第13話 俺のこれからの人生はバラ色だ
「ハッ!?」
ここはどこ?私は誰?……いや、ここは俺の家で私は俺だ。
「なんか凄く怖い夢を見てた気がする……」
俺何してたんだっけ?確か朝起きて着替えてサリーさんに会って、それから……
――ゾクッ
「ヒッ」
そ、そうだアイツだ!大学行って理事長室に呼ばれたと思ったらアイツに会ったんだ。
「何でアイツが大学の理事長なんかやってんだよっ!」
意味がわからん。お前元老院だろ、国の重鎮だろ!?普段顔出さないって教科書に書いてたじゃん!俺を騙したなっ!?
「いや待てよ?」
普段顔出さないから逆に暇ってことですか!?ふざけんなだったら大学の理事長じゃなくてもっと別のことやってろよ!
「はあ……大学行きたくねぇ」
……って、そうじゃん行かなきゃいいんだ。補助制度で無料で学ばせてもらえるだけで、強制ではない。卒業出来れば職に困らなくて、ベーシックインカムに頼らず生計を立てられるというメリットはある。だけどぶっちゃけ興味ないし、幸い冒険者の適性があるらしいからお金に関しては大丈夫だろう。
「そうだ、冒険者になればいいんだ」
大学の個人研究室(貰った)や魔法を学べる環境を手放すのは勿体ないが、背に腹は代えられない。アイツに会う可能性に怯えながら通い続けたら、間違いなく精神崩壊する。
「あ、なんだろう……気分が楽になってきた」
思考は完全に逃避のそれだが、今後アイツに会わなくていいと考えると段々沈んだ気分が晴れてきた。
「しかし、気付けてよかったな。あのまま気付かずにいたら……」
そう思うとブルリと体が震え、鳥肌が立った。
「ルダーノのやつ、500年経っても
突如として俺を襲う違和感。何だこの違和感は……俺は何かを見逃している?
落ち着け、一旦整理しよう。
ルダーノが
「――って、俺今女じゃん!?」
そして気付く。今の俺が、アイツの苦手な女であることに。
「〜〜〜〜〜〜〜っしゃあああああああああああああああああああ!!!!!」
そして吠えた、あまりの嬉しさに。
「っしゃ!おっしゃあ!もうアイツは俺に近付けないんだ!もうアイツに怯えなくていいんだ!もうアイツにけ○あな狙われなくて済むんだっ!!!」
嬉しい、嬉しすぎる。もう俺はトラウマに縛られずに生きていけるんだ!
「ありがとうヴェールちゃん!俺を女にしてくれてありがとうっ!ありがとおおおおおお!」
性別が変わった?空色の波動が無くなった?体が小さくなった?スカートが恥ずかしい?そんな些細な問題はもはやどうでもいい。トラウマが解消された、その一点だけで女になったことを心から感謝した。
「最高だ……俺のこれからの人生はバラ色だ」
以前アイツに襲われかけてから、あの夜がトラウマになってしまったのだ。それ以降宿に泊まるときは、キルフかルムルツに相部屋になってもらい、また旅の途中は俺の近くに女のレーネルがついてもらって、アイツから守ってもらっていた。
だから今日、アイツとあの日以来初めて2人きりになり、思考が襲われてしまうという恐怖で埋め尽くされてしまったのだ。だがその恐怖ももう終わりである。何故ならアイツは女である俺を触れないから!それさえ理解出来ていればアイツなど怖くない。ルダーノ、恐るるに足らず!
「ふはは、ふははははははははは!」
素晴らしすぎて笑いが止まらない。そして気付く。
「ハッ!?てことは大学も行っていいじゃん!」
さっきは逃げ帰ったけど、まだ昼過ぎだしもう一度行ってみようかな。ミッシェルさんに紹介してもらったとこで気になる場所もあったし。
☆★☆★☆
というわけで着きましたマグノリア魔法大学。流石徒歩7分、あっという間である。
一応人はちらほらといるが、今は休み期間中で少ない。来週から講義が始まるみたいなので、そのときには沢山増えるだろうとのこと。俺もそこから参加出来るみたいだ。
「しっかし広いなあ〜」
まあ半分近くは研究棟らしいので、普段使う建物はそんなに多くはないかもしれない。
改めて大学の様子や雰囲気を確認しながら目的地に到着する。
「でけぇ……」
麓から見るとその大きさをより実感できる。
時計塔である。まあ用事があるのはその下にある図書館だが。
中に入ると、見覚えのあるスタッフさんがこちらに気付いて話しかけてくれた。
「オルト様、先程ぶりですね。早速来ていただけて嬉しいです」
「こんにちは。気になって来ちゃいました」
ミッシェルさんがここに案内してくれた時に対応してくれた人である。
「オルト様、これをどうぞ」
スタッフさんは俺に1枚のカードを手渡した。
「これってもしかしてさっき言ってたやつですか?」
「はい、禁書庫のカードキーです。悪魔コーナーだけですけどね」
悪魔関連の研究で、一般には公開できないけど悪魔本人になら開示してもいいかな?的な研究結果や論文がそこに保管されてるらしい。その保管庫に入れる鍵がこのカードキーだ。
サリーさんは悪魔の研究は全部公開されてるって言ってたけど、やっぱりヤバいのは意図的に隠してるんだな。まあ当たり前か。
「ではこちらに波動を当ててください」
「分かりました」
言われた通り、カードキーに波動を当てる。うちのマンションのカードキーと同じやつなのかな?あのあと原理について調べてみたが、全然理解出来なくて諦めたんだよな。
「オーケーですね。失くしたら私に教えて下さい、再発行致しますので」
「ありがとうございます、早速行ってみます」
「はい、ごゆっくり」
失礼します、と別れを告げて近くの階段から上の階に上っていく。
「確か8階って言ってたな」
ていうか1階でこの広さなのに、8階まであるのか。いや、外見からしてもう少しあるかも?とにかく凄い蔵書量だな。
「ここかな?」
8階まで上がり、Ⅷ-Ⅲと書かれたネームプレートが付いた部屋の前に辿り着いた。多分蔵書の内容がパッと見で分からないように、このような部屋の名前にしてるんだろう。
「お邪魔しま~す……」
開け方は家と一緒のようで、カードキーに波動を当てながらドアノブに手をかけることで扉が開く。
中はそこまで広くなく、書架が壁のを含めて7列だけ配置されていた。保管されてる本のタイトルを眺めながら気になるものがないか探していく。
「す~……す~……」
「ん?」
なんだ?寝息みたいなのが聞こえた気がする。探してみると、部屋の隅に机と椅子が置いてあり、その席に一人の女の子が伏して寝ていた。
(耳が長い……エルフ?この部屋の管理人的な人かな?)
