁお前……500年だぞ。そんだけありゃ人は変わる」


 そう力強く言うキルフは、とても嘘をついているようには見えなかった。


 俺はキルフの言う、聞き分けのいいレーネルを頭の中で思い浮かべようとした……がしかし、失敗に終わった。


「……ダメだ、あいつのまともな姿なんて想像できねぇ」

「まあ気持ちは分かる」


 しみじみと頷きながら同意するキルフ。


「……悪いけど、みんなに話すのは無しで頼む」

「お前のために作った国なんだが……?」

「いやいや、皇帝と国民じゃ見る目線が違うだろう?まずは一般国民としてこの国をじっくり堪能させてもらおうじゃないか!まあ俺がレーネルから簡単に逃げられるくらい強くなれたら、みんなに話すのは考えてもいい」

「……はあぁぁぁぁ、分かった。あいつらには黙っといてやる。その代わり――」


 その代わり?


「1つ頼みがある」






 ☆★☆★☆






「ただいま戻りました……」


 キルフと別れ、ノールとクロネ先輩がいた場所に戻ってきた。


「――っ!?」

「……あ、おかえり……です?マクス陛下?」


 ノールは直立不動で、先輩は不慣れな敬語を使おうとしていた。


「やめてください気持ち悪い、いつも通りでいいですよ。あと呼び方も」

「……分かった」


 先輩はホッと胸を撫で下ろした。


「ノールさん、先輩、さっき聞いたことは内緒にしててもらえますか?」

「――っ!――っ!」

「……うん」


 ノールは激しく頭を縦に振り、クロネ先輩の返事は簡素だった。この2人なら大丈夫そうだな。


「ありがとうございます。じゃあ予定が狂っちゃいましたが、狩りの続きでもしますか?」


 そう2人に提案した。


「す、すいません!私は用事を思い出したのでこれで失礼しますっ!」

「ありゃ、そうですか、分かりま――ってはやっ!?」


 ノールは用事があると言って、俺の言葉を待たずに転移した。


「……ノール、ヴェールが連れてかれてからおかしくなってた」

「え、そうなんですか?」

「……うん、なんかアイアンクローアイアンクローってブツブツ連呼してた」


 ん、アイアンクロー?何かトラウマでもあるのかな?


「まあいいか、先輩はどうします?」

「……うーん、まだ早いけど疲れたし帰ろう」

「了解です」


 初めての狩りだったこともありクロネ先輩がそう言うので、まだ昼過ぎだが早々に切り上げることにした。


「では、はい」

「……なに?」


 俺が手を差し出すと、不思議そうな顔をするクロネ先輩。


「なにって、転移魔法ですよ」

「……バレたくないのに使うの?」

「幻惑魔法も一緒に使うのでバレませんよ」

「……なるほど。全属性って便利だね」


 そう、正体がバレてしまったので、先輩の前では他の属性使いたい放題なのである。


 というわけでクロネ先輩の手を握り、アカシア冒険者協会ビルの近くにある物陰に転移し、周りに人がいないことを確認してから幻惑魔法による透明化を解除する。


「……おぉ、一瞬」

「……?」


 先輩が一発で戻ってこれたことに感心していたが、俺はそれどころではなかった。


「……ん、どうかした?」


 また魔力制御が上手くなってる。しかも激的に。多分ノールより上だと思う。……ホントにどうなってんだこの体は。


「あっ」


 そして気付く。


(動悸か!)


 初日も今回も、動悸が起きてから魔力制御が上達していることに。


「……ヴェール?」

「あ、すいませんちょっと考え事してました」


 上達理由はまだ分からないが、きっかけが動悸であることはほぼ確実だ。それが分かっただけでも大きな収穫と言えるだろう。


「さっさと報告済ませて帰りましょうか」

「……うん」


 俺たちはビル内のカウンターで依頼達成の報告をして、2万3900の報酬を振り込んでもらった。内訳は、依頼だったフォレストウルフの毛皮1枚で2万、その魔石で3800、スライムの死骸で100である。


 報告を終えて、ビルから出たところでグゥと先輩のお腹が鳴った。


「……お腹空いた」

「そういえばお昼食べるタイミング、完全に逃しましたね」


 あいつキルフのせいで。


「そうだ、折角ですし用意してた昼食じゃなくて、どこかお店で食べませんか?」

「……え、いいの?」

「食費は私が出すって言ったでしょう?初依頼成功記念です。先輩が行きたいところでいいですよ」

「じゃっ、じゃあここ!」


 クロネ先輩は少し興奮しながら、スマホの画面を見せてきた。画面には美味しそうなケーキが映っていた。


「え、ケーキ屋さんですか?」


 どんな高級店でもバッチコーイと身構えていたら、予想の斜め上のチョイスだった。


「この時間ならランチもやってるから、今から行けばギリ間に合う!」


 一度行ってみたかった、と語る先輩。甘いものはあまり好みではないが、先輩が凄く嬉しそうなので俺たちはその店に行くことにした。

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