第17話 大丈夫だ、問題ない
「……はい?」
そんな装備で……?自分の着ている服を見てみる。
サリーさんの買ってくれた洋服、ミニスカ、靴である。見た目は完全に冒険者ナメてるとしか言いようがない。以前の装備はサイズ合わないから、着れる服は買ってもらったものだけだったのだ。
だがもちろん無策ではない。気休めではあるが昨日の内に光属性の結界魔法を付与しておいたのだ。今の俺の実力だと通用するのはBランクの魔物までだろうが、Dランク相手ならまず傷付けられることはない。
だから心配する必要はないと、ノール・グリーズにしっかりと伝えなければいけない。
「大丈夫だ、問題ない」
「そんなわけ無いでしょっ!?!?」
即座に否定された。
あれぇ……分かってもらえなかったようだ。後ろにいるクロネ先輩は「……死亡フラグ立ったな」と口を抑えて笑っていた。いや意味わからん。
「あ……ゴホンッ、そんなわけ無いだろう?せめてミニスカートはやめたほうがいい。森の中で素足を晒すのは危険だ。木の枝なんかで引っ掻かれるし、ウルフ系の魔物が一番噛み付いてくる場所だ」
おお、めっちゃ親切だなこの人。勝手にEXランクの人はやべーやつばっかりなイメージだったけど……でもすまないノールさん。
「忠告はありがたいですが、それは出来ません」
「……何故だ?」
当然理由を聞かれた。サリーさんとの
「これは――呪いなんです」
「…………ん?」
そう言うと彼女は何いってんだコイツといった顔をしていた。ヘルメットで見えないので想像だが。
「話せば長くなるんですが……ちょっと悪しき魔物を呼び起こしてしまいましてね。そのときに呪いを受けたんです。そう、ミニスカしか履けない呪いを!」
「……悪しき、魔物?」
「ええ、間違いなく凶悪な魔物でした……人のココロなんて微塵もない、史上最悪の魔物です!」
「――っ!?そ……そうかっ…………ココロ……史上……!」
やばっ、めっちゃ怒ってる!?
俺が話を盛りすぎて適当なことを言ったからか、彼女から漏れる機械質な声は怒気を孕んでいた。
「あ、あの……?」
「ふぅ……君の事情は分かった」
よ、よかった。許されたようだ。
「だが危険なことには変わりない。そこでどうだろう、今日一日私が指導者として同行するというのは。君たち今日が初めてなんだろう?」
ノールはそう提案してきた。
「え、そこまでして頂かなくても――」
「私のことなら大丈夫だ!遠慮は必要ない!」
俺がやんわり断ろうかと考えていると、ノールは食い気味にそう答えた。
めっちゃグイグイくるな!?まあEXランクの人に付いてもらえるなら安心だが……周りの人たちも「いいなあ」と欲望の声をあげていた。だがそこに待ったをかける人物がいた。
「グ、グリーズ様それは困ります!」
と、話を聞いていた受付さんが声を荒げる。
「ただでさえ3日も依頼を引き伸ばして――」
「アイリちゃんストップ」
「ひゃあっ!?し、支部長!?」
カウンターの奥から出てきて、受付(アイリ)さんを止める支部長と呼ばれた男性。支部長さんはノールに一枚のメモを渡した。
「グリーズ様、こちらを」
手渡されたメモを読み、ノールは頷いた。
「……把握した」
「こちらから依頼していたにもかかわらず、申し訳ございません」
「いや、いい。お前も話を聞いていたんだろう?むしろ好都合だ」
「そう言っていただけると助かります。……失礼します」
用事は済んだと戻っていく支部長。そんなノールと支部長のやり取りに、受付さんはハテナマークを浮かべていた。
「さて、私が受ける依頼もキャンセルされたことだし、どうだろうか。私の提案、受け入れてもらえるかな?」
なるほど、さっきのやり取りはそういう内容だったのか。
クロネ先輩の方を向く。
「……ヴェールに任せる」
そうか、なら答えは一択だ。
「分かりました、是非お願いします」
「ああ、では早速行こうか」
こうして心優しきEXランクの同行が決まった。
☆★☆★☆
ノールのバイク(サイドカー)に乗せてもらって、俺たち3人は森の入口までやってきた。
「そういえば君たちの武器はなんだ?」
武器……?あ、やべ。亜空間倉庫に入れたままだ。
「……私はこれ借りた」
クロネ先輩が背負っていた袋から取り出したのはスナイパーライフルだった。
「なるほど、
「……使い方教えて」
「ん、試射してないのか?分かった」
ノールはクロネ先輩にスナイパーの使い方を教えた。
(今のうちに武器出しとこう)
ノールがこちらに背を向けてる間に亜空間倉庫を使えることがバレないよう、さっさと出してしまう。
俺の武器は細剣だ。余程の窮地にならない限り虚無属性魔法しか使わない予定なので、この武器を選択した。
虚無属性魔法は自分の魔力支配領域を出た瞬間、伝播することなく霧散する性質がある。だがその霧散した瞬間の魔法を相手の魔法に当てると、制御が掻き乱されて相手の魔法も霧散する。これが虚無属性における破魔の性質である。
この破魔を有効的に活用するため、魔力支配領域を広げるという手段がある。それがこの細剣だ。この武器は、装備者の体の一部のように魔力を流すことが出来るレア素材で作られている。つまり、この武器に魔力を通している間は、この武器の長さ分だけ魔力支配領域が広がるというわけだ。ちなみに魔力支配領域は、流れる魔力から半径約5cm以内の空間である。
とはいっても、お前剣なんて使えるの?って話だが安心してほしい。前世で魔法だけで戦うようになったのはだいぶ後半の話で、元々は剣も魔法も体術も使う万能スタイルだったのだ。ブランクは大きいが、昨日確認した感じ、全然戦える範囲内だった。
――バァン!