そう考えたが、すぐに違うと分かった。
(あ、尻尾)
くねくねと動いている尻尾が、この女の子がただのエルフではなく、悪魔であることを告げていた。
(てことは先客か。起こさないように気を付けよう)
500年前は悪魔に会うことなんて数える程度だったけど、この国だとそう珍しいことじゃないのかもな。
取り敢えず本探しを再開しよう。まずは彼女の後ろ側にある棚から見ていこう。
と、蔵書の背表紙を眺めていたところ……突如、背後で寝ていた彼女がムクリと起きた。
「……ハッ!?マズい寝てた、今何時」
(あ、起きた)
「14時半……やばっ!?あと30分、ランキングは!?……ああああぁ〜、終わっ、た」
ガックリと項垂れるエルフの悪魔ちゃん。ランキングとは……?
「トップ独走してたのに、最後の最後で油断した……来月でベーシックインカム切れるからもう課金出来ないのにぃ」
(あ、ベーシックインカム無くなって苦しむ人ここにいた)
やっぱいるよね。だって5年も毎月50万貰ってたのに急に無くなるんだもん。まあ
ていうか改めて思ったけど、この制度バランス悪すぎない?5年の合計が3000万なのに住居は17億って……もうちょい給料にまわしてやれよ。
「ぐぬぬぬぬ……うわっ!?」
――バターン!
後ろに背伸びしすぎて、椅子ごと倒れてしまったエルフの悪魔ちゃん。
(あ、パンツ見えた)
倒れた彼女は、人には言えないような態勢になっていた。
「……しろ?」
彼女は俺の足元でそう呟いた。
(ん?しろ、ってなんだ?……白色?)
そして気付く。
(あ、俺もパンツ見られてんじゃん)
そう、スカートは下からの攻撃に弱い。そのことを元男である俺は完全に失念していた。だが不思議と恥ずかしいという感情は湧かなかった。相手が女性だからかも?
まあもし今の姿で男に見られたら、恥ずかしいとか関係なしに、ヴェールちゃんの名誉のために一発グーパンをお見舞いしてやらないといけないが……そんなことならないように、今後は気を付けないとな。
取り敢えずこのまま見られ続けるわけにもいかないので、一歩下がってから声をかける。
「あの……大丈夫ですか?」
「へ……?――人っ!?」
声をかけると彼女は起き上がり、机からペンダントを取って首にかけ、隈の付いた目でこちらを警戒していた。
(あ、かわいい……)
桃色のミディアムヘアーは床に倒れたせいか、ぐちゃぐちゃになっていた。背は俺より10くらい上かな?ダボッとしたパーカーとスカートを着ていて、あまり着飾っていない印象だ。
「……見た?」
こちらを警戒しながら、そう聞いてくる彼女。正直に見たと言うべきか……?
「あー、まあ……その」
「……見たんだ」
「……はい」
俺の答えを聞いて、はあ、と溜め息を付いた彼女は、急に床に膝を立てて平伏した。土下座である。
「お願い、今見たこと誰にも言わないで」
「え、ちょ!?」
そんなに見られるの嫌だったのか。何かフォローしといたほうがいいかな?
「取り敢えず土下座やめません?」
「うん」
スタッと立ち上がる彼女は、不安そうにこちらをチラチラと見ていた。うん、ちゃんとフォローして安心させてあげよう。
「大丈夫です、誰にも言いませんから」
「……分かった、ありがとう」
誰にも言わないことを伝え、彼女はお礼を言ったが、表情は暗いままだった。
うーん、やっぱり信用できないよな。もう少し踏み込んで言ったほうがよさそうだ。
「大丈夫ですよ。自信持ってください」
「うん……うん?自信?」
彼女の両肩を掴み、彼女の目を見て力強く、説得力を持たせて言葉にする。
「私は好きですよ、縞々」
「…………???」
あれ、おかしい。これで彼女の表情が晴れると思ったのに。彼女は、何言ってんだコイツ?みたいな顔をしていた。
「――っ!?」
そしてスカートを押さえ、顔が一気に赤面した。彼女は告げる。
「パンツの話じゃないっ!」
「え」
違うの?
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