#028 情熱の根源
「まさか、番場さんの娘さんがケイのクラスメイトだったとはな」
「あはは、世間は狭いね」
夜、なんとケイからも例の進路相談の話を持ちかけられてしまった。しかし考えてみれば人口の少ない田舎で、しかも同じ町内。言葉通り狭い世界の話で、意外でも何でもない話だ。
「番場さん…………お母さんの方からも頼まれているけど、俺としてもオススメはしないし、ひとまず断念させるつもりだ」
「うん、私もそれが良いと思う。問題は……」
「本人が納得するかだな」
「「はぁ~~」」
こういうのは頭ごなしに否定しても納得できるものではない。いや、論理的に説明してもだろう。とくに社会経験のない子供の場合、基準が『考えを肯定してくれるかどうか?』ってウエイトが大きい。頭では納得しても、心は納得してくれないし、それを素直に感謝するのはもっと難しい。
「ちなみに、そのチヨちゃんって、どんな子なんだ? ケイから見て、何か見込みはありそうか??」
「ん~、いちおう同じクラスだけど、ほとんど話したこともなかったしなぁ……」
ハッキリ言って才能というか、見込みが無いのは確定している。ケイと比べると分かりやすいのだが…………ケイは自分でも絵を描き、投稿していた。絵なんて描こうと思えば園児にだってできる。それを挑戦する前から理由を並べて他人に頼るのは、順序が逆であり、それで自立するのは不可能だ。本人は気づいていないかもしれないが、そういうタイプは『別の何かが先にあり、消去法でソレを好きと言っている』にすぎないのだ。
もちろんストリーマーは多種多様で、ヒットする可能性はゼロではないが、すくなくとも俺が事務所の面接官なら、書類選考の時点で落とすレベルで魅力がない。つまり『個人で勝手にどうぞ』だ。
「いちおう俺も仕事でやっているから、見込みがなくても金さえ落としてくれるなら願ったりなのだが…………コンサルはやっていないし、つか、説得するにも材料がな」
この業界には、中堅配信者が成功体験を語るサロンや指南本的なものが大量にでまわっている。その内容が間違っているとまでは言わないが、読んでみると当たり前・ネットで調べれば出てきそうなことしか言っておらず、『運よく先行逃げ切りを決めた中堅止まり』な印象が強い。その成功例をなぞって行動を起こせば、その中の数%は成功するだろう。しかし逆に言えば『成功率は一桁%あれば良い方』であり、二匹目のドジョウ理論で9割超失敗する。
「あぁ、それじゃあいっそ、ガッツリ搾り取って諦めさせるとかは?」
「酷いこと言うな……」
「あっ、いや、今のは!!」
半分冗談なのはわかるが、ケイにその子の夢を後押しする意思が無いのは透けてみえる。本当に思い入れのない相手で、これなら話が拗れて『ケイとの関係もこじれる』って展開は心配しなくてもいいだろう。
「まぁいいや。話はかわるがゲームってやるか?」
「え? 私?? まぁ、プラモンやトワキンくらいなら……。でも、そんなに自信無いよ。最近は全然やっていないし」
「バイオカートやワークラは?」
「バイオカートは持っているけど、ワークラは持ってさえいないかな」
「そのあたりは配信で定番だし、イラストのネタのためにもやっておいていいかもな」
「あぁ、うん」
「ってことでドリッチ、買ったから。そのうち届くと思う」
仕事を辞めて嬉しい要素として、平日昼間が自由に活用できる点があげられる。役所に自宅配送。閑散期ならまだいいが、会社員時代は免許の更新すら行かせてもらえなかった事もある。
「なんか意外。お兄ちゃんってゲームするんだ」
「昔はやっていた時期もあるが、今はさっぱり。だから今更ながら買った。まぁ、半分遊び、半分商売道具だな」
商売道具なので、当然のように経費に計上する。自営業なので俺の懐から出るのは変わりないが、税金でいくらか控除される。
「ケイって、真面目だよな」
「そ、そうかな??」
「裏方向き、俺と同じだ」
「そ、そぉかな~~。エヘヘ……」
ストリーマーは大半が自営業であり、しっかりしていた方がいいのだが、売れっ子は個性的で社会不適合者な側面も持っている。ようするに、どこかしらぶっ飛んでいないと務まらないのだ。
俺たちの目からすれば、チヨちゃんに見込みはないものの、それも振り切っていればワンチャンあるのがこの業界。ともあれ、アニメの熱血主人公じゃあるまいし1%に賭けるような事はしない。するにしても、確率を高める努力はさせる。
「今は学校やイラストの仕事優先でいいが、二の次三の次くらいにはゲームやアニメ、あとはネットスラングをおさえておけ。そのあたり俺も偉そうに言えないのだが、詳しいと結構いい武器になる」
「うん、わかった! ってことで……」
「??」
「実は、見れていないアニメが溜まっているんだよね~。その、一緒に見ても……」
「そうだな……。急ぎの仕事もないし、明日は休み。付き合うか」
「やったぁ!!」
けっきょくその日は大作アニメを一気見して…………見事に貫徹してしまった。
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