突然近くから耳をつんざくような音がした。スナイパーの発砲音だ。
「……おおおおお」
先輩は初めての銃に感動していた。そして俺もである。動画で見てたから知ってたけど、実際に見ると迫力が違うな。
(あれ、そういえばノールさんはどこに……?)
消えたノールを探していると、突然クロネ先輩の近くに現れた。
(ああそっか、転移魔法か)
転移魔法で少しの間どこかに行っていたようだ。
「400m先で誤差20cmといったところだな。初めてにしては上出来だ」
「……ありがとう」
なるほど、着弾点に転移して確認してきたんだな。
「森は障害物が多いから、実際は離れても100mくらいだ。そのくらいの距離なら本当はアサルトライフルの方がいいんだが……まあ今後の参考にしてくれ」
「分かった」
おお、アドバイスに説得力があるな。流石EXランク。
「それで、君の武器は?」
ノールはクロネ先輩へのアドバイスを終えて、こちらに話しかけてきた。俺は先程取り出しておいた細剣を見せる。
「これです」
「ほう、剣か……ん?少し見せてもらえるか?」
「え?いいですけど……」
俺はノールに細剣を渡した。
「――こ、これは……ヴァルド=ヘクシルのレプリカか!?しかも驚くほど精巧な造り……君、これをどこで!?」
「え゛!?」
俺の武器、レプリカとか出回ってんの!?武器選びミスったあああああ!どうしよう、本物ですとは流石に言えないし……
「え、ええと……秘密です!」
「……まあ言えないだろうな。無理を言って悪かった」
「い、いえ……」
よかった!乗り切れた。追求されなくて助かった。
ノールは亜空間倉庫から片手剣を取り出して構えた。
「よし、打ってこい」
そう言って、ノールは右手から灰色の波動を放出した。身体強化魔法を使用したのだろう。
「……!?はいっ!」
実力チェックか。俺も細剣を鞘から抜いて構える。
ていうかwikiに書いてた3mの大剣じゃないんだな……って、あれは対魔物用ってことか。対人戦じゃあ使いにくいよな。
試される側だけど、俺もEXランクがどれくらい強いのかをしっかり確かめさせてもらうとしよう。
身体強化魔法を使用して……
「行きますっ!」
「――っ!?」
一気に相手の前まで詰め寄る。10mの距離を僅か0.01秒である。そしてその勢いのまま相手の肩に向けて突きを放つ。だが、その攻撃が届かないことを俺は知っている。
「――くっ!?」
ノールの動きが急に速くなった。時間加速魔法である。
(使うと思ってたぜ!)
刺突が躱されたと同時に、俺も即座に動きを変える。片足を軸にしてその場で回転し……薙ぎ払い!
――カアァン!
「げっ!?」
しかし、ノールは俺の薙ぎ払いが当たる位置には既におらず、一歩引いた位置から薙ぎ払い中の俺の細剣を片手剣で上空に弾き飛ばした。
勝負ありである。
しばらく放心していると、弾き飛ばされた細剣が俺の真後ろに落ちてきて、グサッと地面に刺さった。
(……いやまあ、勝てないことは分かってたんだけどね)
時空、幻惑、虚無の上位属性と武術の相性は最高である。時空属性でスピードを上げ、幻惑属性で剣筋を読ませず、虚無属性でパワーの底上げが出来る。
そして対人戦においては余程の実力差がない限り、相手より多くの上位属性を使えた方が勝つ。時空と虚無の場合が分かりやすいだろう。スピード10倍、パワーも10倍に強化出来るなら、上位属性を使えない同じ実力の者と10×10で100倍の差が生まれるのだ。つまり、虚無属性だけで勝つのはまあ無理である。
「……」
「ノールさん?」
「あ、ああすまん。想像以上に動くものだから驚いた。実力は文句なくSランクだな」
「ありがとうございます」
なるほど、今の俺は虚無属性のみでSあるのか。なら時空属性と幻惑属性も使えば多分EXまでいけそうだ。
(それにしてもノールさんめちゃくちゃ強いな……)
前世の俺の3割は固い。しかもまだ本気じゃ無さそうだったし……もしかしたら5割くらいあるかも。女神の加護無しでこれだけ強いなんてとんでもない化け物だ。
「君へのアドバイスは……そうだな、味方の誤射を防ぐために、敵と密着したら弾き飛ばすといい」
「分かりました」
「まあそのくらいだな。実力も確認出来たし早速行こうか。足元に注意するんだぞ……特に君はね」
「あはは……善処します」
そうノールにお叱りをもらったところで、俺たちは森の中に足を踏み入れた。
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