#027 憧れ
「はぁ~、あぁは言いったものの……」
家に帰り仕事をこなしながらため息をつく。番場さんの娘さんは確かに心配だが、やはり面倒なのと、人様の将来に関わる重圧がジワジワのしかかってきた。
「たしかゲーム系だったよな」
最近、まったく出来ていないが、俺も人並みに嗜んでいた時期はある。仕事にも関係あるし、せめてウケの広いドリッチあたりは買ってもいいだろう。
「うわっ、こんなにするのか……」
断片的に聞いてはいたが、最新ハードの価格高騰がエグすぎる。性能重視のネオステーションなんて、本体だけでパソコンが買えてしまう。たいしてライト層向けのドリッチは安く見えるが、これだっていい値段だ。
「やっぱり時代はストームか」
こうなってくるとパソコンで出来るストームの安さが光る。パソコンという大きな初期投資こそ必要だが、安価なインディーズゲームから日本語非対応のマニア向け海外ゲームまで幅広く楽しめる。(発売こそ遅くなりがちだが国内向けコンシューマータイトルも増加傾向)それになにより、
MODはようするに改造ツールであり、日本では違法行為という印象が強いものの、海外だと購入したソフトは自身の所有物であり、カスタムも『楽しみ方の1つ』として確立している。くわえて一部のタイトルは、配信企画向けのカスタムが前提となっており、これは決められた遊び方しかできないネオステやドリッチでは出来ない芸当だ。
「そういえば、
ケイあたりは持っていそうだが、カオルとジュンはゲームの印象がまるでない。親からしたら嬉しい話だが、女の子とは言えここまでゲームに関心がないのはレアパターンだろう。(実際の普及率は年々低下して、現在は50%をわっている)
「ひとまず、ドリッチだけでも買っておくか」
ひとまずと言いつつも最上位モデルのオプションフルセットを購入する。そこはあくまで仕事道具。いざって時に『そのゲーム、専用マイクがないとプレイできないよ』となっては周囲に迷惑をかけてしまう。
「あとは…………ケイが帰ってきたらだな」
*
「ねぇねぇ! 若宮さんって、あの若宮さんだよね!?」
「はい??」
突然の意味不明な問いかけに困惑するケイ。相手はクラスメイトの女子ではあるものの、普段接点はなく、『名前だけ知っている他人』といって差し支えない。
「ほら、配信関係のお兄さんがいる……」
「わぁ! ちょっと、やめてよ!!」
慌てて制止するケイ。そもそも学校で家の話をあまりしないものの、異性の従兄と同居している事や、配信関係の仕事を始めた事は秘密にしていた。
「「…………」」
周囲の視線が集まる。これが社交的な人気者なら質問攻めにあっていただろうが、ケイはいわゆる陰キャであり、周囲の反応は聞き耳を立てる程度にとどまる。
「えっと、番場さんだよね」
「そうそう。バンチョー(あだ名)でいいよ!」
彼女の名は番場千代。母はパソコン教室を経営している。
「あぁ、それで、えっと、そういうの、言っちゃうのはよくないと思うよ」
「あ~、あれだよね。特定とか。ごめんごめん」
軽い反応に、ケイの表情が一層引きつる。悪意は無いのだろうが、不用意というか、とにかく印象は『性格的に合わない』であった。
「えっと、そういう事だから。ぜっったいに! 言わないでね」
「うん、わかってるって!!」
「「…………」」
『話はそれで終わり』と顔で訴えかけるケイと、『それで続きは?』といった雰囲気を放つバンチョーの対決。この場合、圧倒的に不利なのは陰キャサイドのケイだ。
「えっと、"従兄"のお兄ちゃんの話は、私から言えることはないかな……」
周囲に聞こえるよう、従兄の部分を強調するケイ。これならまだ、周囲は都合よく解釈してくれるだろう。
「えぇ~、仲いいんだよね?? 私、仲良くしているトコ、見ちゃったんだよね~」
「ぐふっ」
「話、聞かせてよ! 配信とか興味あるんだよね~」
「えっと、たしか番場さんの家ってパソコン教室だったよね? 家の人に聞けば??」
「あはは、ウチ、そういうの(授業内容)じゃないから」
激しく悩むケイ。正直なところ無視したいのだが、そうすると不用意にある事ない事言われかねない。
「えっと、仲はいいけど、従兄だし、それにそういうお仕事って守秘義務とかあるから、教えられないし、無理に聞くものでも無いと思うよ」
「それはそうかもだけど~、そこを何とか! 私、ゲームとか歌で食っていきたいんだよね!!」
無神経な部分はあるものの、それでも彼女なりに核心を回避して話す。バンチョーも進路を意識する中学生であり、必死になるのも無理からぬ事であった。
「いまどき、ネットで調べれば出てくることしか教えられないと思うけど…………自分で調べて、なにかしていないの??」
「ん~、私、そういうのよく分からなくって、ゲームとか歌う"くらいなら"できるんだけどね~」
「…………」
ついに地雷を踏み抜くバンチョー。陽キャでも熱意があるならそれはそれでいいものの、『くらい』などという気持ちで務まるほど配信業は容易くない。
「えっと、配信とかで稼いでいる人たちの倍率って知っている?」
「あぁ、難しいんだっけ? だから……」
「だからなに!? 自分では努力せず、誰かに寄生して全部やってもらおうっての!!? 高いところまで連れていってもらえれば、私の実力なら余裕だって思っているの!!!!」
「「…………」」
キレるケイにクラスが騒然となる。ケイも従兄に手助けしてもらった口ではあるが、それまでも行動はしていたし、今も苦労と努力を重ねている。やり甲斐も感じているが、悩み、辞めてしまいたいと思った事だって当然ある。
「えっと…………ごめんなさぃぃぃ!!!!」
「「えぇ……」」
とつぜん飛び上がり、そのまま膝を折りたたんでの着地。いわゆるフライング土下座である。そこまでの高さでは無いものの、それでも木製の床に膝を打ち付け、痛々しい音が響いた。
「その、私、考え無しで無神経なトコあるのはわかっているけど、これが私だし……。でも、ゲームとか歌が好きなのは本心で、やっぱり夢は捨てたくないって言うか……」
「ちょっと、あぁもう、わかったから頭をあげて!」
「そこをなんとか!!」
「……うぅ、いちおう、話は通してあげるから」
「ホント! マジ助かる!!」
「ちょ、抱き着かないでよ」
「チューも付けちゃう。ん~」
「いや、いらないから!!」
土下座につづいての抱擁。良くも悪くも、バンチョーには勢い(と同性愛者の気配)があった。
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