#044 スポーツ用品

「これと…………あっ! あとコレも見たいです!!」

「いや、さすがにそれは……」


 今日はカオルとスポーツ用品店に、水着やプールなどを見に来た。来たのだが…………カオルのテンションがおかしい。というか、ブーメランパンツは流石にない。


「普通に、短パンタイプでいいだろ? 長めのヤツで…………これとか??」

「そんな、それじゃあただの短パンじゃないですか!」

「そうだが??」


 それはさておき、やはりこういったお店は極端に男女で分かれていないのが助かる。これが洒落たお店になると、男は女性モノの販売エリアに入るのもキツくなる。


「ぐっぬぬ…………と、とりあえず、試着してみましょうか」

「え? 必要ないだろ? 腰回りさえ入れば」


 本当にこのタイプの水着は楽だ。基本ダボダボで、あとは紐でウエストを調節して終わり。女性と違って(カップサイズなど)チェック項目が極端に少ない。


「ダメです!! せっかくのごうほ…………コホン、ちゃんと確認しないと!」

「ん~、まぁ、たしかに不良品が無いとも言い切れないしな」


 そういえば昔ネットでアウターを買ったら、妙に袖が細くて手が通らないって事があった。不良品に気づいて後から返却するのも面倒だし、いちおう試着しておくか。


「はっ、これは!!」

「ん? あぁ、インナーだな」

「おぉ……」


 まじまじと付属のインナーを観察するカオル。短パンタイプはユトリのある構造なので、はみだし防止でブーメランパンツのようなインナーが付属する。


「それじゃあ、試着して……」

「待ってください! 忘れものです!!」


 付属のインナーを手にしたカオルが、更衣室に向かう俺にインナーを押し付けてくる


「あぁ、使わないし、別に」

「はい? 何を言っているのですか? ほわい??」

「いや、家で着るなら最悪無くてもいけるし…………なんか(試着するの)嫌じゃね?」


 いちおう中に冷感タイツ(スーツなどの汗染みや貼り付きを防止するもの)を履いてきたので直接肌に触れることはないが、それでも不特定多数の人が着たであろう下履きは抵抗がある。それにそもそも、伸縮性のある生地でサイズなんてあってないようなものだ。


「そんな、せっかくのチャンスなのに!?」

「こういうのはサイズとか関係ないんだよ。それじゃあ……」

「あぁ、そんな」


 崩れ落ちるカオルを無視して試着室に入る。





「おまたせ。これに……」

「え? なんで服(上着)を??」

「いや、着るのは下だけだし」


 ズボンは脱いだが、上着はそのまま。あとはタイツの上から水着を履いて終わり。ウエストまわりや不良品を確認するだけならコレで充分だ。


「えっと、その、実際の雰囲気とか、あと、他のも試着して……」

「いや、これでいいから。他のはもう(試着しないで)返すよ」

「そんな、あんまりです。楽しみにしてきたのに……」


 この世の終わりのような表情で膝をつくカオル。やはり女の子と言うべきか、服選びが本当に好きなようだ。しかし男、というか俺は即断即決。とくに今回は短パンタイプの水着なので、色味いがいに比べるところはないも同然だ。


「ほら、次はプールを見に行こう。よしよし」

「うぅ、水着が…………合法が……」


 非合法の試着って何だよって話はさておき、しばらく頭を撫でたらあっさり落ち着いてくれた。





「うぅ、結構しますね」

「本体より、オプションの方が全然高いな」


 プールの展示を見に来たが、(シンプルな)プール本体は安いものの、ちょっとかわった浮き輪や保全用品はそれぞれなかなかのお値段だ。もちろんネットで買えばもう少し安くすむのだが、それでも一式そろえるとなると結構いってしまう。


「その、無理しなくても……」

「いや、大きいのを買おう。まぁ、買うのはネットだけど」


 ミニバンをレンタルしたら1日1万超、そこに駐車場代やら食事代を追加したら、まだまだプールの方が安上がり。それに、すでにご褒美の格下げをした手前、これ以上の格下げはモチベーションの低下や俺の沽券にかかわる。


「うぅ、それならせめて…………あっ、その……」


 鞄に視線をうつし、うなだれるカオル。


「いや、気にしなくていいよ。これでも独身貴族。女子高生の財布をアテにするほど困窮はしていないから」

「ですがその……。やはりアルバイトを……」


 そういえばカオルはアルバイトをしていない。基本的にお小遣いでやりくりして、足りなくなったら交渉次第って感じだ。


「アルバイトをする事じたいは社会経験だし、良いと思うが、まぁ、やるにしても大学生になってからでいいんじゃないか? アルバイトにかまけて成績や、それこそパソコンの試験を落としたら本末転倒だからな」

「それは、その……」

「そうだな~、手伝いをして(追加の)お小遣いを貰うのも良いんじゃないか? 親としてはその方が安心だろうし。それこそ俺だって手伝って欲しいとおも……」

「それです!!」

「はい??」

「手伝います! 私! ケイばっかりズルいです!!」

「いや、まぁ……」

「お願いします! 何でもしますから!!」


 しかし正直なところ、パソコンを使えないと頼める仕事は本当に限られる。しかし……。


「ん? そうだなぁ…………いっそ、動機づけにやってみるのも、ありかもな」


 本格的なものを期待しなくとも、無理のない範囲で仕事をまわし、パソコンの練習がてらそれらをこなしてもらう。とうぜん大したことはできないが、報酬も見合って減らせば負担は無い。


「えっと……」

「あぁ、ちょっと考える時間が欲しいけど、その方向でいこう。まずは何ができて、どのくらい時間がかかるのか、テストだ」

「はい! がんばります!!」




 こうしてバーベキューセットを購入するのをすっかり忘れつつも…………カオルに出来る仕事を探す事となった。

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