#045 編集アシスタント*

「うぅ、すいません。お役に立てなくて……」

「いや、あくまで確認だから」


 夜、さっそくカオルに出来る仕事がないか確認する。しかし当然ながら文字起こしなどのタイピングが必要な作業に、イラストや高度な映像編集ソフトも使えない。


「まぁ、お姉ちゃんにそういうのは、向いていないよね。お兄ちゃんの事は私に任せて」

「待ってください! なにか、何かあるはずです!!」

「そういえばカオルって、何か詳しいものってないのか? 何でもいい、例えばプラモンに詳しいとか、歌なら自信ある、みたいなの」

「それは……」


 いちおう聞いてみたが、カオルにオタク的なイメージはない。くわえてファッションやら料理も、人に教えられるほどではないはずだ。


「特撮とかそっち系なら詳しいじゃん」

「それは!?」

「恥ずかしがることはない。特撮好きも立派な趣味であり、アイデンティティだ」

「お姉ちゃんは見た目とか体裁を、気にしすぎなんだよ」


 しかし特撮は、何とも扱いにこまる。基本的には男の子趣味であり、それをメインコンテンツにするストリーマーは既にいる。その点は悪くないのだが、容姿も含めてストリーマー向き。かといって高校生のカオルをデビューさせるのも気が引ける。


「それは! そうかもだけど……」

「ひとまず、ショート動画や、逆に無編集動画の選定、あとはアシスタントってところか」


 ある程度人気のストリーマーには、その配信の『見どころをピックアップする動画』が投稿されるようになる。これは一歩間違えば盗作などの権利侵害に抵触するが、しかしながらそういった動画が入り口やコンテンツの嵩ましになり、基本的にはプラスに作用する。


 大手の切り抜きならこれだけで生活できるレベルまで再生されるので、とくに手をかけなくとも勝手に増えていくのだが…………伸び悩む中堅以下のストリーマーの中には、宣伝目的で『密かにファンのフリをして切り抜き動画などで盛り上げてほしい』と依頼が来ることもある。ショート動画に限らずこれらの仕事もビジネスになっており、中には政治家などが人気取りや印象操作に利用する事もある。


「ショートは分るけど、無編集って?」

「あぁ、ようするにノーカット版やオマケの追加映像だな」

「あぁ~」


 そして無編集動画だが、当然最低限の編集は入れる。これは主に、有料会員向けの(一般公開された動画の)ノーカット版映像の作成になる。あまり表に出てくることのない仕事だが、『有料会員はそれなりに集まったけど、特典を用意する暇がない』ってストリーマーは多く、そういった相手とやりとりしていると『予算内で何かコンテンツを作って欲しい』って話がよくあがる。


「えっと、そういうのは、ちょっと自信が無いので…………アシスタントなら。その、お茶くみとか、肩揉みや…………それこそ、どこでも……」

「さすがにその程度の事にお金を払う配信者は居ないな」

「はぅ」


 アシスタントは、顔出ししていないバーチャルアイドルに多い仕事だ。事務所所属だと『素肌さえ映すのNG』ってところもあるが、そんな制限が厳しい中で料理配信などをしようと思うと、どうしても手が足りなくなる。基本的には身内や事務所スタッフが協力する形になるが、そういった相手がいない、あるいは技術指導や機材的な問題で外部スタッフを雇う場合もある。


「もちろん何かあれば頼むが、これはパソコンの練習も兼ねているから、苦手でも出来る範囲でやれることを探さないとな」

「うぅ、がんばります」


 正直なところ、カオルならデビューさせれば結構なところまで行けると思う。顔は隠すとして、スタイルがいいので間違いなくサムネイルでガッツリ釣れるし、男の子趣味なのも(異性をターゲットにする際)かなり強い。そしてやはり、ちょっと天然でプライドが高くないところがいい。リスナーが表立って嫌う事は少ないが、やはり女子力アピールされても男は理解できないし、半端にしっかりしていると"推す"って感じではなくなってしまう。


「あとは…………いや、忘れてくれ」

「えぇ、気になります。何ですか??」

「営業やマネージメントだな」

「はは、それはお姉ちゃんには無理だよ」

「うぅ、さすがに……」


 もちろん丸投げは出来ないが、中には出来るものもあるだろう。ストリーマーはもともと1人で何でもこなすので、分からないところがあれば教えられる。それより重視されるのが信頼であり、そこが匿名で活動するストリーマーの大変なところになる。


「まぁ、まずは簡単な動画編集と選定作業だな。この作業、なかなかキツイぞ。なにせ数時間の配信を、リスナーの反応も合わせてチェックして、その中から決められた尺にあうよう、見どころを簡潔にまとめるんだから」

「うぅ、がんばります」


 ともあれ、(専業として生活費を稼ぐまで目指さないのなら)副業としてオススメできる部分もある。いちおう技術職で、編集ソフトを使えこなせるのはセールスポイントになるし、在宅ワークであるていどマイペースに仕事をさばける。


「まぁ……」

「「????」」

「……今は割り振る仕事、ないけどな」

「はぅぅう!!?」




 そんなこんなで少しずつ様子を見ながら、カオルに仕事を割り振ることにした。





 近況報告でも触れましたが、コンクールに向けてほかの作品の修正作業にあたるので、この作品の更新を「不定期」に変更します。次の更新や、そのペースはちょっとまだ言及できないのですが、この作品もカクヨムコンにエントリー予定なので、よければ応援してもらえると助かりますし、モチベーションがアップして更新頻度があがるかも? とまあそんなところで、ご迷惑をおかけします。

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俺はこの田舎で人生をやり直す。 行記(yuki) @ashe2083

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